真・闇の会夢幻格闘化計画{Dream Duel Project}大番長After.Age表紙
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「屍鬼隗々」

序章その四・新規登場人物

マチルダ=マテウリ
ランスクエストに出場。芋女である。
5秒CM
斬真豪
「ただいまより大番長AAの上映会を開催する!!
 皆静粛に聞く様に。」






<京だった場所>
(BGM:23 silence)
単刀直入に簡潔に言えば、今現在。
京に侵攻している全学連軍は
孤立して右往左往していた。

何故ならば前回の京の全壊で
失敗に終わった京奪回作戦の戦闘により、
当初予定していた水食料・燃料の
現地調達が事実上不可能になり、
更に京の住人をも受け入れた事により、
その問題は益々悪化の一途を辿る事になったからだ。
更にこのまま帰投するにしても関ヶ原に駐留する
神威軍に襲われる可能性も低くはない。

このまま三国に帰投するまでに最悪、
飢えと疲労と負傷と、そして戦闘により、
大半が死亡すると考えられる。
これを見かねたみちるが苦渋の決断により
京の住人を見捨てざるを得ないと主張するが、
そんな事をすれば全学連から人心は離れ、
益々神威の思うツボであると、
その決断を豪は拒否する。

「だったらほかにどういう方法があるのよ?
 確かに人心は離れるかもしれないけど、
 このままだと進退窮まってじり貧状態じゃないのよ。」

みちるの主張は非情ではあるが、
その一方で今のヒーコラバヒンの状況では
一部の隙も無い正論と言わざるを得ない。

「他に奇抜な妙案があればいいけど、
 幾ら精神論で頑張っても
 悪いけど背に腹は代えられないわ。
 それを抜きにしても関ヶ原に駐留する神威軍が
 虎視眈々とこちらの隙をねらっているというのに。」

「じゃあその関ヶ原の神威軍をフクロにして
 飯を強奪すればいいじゃん。
 ついでに関ヶ原を占領して魔界孔を
 妖滅しちまえば一石二鳥って奴だ。
 速攻でチャージtoボンバーしちまおうぜ。」

誰だよそんな無理ゲーを口走るのは?
よく見るとサワタリだ。

「ならば問おう、サワタリよ。
 今の満身創痍の飢えに食料や燃料等も
 満足に無い状態で一体どうやって
 関ヶ原の神威軍と交戦した上に
 撃破・占領するというのか?」

無理ゲーなサワタリ案に対し、
久那岐の的確な反論が返ってくる。
確かに現在の状況を鑑みるに、
ヤケのヤンパチで関ヶ原に戦いを挑んだところで
持久戦に持ち込まれればどうする事も出来ず、
即日決戦に持ち込めたにしても
今現在の主力特体生のコンディションを鑑みるに、
失敗する可能性の方が非常に高い。

「まずは関ヶ原を攻めるか三国に撤退するか
 どちらにしても京の跡地には
 多少は使える資材や食するに耐える
 食料が有るやも知れん。
 逃げ遅れたもののまだ生きている人々も
 いる可能性を考慮に入れねばならんし、
 故に方針を決定するよりも
 家捜し作戦・羅生門を実行したいと思う。
 何か異論は?」

「ふむ……異論はないが、
 我からも一つ言いたき儀がある。」

「言いたい事?」

豪の質問に対してマホコが発言をする。

「今度の作戦で使った肉もどきのうち、
 まだ少なからず残っているものが有る故、
 それも食料に加えて貰いたい。」

「ふむ、今回の緊急事態にそれは非常に有り難い。
 異論がなければすぐにでも
 各自作業にかかって貰いたい。以上。」

<京だった場所の焼け野原>
(大帝国BGM:遠き世界)
硝煙と残り火と煙がくすぶるここは
かつて京だった場所の焼け野原だ。

あの大規模な無数の爆発が起こって
一夜しか過ぎていないそのその場所は、
未だにその爆発の爪痕たる残り火が
そこら変中に燻っており、
まるでサウナ風呂の如き
熱くて死ぬぜ状態を醸し出している。

そこで作業に従事しているのは
久那岐に凛に田中に百瀬率いる一班だ。

「あ〜、だめだこりゃ。
 完全に炭化してやんの。」

田中が苦労してやっと見つけた
巨大冷蔵庫の中には
既に炭化した食料が
ぎっしりと詰まっている。
これじゃあケツを拭、
いや鼻紙にもなりはしない。

「こっちの貯水タンクには水が一滴もありませんね。」

凛が建物の残骸の屋上に有る
貯水タンク開けながら呟く。
そこに貯蓄されてあった筈の水は
猛烈な勢いの火炎の温度により
跡形もなく蒸発してしまったらしい。

そのうちに何を思ったのか、
久那岐は片膝を地面につかせ、
そして片の掌を地面につかせて
なにやら探索を開始する。

どうやら人狼系の能力者特有の
鋭い五感を駆使した探索らしい。
そのうちに何かを発見したのか、
おもむろに地面に手刀を一刺しする。

するとどうであろうか。
地面の中から埋まっていたであろう
巨大な業務用の倉庫が出てきたではないか。
肝心の中身は…大量のレトルト食品が
ところ狭しと積み込まれている。
ただし賞味期限はとっくに過ぎているが。

「構わん。腹が減っては戦が出来んからな。
 それに臭いをかいだが何の問題もなさそうだ。」

「つーか建物の燃え後の木材って
 燃料とかに使えね?」

ちょっとまった。今百瀬がいい事言った。

「確かに程良い感じで焼かれて
 黒炭化していますね。」

<京だった場所の洞窟>
(BGM:27 All The Time)
次に京だった場所の洞窟に視線を移してみると、
大破壊を逃れたであろう天然の洞窟があった。
そこの中であるなら何かあるにちゃーない。
そう思ったのはエクレールにマリーシアに
マホコにユキ率いる一隊だ。

それら一隊はどうやら既に飲料水や
山芋をハケーンして確保しているらしい。
ちなみに山芋は一部適度に業火の熱に晒され、
丁度いい塩梅に蒸かした山芋と化している。

「丁度食せる状態になっているではないか。
 調理の手間も省けてさい先有り難い。」

そう言って蒸かした山芋を頬張るのは
それらを発見したマホコだ。

「しかしこの洞窟は非常に蒸し暑いな。」

「ボクの地質学の知識による見立てだと、
 この洞窟の構造は外から来る熱風を
 もろに吸い込む構造になっているから、
 多分中に人とかがいても……
 今頃はとっくに灰をやられ……
 その前に黒炭化していると思うよ。」

ユキの言葉を裏付けるかの如く、
外に比べて洞窟内の温度は
一夜開けたにも関わらず、
一回りも二周りも高くなっている。

これで大破壊時の温度を想定すれば、
嫌が応にも戦慄と暑さの想像で
汗が後から後から吹き出てくる。

「でももしと言う事も有りますし、
 諦めるのは早計ですわ。」

「ふむ、確かにエクレールの言う通りだ。
 例え99%の絶望しか無くとも、
 1%の可能性が有るならば
 前に進むしかあるまい。
 ……皆目の前を見るがよい。」

マホコが指を指した先、
その前には堅く閉ざされた
シェルターの扉があった。

そのシェルターの扉に対し、
一目見た限りでは逃げ遅れた者が
必死にシェルターの扉を開けようとして、
それが叶わずに熱風の直撃を受けて
その姿のまま黒炭化したものと
思わしき遺体が有った。

だがよくよく見ると……
「この手の取っ手の持ち方からすれば、
 外から扉を閉じた直後に
 熱風で黒炭化したものであろう。」

マホコの言う通り、
黒炭化の遺体の手の取っ手の持ち方は
扉を開こうとする行為ではなく、
むしろ外から扉を閉める姿勢を取っている。

「恐らくは中にいるであろう者達を
 守護らんが為に一人残って
 恐らくは故障したであろう
 シェルターの扉を外から閉めたのであろう。
 何者かは知らぬが名も知れぬ
 勇者の冥福を祈っ…これは…!?」

その黒炭化した遺体に触れた途端、
マホコはある事に気づいた。
黒炭化した遺体だと思われた人物は、
黒炭化しているのはほんの表面の部分だけであり、
そして付け加えるにその人物は何と
黒炭化した部分の下より確かに息をしていた。

「これは……何という偶然か。
 洞窟の汚泥や灰をしこたま被ったが故に
 偶然にもそれが防御壁の役割を果たし、
 熱風の難を逃れておるではないか。
 しかしそれを考慮に入れても
 何という驚嘆すべき生命力か。
 ユキ、水はあるか?」

「うん、一応持っているけど。」

マホコはその人物にこびりついた黒炭を
全てぬぐい去るとユキから受け取った水で
残りの汚れを洗い落としていく。

そしてその人物は……
ツインテールに褐色の肌が
特徴的な格闘家の少女だ。

「マリーシア、取りあえずはこの者の手当を。」

(OriginalBGM:02.make me funkyA)
とマホコが言ったその時だ。
突如少女の鼻がなにがしかの臭いを嗅ぎつけたのか、
クンクンとマンガの描写の如く蠢く。

そしてその瞬間だ。
閉じていた瞼がかっと開き、
野獣の眼光を放ったかと思うと……
いや、思う時間すら与えずに、
次の瞬間にマリーシアの持つ
蒸かした山芋に向かって飛びかぶりついてきて、
見事に山芋だけを奪取する。

それは反応するには余りにも速く、
マリーシアは1ミリも動けずにいた。

Grrrrrrrrr……

それはヤジューの唸り声。
余りにも空腹だったのであろうか、
少女は山芋を格闘ディナーの達人の如く、
一瞬にてまるで消すが如く
胃袋の中に葬り去ってしまう。

「これは……蒸かした山芋!!

その内に山芋の持ち主である
マリーシアに少女の視線は移る。

カミタマテ゛ツカ!?
 アナタカ゛…カミYYYYYYYY!!


山イモ女が……マリーシアの手を取って
自分の頬に擦り擦りしている。
どうやっらこれが山イモ女にとっての
親愛の証という事であろう。

コホン。

マホコがさり気なく少女にも聞こえる咳をする。
それに気づいたのか……

「……おおお!?あなたたちゃー、一体誰デスか!?
 名前を……いや、他人に名前を問う時はまず、
 自分から名乗るのが礼儀デス。
 私はこの京にてにっくきワルの魔物共から
 町や町の人々を救うべく私的レジスタンスを
 率いているマチルダ=マテウリと申します。」

「全学連所属、マホコ・P=マサイだ。
 こちらは仲間の成瀬ユキ、
 後ろの二人はマリーシアにエクレールだ。
 早速ですまぬがそなたのいるその状況を
 詳細に説明して欲しいのだが。」

「この状況…デスか?」

<1日前の京の洞窟>
(BGM:12.Confort the enemyB)
時を遡り、一日前の洞窟に移る。
そこでは京崩壊の異変を野生的な感で
察知したマチルダが京の住人や
レジスタンスメンバーに対し、
シェルターにもなる秘密のアジトに
トンコする様に呼びかけている。

避難の対象はかなり多人数であったものの、
マチルダと愉快な仲間達の
迅速かつ的確な誘導が効を湊し、
あらかた避難が完了する。

たたた大変じゃああああ!!!!

だがよく見ると
一人の老人がアタフタしていた。
何事ですかとマチルダが問うと、

「どうしました?藪から棒に?」

「孫がまだ避難しとりませんのじゃ。」

「……仕方がありませんね。
 時間はまだありますし私がとっとと行って
 レスキューしてきますデス。」

迷子のキッズをレスキューする。
判断するや否や疾風の様な行動で
マチルダは周りを探索する。

その疾さといったら格闘家でありながら
並の忍者に匹敵…いや凌ぐと思われる動きだ。
しかし京の崩壊はいよいよ本格的に開始まり、
マチルダの身にも何の呵責も無く
落石の洗礼を叩き込んでいく。

そして数刻後…マチルダは戻ってきた。
それも当初の予定を遙かに越える
十数人の迷子キッズを連れて。

だが一難去ってまた一難が盗人の如く訪れる。
今度は避難民全員の死活問題に関わってくる
非常に重大な問題{シリアスプロブレム}が持ち上がってくる。

崩壊による予想外の衝撃が加わった為に、
シェルターの扉の自動開閉機能が
完全に故障してしまったのである。

「強い衝撃で扉の自動開閉機能が故障してしまって
 扉を閉めるには外から強い力で閉めるしかない……」

これは困った。非常に困った。
内から無理矢理にバカ力で閉めようとすれば、
扉自体がオシャカになってそこから
熱風や火炎等の災厄が中まで来る。

かと言って扉の故障を
ちんたらと直している時間なんて
とてもじゃないがそんな時間は無い。
足りないオツムでマチルダは考え、
そして即決する。

「私が外側から扉を閉めるデス。」

「e〜〜〜!?
 ちょっと待てよマッチの大将!!
 確かにそうする事が
 一番手っとり早いかも知れねえけんど、
 それをやったらアンタぁ、
 確実におっ死んじまうぜ!!」

むろん仲間達はもう反対する。だが……

「あ……」

マチルダがあらぬ方向に
視線と指先を移して呟き、
仲間達の注意が一瞬移った瞬間だ。
疾風の如き速さでマチルダは
シェルターの外に出て扉を閉めてしまった。

「マッチの大将!!」

マチルダの意図に気づいた仲間達は
外に出たマチルダを助けんとするが……

ドントオープンザドア!!
 開けちゃイヤんデス!!


と外から拒否られた上に……
今開けたら自分達だけではなく、
シェルター内の者全員がオダブツとなる。

故に愉快な仲間達は泣く泣く
マチルダの救出を断念せざるを得なくなる。
そしてその瞬間……
京は崩壊の大爆音と共に
終焉を迎える。

<京だった場所の洞窟>
(大帝国BGM:遠き世界)
「かくかくしかじかな訳で…まだシェルター内には
 ぎょーさんの人々が避難中なのデス。」

あ…事情を話しながら
マチルダが山芋をぎょうさん
舌鼓を打ちながら食っている。

「成程…左様か。
 ならばシェルターを開けて
 避難中の人々を救い出さねばならぬ。
 誰ぞやシェルターの扉を開ける
 スキルの保持者はおらぬか?」

マホコの問いに対し

「ボクなら出来るけど……」

ユキが名乗りです。

「ユキか。そなたならば任せられよう。では頼むぞ。」

「OK。」

目の前にそびえ立つ扉、
それに対して先ずユキは
どの様な原理や動力で駆動するのか、
そして動力や扉の機能が生きているのか、
を念入りにチェキする。

勿論故障が原因でシェルターの扉を
クローズザドアー出来なかったが故、
マチルダがこんなヒーコラヒーコラな
目に遭ったのであり、
まずは故障した部分及び、
故障した理由もユキは詳細に調べていく。

判明したのは想定を遙かに越える
衝撃を駆動部分に受ける事により、
扉の駆動部分の基盤が
ドハデに壊れてしまっている事。
そしてプラグが千切れている事。

ぶっちゃけ部品交換をすれば
直る程度の故障なのであるが、
肝心の部品のスペアが無い。

その上にスペアが有ったとしても
一筋縄では直らない故障だ。
取りあえずはユキはまず
部品のスペアの確保の手段を考える……
考えるがしかしそんなものは何処にも無い。
何処にも無い。

「だったら他の機械から失敬しよう。」

ユキの発想の転換だ。
な訳で一同総出で周りの廃墟から
使えそうな部品を根こそぎ
かき集める作戦に出る。

「なぁ、これはどうだ?」

「いやそれどう見ても
 使いもんになんねーだろ。
 つーか機械ですらねーべや。」

「いやいやこれは電動式のおもちゃだし、
 中身をブチ撒けて使える部品とか
 以外にあるんじゃね?」

「んだな。」

愛拳ロボ・念仏のてつを見つけた!!

「これとかもバラしゃあ使えるんじゃん。」

吸引力の落ちない掃除機
マイルド・バイソン将軍を見つけた。

「これで配線の代わりに使えね?」

携帯ゲーム、3DOSのケーブルを見つけた!!

そんなこんなでマホコ率いる
愉快な仲間達によって周辺の瓦礫の塔から
あらかた使えそうなものを
かき集めてきたところで扉の修復に移る。

ジャンクの山からは
そのままでも使える部品、
ちょっと加工して使える部品、
異なる二つのものを
掛け合わせて作る部品など、
ユキを初めとする
機械系メンバーの面目躍如となる。

「取りあえずは動けるまでに
 修復したつもりだけど。」

だが現実は非情である。

「あれ、おかしいな?
 これできちんと動く筈なんだけど。」

動け!動け!!動いてよ!!!
シーン……動かない。

「あの……他に壊れている部分とか
 有るんじゃないでしょうか?」

マリーシアの助言が入る。
その助言に対してユキは考えた。
これは修理者{メカニック}がよく陥りやすいミスだと。

メカニックは故障した部分のみを修復せんが為に
そこの故障ばかりに目がいってしまい、
他の部分にも故障しているところがあるのに
それを見逃してしまう現象だと。

そして再びユキは沈思黙考する。
こういう状況の時は発想の転換こそが重要だ。

(OriginalBGM:13.Comiket Comical?)
「え〜と…他に故障しやすそうなところ……
 故障そやすそうなところ…故障…故障…そうか!!」

ティーン!!
とある重大な事を見落としていた事にユキは気づく。

「そうか…ボク達は重大な事を見落としていたんだ!!」

ある事に気づいたかと思うと、
ユキは動力源に繋がるケーブルを辿りながら……
ついた。ユキの思いついた目的地である動力源だ。

ユキが動力源の蓋を開けると……
動力源として存在している筈のBストーンが
モノの見事にひとかけらも存在していないではないか。
つまり一言で言えば燃料切れだ。

オマケに衝撃で動力源に繋がるコンセントが
ポロンとはずれてしまっている。
何てこったい。これじゃあ動くわきゃあねえ。

「灯台もと暗し……というやつか。
 これでは動くモノも動かぬというものだ。」

原因が判れば後はコーラでゲップをするよりも
簡単お茶の子さいさいだ。
動力源としてBストーンを補充したのち、
コンセントを差し込むと……
ほぉ〜ら、オープン・ザ・ドゥアー。

「おお…出られた……」

「ちゅーことは震災が終わったのか!?」

オープン・ザ・ドアーしたその瞬間だ。
シェルター内に避難していた難民が
安全を確信しながらゾロゾロと出てきた。

「マッチの大将は…おお!!いきている!!奇跡だ!!」

「まあ……何とか生きておりますデスよ。」

「ありがてえ!!ありがてえですお!!」

「めでてぇところでこれを見て下せぇよ大将!!」

シェルターから出てきた愉快な仲間が言うには……

「ホラホラ、このダンボール!
 敵からぶんどってきたってキツネ目の男が
 持ってきてくれたんスよ。」

マチルダが愉快な仲間の指さした方向を見ると。
そこにはダンボールにぎっしり詰まった食料が
ところ狭しと大量に山積みされていた。
そしてその山積みのダンボールの中の
ジューシーな食料が自分の胃袋を満たしてくれるのを
今や遅しと待ちわびているキッズも確認された。

うおおおおおおおん!!
 ここここれは何とも香ばしいデス!!
 早速皆さんで山分けしませう!!
 スライスしてパァンに挟んだり
 蒸かした山芋と一緒に食べたり
 ムフフゥ……デスゥ。」

「まずは子供から優先的に配ろうぞ。
 子供は食べ盛りの年頃だからな。」

マチルダの発案とマホコの提案により、
取りあえずは山積みのダンボール内の食料は
一部分のみキッズに支給される事と相成る。

まずはマホコ達の毒味をパスした食料を、
最初のキッズがマチルダ受け取る。
そして二番目のキッズに差し掛かったところで。
マチルダの食料に関して
恐ろしい程に研ぎ済まされた
野生の感がウォンウォン囁く。

まずは食糧難であるにも関わらず、
何故これだけの食料を何ら容易く奪えたのか。
そして分捕ってきた割には
食料には争った後がこれっぽっちも無い事。

そしてキツネ目の男が一体何者なのか、
という事が全く判らない事など。
それらの違和感をマチルダは
野生の勘で直感的に察知しているのである。

「ちょっとちょっとスイマセン、
 そこのブラックフェザーの人。」

「私……ですか?」

「そうそう、マリーシアさんでしたっけ?
 ふと思ったんですけどこのフーズは
 もしかして敵がわざと置いていった
 埋伏の毒難じゃないでしょうかね?」

「え?」

「ですからこれは敵による罠という事も
 十二分にあり得る訳デスよ。
 これだけの食料をアサーリと奪えたり、
 キツネ目の男の正体も誰も知りませんし、
 デスから……」

「それならば心配には及びませんわ。
 今し方私とマホコさんが毒味をしましたけど、
 これといって毒物劇物が混入されている様な
 様子はありませんでしたわ。」

「本当デスか!?じゃあ私もご相伴に……
 ちょいと待つデス!!
 ジスフードイズマンモスデンジャラスデス!!」

エクレールの毒味をしたという太鼓判を得、
マチルダも相伴に預からんとした時だ。
食料に近づかんとしたマチルダは
毒味で安全が確認されたであろう後の
至極安全であるフーズに対し、
危険が危ないと脳が警鐘を鳴らす。

毒味がなされて毒抜きである事が確認され、
安全という保障がなされているのに
何をいうちょるばいこの山芋女は?

と言いたくはなるが、
警鐘を鳴らすマチルダの
真剣そのものの表情を見れば、
嘘は冗談で言っている訳ではないと判る。

あぐっ……!!

それを裏付けるかの如く、
継承を鳴らした直以後に一人のキッズが
食べていた食料を手から落とし、
おもむろに苦しみ始める。

一同は困惑した。
いや……困惑せざるを得なかった。
というよりも予想外のトラブルにより、
困惑以外のリアクションを
取る事が出来ないでいる。

そうこうしているうちに
苦悶の表情を浮かべたキッズが

ガホッガホッ……

少なからず吐血を伴う嘔吐をし、
瞬く間に顔色を悪くしている。
この症状をみるに恐るべき速攻性を備えた
毒物が混入されている事を示唆している。

「ロバート!ロバート!
 しっかりして!!吐き出すのよ!!」

毒物を接種してしまった
キッズ・ロバートの側では
母親らしき人物が背中を必死でさすり、
嘔吐させるという手段により
毒物を体内に排出させむと試みるが……
全く持って焼け石に水以前の状態であり、
最早キッズの命は時間の問題と
思われていた時だった。

「背に腹は代えられぬ。
 こうなっては非常時の荒療治しかあるまい。」

毒の治療方法が有る、そう言ったのはマホコだ。

「これを飲み込むがよい!!」

マホコが懐から取り出したるもの。
それはマホコ自信が纏いし藁のムシロにて
特殊な精製法で作られた水戸納豆。
その触感はかの水戸の御老公の
練糸光圀{ねいとみつくに}が愛食し、
その効用は万病に効くと名高い納豆だ。

それをロバートの口にを開けて無理矢理押し込み、
大量に摂取させた後、

「マリーシア、後はそなたの出番ぞ!!
 そなたの黒き翼の癒使の力にて
 この患者の体力を回復させるのだ。
 水戸納豆を摂取させたはよいが。
 肝心要の体力が失われておるが故、
 体が水戸納豆を消化させるのに
 必要な体力が足りぬ。
 よってそなたが体力を回復させ、
 納豆を消化させて解毒をさせねばならん。」

「は…はい…!」

マホコが無理矢理に納豆を摂取させた後、
ロバートをマリーシアの癒使の力が
黒い翼を媒体としてロバートの体力を回復させ、
納豆を消化させるサポートを果たす。

だが遅い。新時代円盤のローディング並に遅い。
マリーシア一人では遅すぎる。
これでは解毒そのものに成功しても
ロバート自身の体力や体が持たない。

だがそこにもう一つの希望ホープが。
マリーシアと同じ黒い翼を持つエクレールだ。

(BGM:25 Warm glow)
「大丈夫…ボクがついているから。」

「エクレ……」

熱い熱い。まるで毒が消毒してしまいそうだ。
爆発しそうなくらい熱いリア充のアムールは
たちまちのうちにロバートの体力を取り戻させ、
体内からはまるで悪霊の如き毒素が
見る見る内に出ていき、
毒を対外に排出させる事に成功する。

「これで……何とかなった様だね。
 他に体調の悪い人はいる?」

第二第三のロバートを出してはかなわじと、
ユキが周りの面々に対して質問を投げつけるも、
幸いどうやらヤバいものを食べた者は
他にいない事が確認される。

「にしても何で毒が入っている事が判ったの?」

解毒成功に沸き立つ周りの中、
ユキがマチルダに対して何故に
毒が毒である事を見抜いたのかを問う。

「単刀直入に言えば
 食べ物に対する嗅覚デス。
 それガスットコドッコイの毒を
 見抜く事に成功したデスよ。
 それに…」

「それに…」

「これらの食料には……
 クンカクンカ……やはり!!
 毒が入っていないのはいわゆる
 表面の食料だけデス。
 内部の食料は毒が仕込まれているデス。
 しかも毒が入っていないのといるのと
 混在していて更なる混乱を
 誘発させようという意図も見えるデス。」

「という事はこれらの食料を用意したのは…」

「ボク達に害意を持ってこの食料を
 持ち込んできたと言うのは間違いないと。」

「何という狡猾な……」

毒を仕込んだ者のヒキョーさを
憤慨するマホコの脳裏、
その脳裏にある人物の姿が映る。
その者の名は死人使いロックだ。

「おそらく神威軍の……
 しかも斯様な姑息な手段を
 思いついて実行するともなれば
 きゃつしかあるまい。」

「ところでこの食料はどうするデスか?」

「決まっておるではないか。
 全部廃棄処分する。」

(BGM:18 comical)
ゲー!!!!

マホコの即決の判断にマチルダの表情が
コンマ0.1秒で失望120%の表情とかす。
それ程までにマチルダの
食に対する執着心は巨大な様だ。

「どうした、何故落胆するのだ?
 もったいないと思う気も理解らぬでもないが、
 毒入りでは詮無き事ではないか。」

「いやいやいやいや、それならば!
 毒の入っているブツだけにして下さい!!
 仕分けは不詳この私マチルダ=マテウリが
 しかとさせていただきますデスよ!!」

「しかしだな……」

「大ジョーVデス!!
 きちんと安全を確保する為に
 万全を期するつもりデス!!」

「そこまで申すのであれば…仕方があるまい。」

マチルダの底なしの食欲に、
マホコが折れた。ポキン。

「まあよい。食料関係はさておくとしてだ。
 ここで保護した難民を連れていかなければならぬ。
 その事についてはユキ、そなたに任せる。」

「うん、判った。」

<羅生悶・最奥>
(BGM::23 silence)
その頃の鈴麗蘭と十六夜桃花と鈴女は
神威がクランク・ロックと共に落っこちたと
言われる羅生悶・最奥の現場に赴き、
ここで起こった出来事の顛末を
事細やかに調査していた。

そこには禍々しい瘴気が
今にも吹き出してきそうな孔と、
破壊される前までは怪しさ大爆発の
儀式を執り行うであろう儀式の調度品が
ほぼ原型を止める事も無く、
ある物は粉々に粉砕玉砕大喝采され、
ある物は炎にやかれて炭化し、
既に本来の機能はとっくに喪失われている。
そして以前は偉そうにどでーんと
ふんぞり返っていたであろう、
石で作られた邪神像の粉砕された姿も。

にも関わらず、
儀式が行われていた頃のそれと
寸分違わぬまがまがしいしょう気が
傍若無人にあちこちと蠢いている。

おそらくは前回の死闘によって
命を落とした連中の亡霊も
含まれているのであろう。

「こりゃあまた見事なまでに
 ハッチャメチャーに潰れているでござるな。」

「全くだ…ここで何の儀式が行われようと
 していたのかこれでは皆目判らぬではないか。」

麗蘭の言う通り、ここの今の惨状では、
いくら調べたところでこの場所で
何を行おうとしていたのかは判別がつかない。

「どうせ京諸共私達を葬ろうとしたんじゃないの?」

桃花がパッと思いついたことを
ストレートに口にする。
余計な情報を殆ど取り入れてないが故の
本質をついた忌憚無き意見だ。

「明察だな、桃花。
 恐らく十中八九はそれが目的なのであろう。
 だが我々を葬り去る事のみが目的と
 断ずる事は出来ぬかも知れぬぞ。」

そう言いながらも麗蘭は
更に丹念に儀式後のガサ入れを続行。
色々な調度品のが出てくる中で、
時々発見される儀式の調度品とは
明らかに異なる儀式の調度品の存在。
それを麗蘭は見逃さなかった。

故に麗蘭は推し考えて言う。
ここではまた別の儀式を
執り行っているのではないかと。

「だけどその内容の調査は
 ここで行うには用意が足りなさすぎるわ。
 ここに散らばっている物を全部回収した後で
 念入りに調べるしか無いわね。」

「左様だな。」

「でござるな。」

証拠品の即時回収。
取り合えず当面の作業の内容を得た三人は
迅速に勝つ証拠品としての質を損なわぬ様、
壊れない様に細心の注意を払いながら
塵一つ残さず確実に回収していく。

OH!桃花に麗蘭、ちょっとこっちこっち。」

「何だ鈴女、まだ作業中だぞ。」

「それとも淫魔的な面妖本でも見つけたの?」

「いんや、二人共これを見てどう思うでござる?」

作業中にも関わらず、
鈴女が二人を手招きで呼び寄せる。
作業そのものは半ば済んでいるものの、
未だ発掘作業は続行中だ。

それをわざわざ中断させてまで
二人に見せたいものの正体とは一体何か?
その正体を見た途端。
アホの子の如く二人は口をアングリーさせる。

二人をしてこれ程までに驚嘆させたものの正体。
それは数台の磔台に供物を
捧げる為と思わしき台座であった。

三人寄れば文殊の知恵とばかり、
三人は知恵を振り絞って
怪しさ大爆発のオブジェの
存在と目的を考えるものの……

「正直全然判らんでござるが……
 恐らくはここで生け贄リリースを捧げて
 エロイムエッサイムとばかりに
 何者かを呼び出そうとしていると
 見た方がよいでござるな。
 誰を呼びつけようとしていたのかは
 皆目見当が付かないでござるが。」

という答えしかでない。
だがこれら自身とは別に、
これらは全く予期せぬ贈り物を
三人の前にもたらす。

最初、その黒光りしているものの正体は、
Gの死骸の固まりではないかと思われた。
もっともそうであったとしても鈴女の場合は
貴重なタンパク質の食料として
佃煮にしてしまうとか言いそうだが。

だがよくよく見ると、
それは目映いばかりの黒砂糖……
ではなくBストーンだ。
恐らくは人柱と共に生け贄の供物として
安置されたものと思われる。

だが人柱は一体どこにいるのか……?
沈思黙考する事数分、
京に囚われていた人々の事を麗蘭は思い出す。

「成程……だったら彼らに聞いてみれば
 ここで何かが行われようとしていたのかの
 全容が判明するわね。」

<全学連 仮本営>
(BGM:27 All The Time)
数刻程後、全学連軍仮本営において。
それぞれの面々が自分の獲た戦果を
詳細に報告している。

久那岐・凜・百瀬・田中組
大量のレトルト食品(賞味期限切れ)
燃料木材 等

ユキ・マホコ・エクレール・マリーシア組
大量の山芋(一部蒸かした山芋化)
毒抜きした食料
大量のジャンク部品
避難していた住人及び引率者のマチルダ 等

鈴女・麗蘭・桃花組
儀式の調度品の無数の破片
Bストーンの固まり 等

他の面々
使えそうな物品の数々
食べれそうな食物色々
古びた数本の巨大な鋼釘 等

それぞれが知恵の限りを尽くして
捜索し尽くした努力の甲斐もあり、
一応は京だった場所で羅生門的荒らしをして
獲得した戦利品が皆の前に陳列される。

「成程……予想よりも遙かに上をいく戦果だ。
 皆の努力に対して感謝する。
 …ところでそっちの女性は?」

担当者全員の労働をねぎらうと同時に、
豪は昨夜までここに存在していなかった
正体不明の存在…つまりマチルダの詳細を問う。

「私はマチルダ=マテウリ。
 ドクツ・シュタウティンガー出身のスパルタデス。
 この京の地で人々に請われて
 魔物に対抗する為の自警団の指揮を
 取らせていただいている者デス。
 一昨日京の近くで何か喧しいと思って
 何かあると同志と共に偵察にきましたところ、
 あなた方がスットコドッコイの魔物軍団と
 交戦しているではありませんか。
 これは千載一遇のナウゲッタチャーンスと判断し、
 助力すべくカチコミの準備を整えてましたところ、
 京の山が火山でもないのに噴火してきて
 京の人々が逃げてきてそうこうしているうちに
 最後はマリっちに美味しい蒸かした山芋で
 エヅケーションされてきました。」

「……取り合えず、一緒に付いてくるか?」

「まことよろしいのデスか!?
 京もこうなった事デスし、
 御厚意に甘えて同行させていただきますデス。」

色々と問答があった後の
豪からのさりげない勧誘が。
そして前のマリーシアの
エヅケーションの効果もあって
マチルダという危なっかし気、
しかし頼もしい仲間が加わる事に。

「取りあえずは当座は凌げそうな
 物資の量を獲た訳だが……
 次の議題へと入りたい。
 即ち前に話した通り今現在、
 我々が取るべき……いや、
 性格には取らざるを獲ない道は二つ有る。
 一つは多少遠回りになり、
 関ヶ原に駐留している神威軍に
 後ろから攻め込まれる可能性が有るが、
 直接三国に帰投するルート。
 もう一つのルートは後顧の憂いたる
 関ヶ原の神威軍を撃破して
 魔界孔を妖滅した後、
 そこで急速と補給をして帰投するルートだ。」

「前者は敵が自ら拠点から
 ホイホイ出かけてくるんだろ。
 それに比べて後者は
 敵は拠点に籠城する上に
 持久戦をかまされでもしたら
 こちらには万が一も勝ち目は無い。
 とくれば安パイを取って
 三国に帰って然るべき準備を整えてから
 関ヶ原に殴り込みをかけた方が
 いいと思うんだけどな。」

田中のバクチのバのじすら無い
至極現実的な三国への帰投の意見が入る。
確かに今現在の全学連軍の状況は
廃墟を家捜しして当座は凌げそうな
食料・燃料とそして一日の休息を経て、
ある程度回復してはいるものの、
かと言って関ヶ原の神威軍を、
しかも籠城中の……となると、
やはりかなり心許ないというのが現状だ。

そうとなればいったん三国へ帰投して
態勢を整えた上で万全を期して
関ヶ原に出陣するのがセオリーというもの。
そして付け加えるに早急に関ヶ原を
制圧しなければならない理由も無い。

であるならば関ヶ原からの追撃という
リスクを犯してでも三国への帰投ルートを
選ぶのは自明の理というもの。

「確かにそうだよなぁ。」

「今すぐ関ヶ原を落とす理由もないし。」

周りの衆の意見も一致し、
今回は早々に撤収して仕切り直しに、
となりかける。

「ところでこれを見てどう思うでござる?」

そこに入ってきたは鈴女達と
鈴女達の持ってきた儀式の残骸の山だ。

「すごく……怪しいデス。」

マチルダの的確で分かりやすい意見だ。
それらは実際怪しさ大爆発の代物であり、
皆の衆はこれは一体何者ぞ、
と複雑きわまり無い表情で
残骸の山をしげしげと並べている。

「ふ〜む…」

そしてその中でもひときわ興味深く、
そして注意深く残骸を眺めている者がいる。
田中雷蔵だ。

ただ他の者と違うところを挙げるとすれば、
只闇雲に怪しいものを遠巻きに見ているというより、
ある一定以上の知識を保有した上で、
その知識と重ね合わせて見て
観察していると言うところが相違点であろう。

そして自分の脳味噌の中の知識と合致した時だ。、
田中がおもむろに口を開いた。

「ちょいとちょいと。発言OK?」

「OKでござるよ。」

「俺の知り合いの科学者で
 南米ペルーで研究をしている
 ブラックホースという男がいるんだ。
 そいつによるとだな、
 ここに描かれている妙チクリンな文字は
 まんくちゅあ語と言って古代において
 ペルーの神官が自爆神を封印するのに
 使用っていたという有り難〜い文字だ。」

「あの…私以前に砕斗クンから
 自爆神に纏わる話を
 耳にした事がありますわ。」

田中の蘊蓄に雷の素早さで
反応したのは……エクレールだ。

「ルシェルド・スチャラカは元々は
 ナスカに封印されていた自爆神で、
 まんくちゅあ語で<ロリコン伯爵>
 という意味を持ち、
 ナスカの地上絵はその封印、
 という話を伺いましたの。」

「正確にはこれで復活する自爆神は
 シャチの自爆神ルシェルド・チャルアだ。
 ついでに言うとこのシャチ野郎が
 関ヶ原でよみがえるまでには
 後精々後1〜2日といったところか。」

皆の表情が一様に凍り付いた。
たった今緊急に入った一連の自爆神の情報、
その情報により満場一致で決定した筈の
三国への帰投という結論が
一気に振り出しに戻ってしまう事を意味している。

「となれば帰投中に自爆神のカチコミに遭う
 確率はかなり高くなる…という訳か。
 自爆神を撒きつつ帰投するか、
 それとも自爆神が復活する前に
 関ヶ原を急襲して復活を止めるか……
 いずれにせよ非常に難しい選択になりそうだ。」

豪が提案した二種択一の選択肢。
その選択肢に対し

「関ヶ原を急襲しても
 自爆神の復活を阻止出来ない、
 という最悪のシチュも有るわね。」

みちるが、最低最悪のフラグをおっ立てた。
だが単なるフラグ立てとは言え、
みちるの発言は正論だ。
限りなく正論だ。うん、正論。

もし自爆神復活が本当で、
関ヶ原制圧前に自爆神の復活を
阻止出来ないとするならば、
最悪のコンディションで
自爆神と交戦をしなければならない。

今の状況で自爆神を相手取る事、
即ち玉砕全滅と同義。
だからと言ってこのまま帰投する、
という選択肢を取ると確実に
自爆神の復活及び追撃がある上に、
それを振り切ったところで
自爆神の脅威は残り続けるであろう。

となれば最善の策は自爆神復活の前に
関ヶ原を制圧して復活を防ぐ事しか無い。

「このまま危険の伴う帰投を選んで
 じり貧になるかそれとも
 一か八かのカウンターで
 関ヶ原を急襲するか……」

「…一か八かしかねーよな。うん。」

さっきまでの積極的な帰投ムードが一転して
消極的な戦闘ムードと帰投ムードに二分割する。
そりゃあ折角激闘を終えて
やっと帰投しようとしていたところに
じり貧or一か八かの二択を強いられた上に、
更に全滅の可能性も十二分に有り得る
激闘をしなければならないのである。

テンション駄々下がりになるのも無理は無かろう。
例えるなら水の中に1分しか潜ってられない男が
限界1分目にやっと水面で呼吸しようとした瞬間、
グイイッ……と更に足を捕まえられて
水中に引き摺り込まれるロウな気分だ。

豪は思索する。何を思索する?
取りあえずは志気が駄々下がりな味方に対して
士気高揚するモチベーションを提供する事だ。

「生きて帰れたらBストーンの小遣いを奮発する」
生きて帰れるかどうか分からないのに
そんなのがモチベーションになるわきゃない

(OriginalBGM:22.After Age)
利で駄目ならば…情熱で訴えるしかない。

「ただいまより鬼垣城襲撃の説明会を開催する。
 皆静粛に聞く様に。
 作戦の目的は自爆神復活の阻止及び、
 万が一の復活阻止に失敗した際における
 自爆神の妖滅に在る。
 その一方で三国に帰投するという選択肢も存在る。
 それは鬼垣城の追撃を受ける可能性も示唆しているが、
 前者に比べれば非常に緩やかな脅威だ。
 只、どちらの作戦に参加しても一切咎めるつもりは無い。
 自爆神の脅威に晒されたいドM者は……
 愛する者を自爆神の餌にしたい者は、
 後者を選ぶといい。」

火を噴くが如き豪の情熱的な演説、
これに対して皆の心が動いた。

「そうだよなぁ。
 何時までウジウジしていても
 何も始まらねぇんだし
 やる時ゃらるっきゃねえだろうよい。」

豪の演説を補佐するかの如き
百瀬の後押しの一言が入る。
皆の心は既に決まっていた。

「そうと決定まれば話は早い。
 ならば次に関ヶ原に攻め入る為の
 軍議には入りたいと思う。
 関ヶ原は鬼垣城の周りは
 関ヶ原と名の付く通り平坦だが、
 鬼垣城はこれまた厄介な城でな。
 京の様に広い訳ではないが、
 それ故に敵が密集しやすく、
 こちらが多人数で攻め入る事が出来ん。
 そこで戦国時代に名を馳せた名将、
 上杉謙信が得意とした車懸かりの陣を
 採用したいと思う。」

「車懸かりの陣?」

「この車懸りの陣と呼ばれる戦法は、
 本陣を中心とした各隊が放射状に並び、
 風車のように回転しながら
 敵に当たるという戦術だ。
 つまり、最初に敵に当たった部隊が一旦退くと、
 すぐ次に新手の部隊が攻撃する。
 これを繰り返すことによって
 敵は常に応戦しないといけないが、
 自軍は休憩を挟む部隊が出来る分有利になる。
 もちろんこの戦術は軍そのものが
 精強くなければ出来ないことではある。
 これで相手を揺さぶり続け、
 隙を見せたところで一気に
 その隙をついて叩き伏せる戦法だ。
 次の問題は隊の編成をどうするかだ。」

「車懸かりの陣に必要な隊は、
 まず相手に強襲を仕掛ける第一部隊、
 強襲によって作られた動揺を
 更なる強襲によって広げる第二部隊、
 再び第一第二部隊の攻撃態勢が整うまで
 相手に立て直す隙を与えない第三部隊。
 これらの三隊が交代交代で休む事無く
 敵に一番弱そうな箇所を執拗に叩く。
 勿論言う迄もなく交戦する度に
 負傷や疲労を伴う事は必然故、
 前線を退いた隊の支援として
 広報部隊の治療と支援にあたる支援部隊。
 そして敵が本格的に隙を見せ出したら
 ここぞとばかりに選りすぐりの精鋭で
 構成された本隊で一気に
 敵に立て直す隙を与える事無く
 全軍で強襲して全滅させ、
 最後に魔界孔を妖滅し、
 そして自爆神の封印をし直す。
 名付けて川中島作戦。」

大まかであるが理論上では
一分の隙も無いほぼ完璧な作戦。
その作戦に対して異論を唱える者はいない。

但し幾ら完璧な作戦と言えども、
所詮は机上の空論であり、
尚かつ諸隊を構成する人員の選抜、
そして戦後の事後処理や
作戦を実行する為の準備等、
考慮すべき事柄は腐る程有る。

まずは隊の人選。
これは一人の伍長に数人の隊員が付き、
そしてその伍長を纏める隊長を以て隊と成す。
取りあえず人選自体は大した混乱も無く、
つつがなく行われる事となる。

第一部隊・勝
隊長
湯奈沢慶
伍長
グレッド
キシラル
田中雷蔵
百瀬壮一

正面から敵を揺さぶり
敵陣に綻びを出させる


第二部隊・虎
隊長
鈴女
伍長
葵我門
十六夜桃花
サワタリ
新開健人

速度を生かして
敵陣をかき回して
混乱を生じさせる


第三部隊・謙
隊長
天楼久那岐
伍長
イーグル=ダグラス
山本無頼
藤宮凛
成瀬ユキ

混乱を生じた敵に対して
更に混乱を生じさせる


支援部隊・愛
隊長
項明みちる
伍長
シオン
マリーシア
堂本瑞貴
マホコ・P=マサイ

交代してきた味方の
負傷と疲労を癒す支援


本隊・毘
隊長
斬真豪
副隊長
藤原雲水
伍長
鈴麗蘭
エクレール
マチルダ=マテウリ

敵の陣営を強襲突破して
敵賞の首を取る


次に控えている問題は、
これらの編成した部隊を
どう運営してどう動かし、
そしてどう戦わせるかにかかっている。

豪が取り出したのは関ヶ原の
鬼垣城とその周辺の地図だ。
この城は昔の城を利用したものではなく、
当時の護国院が新規に建てた城であり、
規模は小さいものの、
再新鋭の近代的セキュリティシステムが
完備されている堅城だ。

その堅城を攻略しようと言うのであるから
並大抵ではない兵力か時間を要するは必至。

それを無理を通して力で
迅速に落とそうというのであるからして
余程の策が無ければおぼつかない。
ならばどういう策を採り、
どういう風に行動するか。

「敵は謀略に長けた謀将ロック、
 しかも麾下のアンデット軍団は
 決して侮れん連中だ。
 生半可な策では逆効果に終わるだろう。」

「そうね…ならば勝・虎・謙隊と
 毘隊で四方から一斉に攻めればいいわ。」

みちるの今までの作戦を
全く無視した献策が入る。
無論皆疑問を持った様相を呈している。
だが無理もないと言うものだ。

「勿論全力でという訳じゃないわ。
 虎・謙隊は大げさにときの声を挙げて
 適当に攻め込む振りをするのよ。
 そして本命の勝隊が手薄となった部分を
 強襲して揺さぶりをかけ、
 そして虎隊が勝隊の退いたところに
 間髪を入れずに攻め入るのよ。
 そして謙隊に交代した後に
 ローテーションで攻め込むしか無いわ。」

「確かに現状を鑑みるに
 それしか手だては無いだろうな。」

みちるの献策の後に続く案は……
存在しない、出てこない、無理も無い。
本職の策士項明みちるでさえも
妙策に考えあぐねる状況なのであるからして、
他の者が幾らオツムを捻ったところで
何も良策が出る訳でも無い。

「ならば戦後の事後処理について話したい。
 まずは鬼垣城制圧伍の行動についてだが、
 まずすべきが魔界孔の
 妖滅にある事は言うまでも無いが、
 関ヶ原付近の住民の鎮撫、
 そして駐留部隊の人選、
 残りの部隊の帰投の為の
 準備や物資の確保等々、
 多岐に渡って業務が存在する。
 わっしぃやグレッド卿やキシラル卿は
 それぞれ在日米軍やトノリストに
 戻らなければならないから
 除外しておくとしてだ。
 鎮撫や駐留の為の部隊は
 地元故に詳しいであろう
 我門・桃花・サワタリ・田中に
 残って貰う。
 そして帰投の為の物資の確保は
 マホコ・瑞貴・シオンに一任する。以上。」

<全学連陣営>
(BGM:27 All The Time)
戦略と方針及び制圧後の行動が決定した
全学連の陣営はにわかに沸き立っていた。
ある者は敵との戦闘の為に得物を磨き、
ある者は体調を整え、
ある者は戦闘によって起こる
負傷者の為に準備を整え、
そしてある者は静かに時を待っている。

それらの面々の中でも
一人目立って気を吐く者がいる。
この京の地で偶然ながらも
仲間に加わったマチルダだ。

既に各自支給される数日間の
携帯食料を用意したマチルダは
ウォーミングアップやストレッチ等の
身体の準備に余念がない。

「自爆神についてはブラックホース教授から
 一応の事は聞いておりますデスよ。」

準備運動で汗を流すマチルダの傍ら、
自身の任務の為の準備を整えている田中に百瀬、
マリーシアにシオン、そしてエクレールがいた。

「Jud{あい}、シオンもその事が気になります。
 是非詳しい話を聞かせて下さい。」

「承知しました。
 最強最悪の自爆神ルシェルド・スチャラカについては
 貴方方もご存じと思います。
 これ一柱だけでも非常に厄介なトンデモ代物、
 正義の何かけてこの巨悪は成敗しなければなりません。
 ところがどっこい、マンモス厄介な事に、
 自爆神は一柱だけではないのデスよ。
 私の記憶が正しければ教授曰く、
 それらの自爆神は約十体柱近くいるとの事デス。」

「え?」×全員

マチルダが自爆神の情報を提供した途端に。
周りの空気が数度下がった。そりゃあ当然だ。
ルシェルド・スチャラカに及ばないだろうとは言え、
そのクラスの巨獣が最低でも数体はいるのであるから、
至極当然の反応と言えばそうだとしか言えない。

「ていうかどうやってやっつけんだよ?」

田中による必然的に起こりうるシンプルな質問、
それに対してマチルダは

「教授によれば、この国の戦国時代には、
 オフランスの太陽王ルイXW世{エクシーズ}と
 当時の中国地方の雄・毛利家の当主てるが合力して
 この関ヶ原の地にルシェルド・チャルアを
 再び封じ込めたとも聞きます。」

「そのチャルアってのはあによ?」

「そうデスね…異世界に伝わる創造神の
 卷族ともされている鯱の自爆神デス。
 もしこれが蘇りでもしたら
 大変な事になりますからね。」

「砕斗クンからはとんでもない
 インチキ性能を持っていると聞きました。」

「ええ、マリっちの言う通りデス。
 教授ならばルシェルド・チャルアの
 打倒法を知っている筈なのデスが、
 只今行方不明なのが残念至極デス。」

一言で要約すれば今現在のところ、
自爆神ルシェルド・チャルアを
倒せる方法はほぼ皆無という事に。

「ついでに付け足しておきますと、
 ある部分においてはルシェルド・スチャラカ以上の
 最悪さを併せ持つとされている厄介な代物デス。
 これを倒さなければ正義が廃るというものデスが、
 残念至極ながら背に腹は代えられません。
 やはりルシェルド・チャルアが目覚める前に
 再封印するのが最善の策でしょう。」

やはり自爆神の一柱だけあって現時点では
どうする事も出来ないスペックの代物の上に、
対抗策を知っているブラックホースの行方がしれない今、
マチルダの意見に従うのが最前の意見、
という雰囲気が周りに漂っている。

<鬼垣城天守閣>
(OriginalBGM:17.Necrofamicom{ネクロファミコン})
「こここれはどういう事でしゅか……!?」

鬼垣城の天守閣において、
現時点での全学連の標的であるロックは
意外な事に非常に狼狽していた。

何故ならば自分の予想外以前の出来事が
たった今現実に起こっていたからだ。
それはロックの視覚に飛び込んできた
予想外のトラブル・全学連。

京であれだけの激闘をこなしておいて尚、
この鬼垣城に攻めいろうとしているのである。
ロックの発想からして全学連が
その様な行動に出るとは全くの想定外だ。

自分ならばその様な事を考える前に
とっとと退却トンコをしているだろう。
無論敵の追撃がある事は承知の上でだ。

だがそれを考慮に入れたにしてもだ。
普通ならばとっとと撤退をかまして
一度体勢を立て直すはずなのに、
それを関ヶ原に殴り込んでくるとは
正直言って正気の沙汰ではない。

敵の襲来を念頭に入れていなかったという事、
即ち防御態勢など殆どしていないという事だ。
そもそもロックは京の崩壊から
ここに逃げ込んですぐ、
本来京で執り行う筈であった
自爆神復活の儀式を執り行っていた故に、
防御態勢等の準備には一切手を着けていない。

「だから言わん事ではない。」

取り乱すロックの前に現れたのは、
ロックの麾下にある一人幻杜坊・ロックだ。

「ななななななに暢気な事言ってるでしゅ!
 今にも全学連がこの城に
 攻め込もうとしているっちゅーのに!!」

「そんな事もあると思って
 勝手に防御態勢を取らせて貰ったぞい。
 全く専門分野以外では
 トーシローだからなお前は。」

「しょ……しょれはたしゅかったでしゅよ。
 ならばこれからやってくる全学連軍を
 お前等が全力でくい止めるでしゅ。
 ぽっくんはしょの間
 自爆神復活の儀式を執り行うでしゅ。」

「ああ、判った。好きなだけやってな。
 その間だけ食い止めればいいんだな。」
 
幻杜坊の右腕挙手の合図と共に
おもむろに後ろから現れた一団、
それは万全の体制でこれから起こり得るであろう
鬼垣城攻防戦の際に城を守護るアンデット軍団だ。

幻杜坊らしく準備に一切の抜かりは無い。
そしてそれらの準備はこれから起こるであろう
全学連との激闘の凄惨さを如実に物語っていた。



アイキャッチ
マロン=コンドラチェンコ
捧げよ!!捧げよ!!肝臓を捧げよ!!


アイキャッチ
マチルダ=マテウリ
「このマチルダ、その心を浄化してやります!!」

<峠を行軍中の全学連>
大帝国BGM:遠き世界)

「この峠を越えたらいよいよ鬼垣城デス。
 皆さん気を引き締めていきますデスよ。」

行軍中の中、
自慢のツインテールを鎮獰太子よろしく
自在に生きた蛇の如く自在に操って
ウォーミングアップをしながら
マチルダは皆を鼓舞する。

「それはいいがなマチルダ、
 あまりハッスルしすぎると
 肝心の戦の前にすぐにバテるぞ。」

「ダイジョーブイデスよくなー。
 そんな事くらいでへたばっていては
 正義の味方は務まりません。」

久那岐の忠告に対してマチルダは
正義の味方としての矜持を唱え、
それが杞憂である事を主張。

「やはり最悪の状況、即ち自爆神復活に備え、
 気を引き締めておかねばなりませんから。」

「我がステイツでも聞いた事がある。
 先住民スペディオの伝承によれば
 連中は地上絵に封印されたものの、
 いつまた目覚めるとも限らないと聞く。
 ならば尚更の事侮れん。」

「さすがわっしぃは博識デスね。」

「案ずるより生むがやすしきよしよ。
 最悪のケースをどうこう案ずるよりも
 まずその最悪のケースを想定した上で
 その最悪のケースにならない為の
 すべき努力を考えるべきだわ。
 こういう時にお兄様さえいれば
 そんな心配もしなくて済むでしょうけど。」

「うちのお兄ちゃんがいれば万事大丈夫です。」

「このブラコン共が。」

我門の突っ込みin。

「後方支援の準備は我とシオンと瑞貴と
 マリーシアにより済ませてある故、
 心配いたすでない。
 存分にぶつかっていくがよい。」

「はい…エクレは私が護りますから。」

「ありがとう……マリーシア。」

「Jud{あい}、相変わらずアツアツモードです。
 まるでバカ婦妻です。」

「なぁサワタリ。」

「何よ田中?」

「俺らもいつかマブい娘と
 ああいう会話をしてみたいなあ。」

「だよなぁ。俺も斎香センパイと……」

「Jud{あい}、もげるものがないので、
 二人にもげろと言えないのですな。」

「相変わらずシオンは
セメント系だね。」

瑞貴の突っ込みin。

「ところで無頼は日本人初の
 ボクシングヘビー級チャンプを
 目指していると言ったな。」

「ああ。」

「魔界孔を全て封じて復興が進めばステイツ、
 いやステイツ以外にも人民の為の娯楽としての
 ボクシング興業も必要とされてくるだろうから、
 その時は頼むぞ。」

「ああ、判っている。」

「そう言えばボクのじいちゃんから
 聞いた話なんだけど、
 オフランスと毛利家の自爆神討伐の際、
 徳川家からボクのご先祖の成瀬正義が
 援軍として討伐に参加したって。
 記録によればその正義の背中には
 マリーシアと同じ黒翼が宿っていたらしいよ。」

「おれの鎧の梵獣も自爆神の討伐の際、
 オフランスからおれのご先祖に
 贈り物として届けられてきたと聞くぜ。
 ボンジュールがなまって梵獣になったんだって。」

「う〜、身震いすっぜ。」

「落ち着くのだももっち。
 急いては事を仕損じるぞ。」

「ああ、ありがとうよ慶。
 どうもこの豪華メンツの中だと
 中堅どころの俺としては落ち着かなくてな。」

「王には王の、
 ゲーマーにはゲーマーの成すべき事がある。
 要はここに集う者には皆各々に役割が有る故、
 左様に自分を卑下いたすでない。」

「だよな。ありがとよ麗蘭。
 俺も自分がやれる事を精一杯やってみるわ。」

「雲水さん。」

「……」

「雲水さん。」

「……」

雲水さん!

「……ん?ああ、ユキか。済まない。
 少し考え事をしていたものでな。
 で、何か用か?」

「用って程でもないけど
 そろそろ鬼垣城に着くから
 戦闘の準備をする様にってさ。」

「あ…ああ、そうだな。」

鬼垣城を目の前にしてユキが
雲水に対して声を投げかける。
おそらく雲水はこれからの
自分の計画の事を考えていたのであろうか。

ユキの散々の問いかけに対して
二度までも気づかなかった様だ。
ともあれ特体生達の意見交流の中、
鬼垣城がその姿を現し、
ただ静かに決戦の火蓋が
切られるのを待っている。

<鬼垣城の東方面>
(OriginalBGM:25.Terrible beat-Duel Soul Version)
しかし鬼垣城への攻略は
初っ端から苦戦の様子を呈していた。

全学連の予想では敵は
満身創痍のこちらを侮って
城からでて攻撃態勢に
移るものと踏んでいたが、
余りにも全学連の進軍や行動が
迅速過ぎたが故の弊害で、
相手が迎撃行為をするのを
初期の段階できっぱりと諦め、
とっとと防御特化の戦略を
躊躇無く取ってきたからだ。

防御特価の戦術は攻め手に対して
自主的に損害を与える事が殆ど出来ない代わり、
相手から受ける損害も最小限に済ませる事が出来る。
分かりやすく言えば時間稼ぎだ。

もっとも幾ら時間を稼いだところで、
今の全学連であれば食料・燃料が尽きる前に
鬼垣城を落とせる可能性は非常に高い。

だが時間稼ぎの理由が
援軍との合流等ではなく、
自爆神の復活までの時間稼ぎならば
話は全く別物となる。

その場合は何が何でも死に物狂いで
鬼垣城を落とさなければ最悪、
鬼垣城のロック一味との戦闘で疲弊したまま
自爆神ルシェルド・チャルアと
交戦しなければならない。

もしそうなってしまった場合、
勝ち目以前の問題だろう。
瞬コロされる可能性も低くはない。

「となれば背水の陣の心構えで
 やるっきゃねえだろ!!
 ここは根性を入れていくぜ!!」

まず最初に特攻野郎田中が腹を括る。
そして次に百瀬。
名々が各々腹を括り覚悟完了。

まずは予定通り勝・隊からの攻撃から
戦の火蓋が切って落とされる。
キシラル、グレッド、田中、百瀬、
その四人と四人率いる名無しさん@特体生に
まず丁重な歓迎を仕掛けてきたのは
重力を利用した落下物による攻撃だ。

大岩等の重量物は言うに及ばず、
木片や石片や油や机から
燃えるゴミや燃えないゴミ、
果ては排泄物や死体等の
生ゴミまで落としてくる始末で、
その中には友軍の死体まで有る。

だがもっとやっかいな事は
それらを只闇雲に投げ落としてくるのではなく、
幻杜坊の指示の元に的確かつ
組織立った行動で落としてくるのであるからして、
落下物がなくなるのを期待する事も出来ない。

「初っ端から厄介な事になって来たな。
 これじゃあ交戦どころかまともに
 城壁を登り切る事すら出来ねぇ。」

「ていうかマジ臭ぇブツまで
 落ちて来やがると来た。」

「だが第一陣の俺達が最低限でも
 この城壁を突破して交戦するとこまで
 持っていかなきゃなんねーだろ!!」

田中の口から田中らしくない弱音が
初っ端から漏れるのに対して、
百瀬が何とかしなきゃなんねーだろ、
とその弱音を否定するが

「けど百瀬、田中の言い分も一理有るぜ。
 いくら根性を出したって
 城壁からスナイパーみたいに
 こっちを狙い打ちしてくる奴を
 どうにかしない事には
 にっちもさっちもいかねえよ。」

特体生@名無しさんの助言で
強気やる気根気だけでは
どうにもならない事を悟る。

「ならばここはこのグレッドに任せて貰おう。」

八方塞がりの中で、
この状況を打破すべく名乗り出たは、
客将のである司祭グレッドだ。

「お、おう。
 グレッド司祭が行ってくれんなら
 非常に頼もしいけど、
 何か勝算でもあるのか?」

「ああ、十二分に有るさ。
 百景の奥義の一つ迫死鉄塊を以て
 この私が動く盾となりて城壁を登る故、
 皆は私の下から純に登っていくが良い。」

つまりはこういう事だ。
砕けて言うならばグレッドが先陣を切って
後続の衆に降り懸かるであろう落下物を
盾となって一手に引き受けようと言うのである。

そして登り切った後には後続のメンツが
百足の如くぞろぞろと出てきて
城内に進入するという作戦だ。

これは特体生能力「集中{ピンポイント}」及び、
鉄界という防御特化の技を持つ
グレッドでなければ成立し得ない力技だ。

迫死鉄界!!

鉄界
岩虎の派生技で、全身を硬くする。
ただし、岩虎程硬くはならない。
この状態で攻撃を繰り出す迫死鉄界{はくしてっかい}が存在する。
22+K(迫死鉄界は岩虎後に236+KK)

これで完璧だ。
この上で攻撃力を全て防御力に回せば
正に鉄壁の盾とも言える布陣ともなろう。

72度以上も有る絶壁と言うべき城壁、
それをグレッドはゆっくりと、
しかし確実に登っていく。

(SEガッ)
「フッ……何かしたか?」

正に文字通り脳天直撃の大岩、
その衝撃を以てしても
グレッドは一向に意に介さない。

「無駄無駄。無駄なのだよ。」

ああ、次は巨根の丸太だ。
だがまたしてもグレッドの
鋼の肉体は小揺るぎもしない。

このまま一気呵成に突っ込んでいって
場内に乗り込んでいこうと、
グレッドの後にぞろぞろとキシラル達が
ぞろぞろとついて来始めた頃だ。

(SEゴツッ)
ITEっ!

特体生@名無しさんの一名の方に
何の脈絡も無く石がぶつかった。
そしてそのまま重力に身を任せ、
自由落下で地面に落ちる。
勿論したにいる面々も巻き込まれて
約八割方が落ちてしまった。

これはどういう状況か?
よく見ると城壁の向こう側から
斜め下に向かって石を投げ落としたらしい。
そして見事にクリティカルヒッ!!

無論アンデットにそんな知性は無い。
だが知性アンデットたる幻杜坊なら別だ。
相手の戦術を見破った幻杜坊は、
麾下のアンデットに命じて
攻撃方法を変えさせたのである。

だが落ちた連中も伊達に特体生はやっていない。
すぐ様ロッククライミングにリカバリーしていく。
そして場内の敵がそれらに気を取られている内に
狂気のクライマー・グレッドは目的地である
城内の進入に見事成功を果たす。
こうなれば後は田中ら愉快な仲間達が
ぞろぞろと雪崩式に殴り込んでいく。

後は簡単だ。
虎隊が殴り込んでくるまで踏み留まり、
周りの敵を凹っては投げ凹っては投げ、
と無双をかまして虎隊が到着したら
勝隊は退いて愛隊の治療により、
受けた負傷と疲労を癒す。

そして謙隊が到着すれば
虎隊はすぐ様後方に退いて
受けた負傷と疲労を癒す。

そして勝隊が復帰したと同時に
謙隊が治療の為に一時退く。
これで万事上手く行く……筈だった。

だが交戦を行っている内に
キシラルはある違和感を覚える。
こちらが幾ら攻撃しても
相手は殆ど攻撃と呼べるものを
行ってはこない。
というよりも妙に頑丈だ。

敵はロックの麾下のアンデット軍団、
攻撃力こそ有るものの
防御力は皆無に等しい筈。

城壁からの落下物の攻撃にしても
殺傷目的と言うよりはむしろ
時価稼ぎが目的であるかの如き攻撃ぶりだ。

キシラルはここにおいて冷静沈着に考える。
この防御特化の戦術振りからして
敵は全学連軍を少なくとも自分達の力で
全滅或いは撃退しようとする意図は全く無い。

この戦術によって得られるものと言えば、
せいぜい時間稼ぎくらいのもの。
だが時間稼ぎそのものは目的にはなり得ない。
時間稼ぎをしなければならない目的が有る筈。

思いつく目的がロックら主力を安全に撤退させる、
そしてもう一つは……反撃の為の戦力が整うまで、
相手の足止めをする事。

この二つの推測から導き出された目的の内の
後者についてキシラルは考える、
ロック麾下の内のクランク・ロックは既にいない。

そして残る主戦力はロック本人に
幻杜坊・ロックにゼガル・ロック。
だがこの二体は傷を癒さなければならい程の
負傷はしていない筈だ。

となると敵が整えるべき戦力とは、
やはり自爆神ルシェルド・チャルア……!!
謎は全て解けた。

今までの現象を全て繋ぎ併せて見ると
やはり敵の目的は自爆神を復活させて
戦力として運用させる事に在る。
ならば戦略を練り直さなければならないのは明白。

「のう、慶よ。」

「何じゃらほいキッシー?」

「目の前の敵の事についてだが、
 少々違和感があると思わぬか?」

「何が?」

「アンデットというものは元来
 腐敗した肉体という特性上、
 攻撃力に特化して防御力に乏しいのが常識だ。
 だがこ奴らは……」

「うむ、その事についてはおれも
 さっきから妙だと思っていたのだ。」

キシラルが薄々感じていた違和感、
それを慶も感じているという。

「さっきから殴っているのに
 一向にくたばらないのだ。」

「その通り。恐らく時間稼ぎの類であろう。
 だが時間稼ぎをするにしてもだ。
 唯無意味に時間稼ぎをしているとは思えん。」

「だったら将棋の碁盤ごと
 ひっくり返してしまえばいいと思うぞ。
 相手が時間を稼いで
 何かワルさをしようとしているなら……」

「その前に全軍全力を以て
 そのワルさを完遂する前に叩き潰す…か。」

慶とキシラルの思考が一致する。
相手が專守防衛に徹する限りは
こちらも防御や回復に
リソースを裂いたところで
何のクソの意味も持たない。

となればこちらは盾無の攻撃に徹して
遮二無二叩き込むが如く
相手に回復や防御の隙を与える事無く
一気に制圧する。

これは一見無謀無策な手段であるものの、
全学連側としても相手の情報が殆ど無い
五里霧中の状態である以上は
この手段を取らざるを得ない。

「すまんがそこの特体生@名無しさん、
 この事を後陣に伝えてくれんか?
 これより全力全軍を以て敵をせん滅すると。」

<全学連本陣>
(BGM:27 All The Time)

「成程。前線の状況は理解った。
 そういう事ならば防御や回復の事を
 一々気にしても仕方があるまい。
 我々も準備が終わり次第
 すぐに全軍出陣すると
 キシラル司祭に伝えてくれ。」

報告を受けた豪は躊躇する事無く、
すぐ様本陣に主だった面々を集め

「という訳でだ。
 報告によればキシラル司祭の考えでは
 敵に時間稼ぎを許さずに速攻で凹って
 形振り構わずワルさをする前に
 鎮圧してしまおうという案だ。
 なれば我々は全軍を挙げて
 鬼垣城にカチコミをかます作戦に
 出たいと思う。」

豪の単刀直入で理解り易い説明、
それに対して異論を唱える者はいない。

そもそもキシラルの言っている事が
事実であるとすれば、
ここでチンタラ軍議なんぞを
やっている閑なんぞ皆無。

一刻も早く勝隊に合流して
敵を全力全軍で撃退しなければ
オットロしい自爆神を
相手取らなければならない、
即ちイコール即ガメオベアだ。

「では各々方はすぐに出陣をされたし。
 但し愛隊は城のすぐそばで
 異変勃発の為に備えてもらう。

<全学連陣営>
(BGM:32 terrible beat A)

アワタタ゛シイセ゛。アワタタ゛シクテシヌセ゛。
ク゛ヒ゛ャ!あわたた゛ちぃ〜!!

全学連陣営は上から下の慌ただしさを呈している。

そもそもの筈だ。
いきなり青天の霹靂で
全軍が一斉に進軍しなければ
ならなくなったからだ。

だがそこらへんは日々の鍛錬で
緊急の事例の対処を心得ている故に、
余り目立った混乱も無く、
速やかに進軍及び、
戦闘の準備を整えたところは
流石と言うべきか。

「出陣と戦闘の準備は整ったか。」

「支援舞台の方も準備は終えているわ。」

「うむ。城に着き次第三方面から
 一斉に攻め込む手筈を整えてある。
 みちる、支援部隊の指揮は任せたぞ。」

「判っているわ。けど大丈夫なワケ?」

「何がだ?」

準備万端整えて出陣しようと豪に対し

「もし自爆神が蘇ったらの事よ。」

みちるは問う。
今までの作戦は自爆神の復活の阻止のみを
念頭に置いたものであり、
もし自爆神が復活したのならば、
自爆神との戦闘はおろか、
自爆神から逃走する手段すら
まともに念頭に無いからであり、
当然軍師の身としては
そんな当たって砕けろ的な作戦を
無条件でハイソーですかと
鵜呑みにする訳にはいかない。
それが所以の意見具申だ。

「もし自爆神が蘇ったら、
 そんな事は考えていない。
 というよりもむしろ
 今現在の全学連軍は
 自爆神と戦うどころか
 逃走するだけの戦力すら
 保有しておらんから、
 自爆神復活のケースを
 念頭に入れての作戦を
 考える余裕なんぞ無い。」

つまり今の全学連はそれ程までに
疲弊し切っているという事であり、
勢い自爆神復活の阻止に
全力で全てを賭けるしかない、
と豪は博打的な戦術を
取らざるを得ない状況を説明する。

「薄々感づいてはいたけど仕方がないわね。」

その最悪のコンディションで
出陣せざるを得ない現状に、
流石のみちるも同意せざるを得ない。

<鬼垣城の西方面>
(OriginalBGM:25.Terrible beat-Duel Soul Version)
鬼垣城の西方面では既に鈴女率いる虎隊と
守備部隊のアンデット軍団が激突していた。
いや…激突というよりはむしろ……
糠に釘状態といえるだろうコレ。

鈴女に我門に桃花にサワタリらは
本来は素早さを信条とする忍者、
そして新開は当て身技よりも
投げ技逆技を主体とするレスラー。

それに対して守備部隊のアンデット軍団は
まるで巣羅異無の如く斬っても斬ったそばから
アンデット特有の再生能力で再生してくる。

ここで忍者の特性である攻撃力の低さと
それを補う為の素早さ特化が裏目に出る事に。

何せ相手は防御特化のアンデット、
積極的に攻撃を仕掛けてくる訳では無いから
素早さもクソも必要ではない。

「ならばこの我門の爆殺拳で……」

「やめるでござるよ我門。」

我門が血路を開かんものと
己の特体生能力の爆殺拳で
アンデット軍団を一層せんとするのを
鈴女は止める。

鈴女は思う。
我門の爆殺拳で盛大にボーンと爆殺すれば、
アンデット軍団はかえって拡散し、
益々手に負えなくなると。

そもそも爆殺拳をかます為の材料である
鉱物が周りに殆ど無い。
とくれば爆殺拳は却下。

「アンデットに絶大な効果を持つ術式と言えば……
 やはりファイヤー属性の火遁の術でござるな。
 サワタリ、桃花、ここは任せるでござるよ。」

「おう!」

「判ったわ。」

火遁の術
足元から炎の渦を複数巻き上げさせる技。
タイミング次第で対空技にもなりうる。
22+PPK

(SEゴォォォォオ)
まるで悪党の火炎放射器に消毒される
無力な一般市民の如く、
アンデット軍団は景気よくバーニング。
あっついぜ。あつくて死ぬぜ。

「駄目押しで鈴女もいくでござるよー。」

更に駄目押しの鈴女の火遁の術が炸裂。
これでアンデット軍団は全滅……していない。
アンデット軍団をよく見てみれば、
まるで巣羅異無の王の如くひと固まりになり、
中まで火が通るのを防いでいるのである。

鈴女はここでようやく悟った。
こいつらは本当に1分1秒1コンマでも多く
時間を稼ぐ為に徹底して防御に特化していると。

「これはマイったでござるな。」

「このままバーベキュー大会をするにしても、
 鉄人レースレベルでの体力と時間が要るな。」

「でも仕方がないわよ新開。
 これしか方法が無いんだもの。」

<鬼垣城の北方面>
(大帝国BGM:自由と平等と正義と)

鬼垣城の南方面でも久那岐率いる謙隊が
アンデット軍団と交戦を開始していた。
だがこちらでも鈴女ら同様に
防御特化の戦術に大苦戦を強いられている。

こちらは鈴女のところと違い、
まるで金剛石の如き頑強な肉体で
久那岐達を苦戦させている。

久那岐の爪撃にユキの銃撃、
凛やイーグルや無頼の当て身も
殆どの攻撃が効をそうしていないのである。

普通アンデットというと
腐った死体を連想させるのであるが、
今久那岐達が相手をしているのは
腐った死体と言うよりも
エジプトのミイラの技術と
ヨーロッパのフランケンシュタイン博士の技術を
融合させたかの如き製法で作られた、
いわばフレッシュゴーレムの類の
アンデットを作り上げているのである。

しかもそれらを製作る際に
クレイジーキングの邪法を施し、
極限まで硬度を高めているシロモノであり、
いくら特体生の中でも
屈指の能力を持つ久那岐と云えども、
一体解体するのにすら
かなり手こずらざるを得ない、
というのが実状だ。

そして堅牢な標的に対する当て身は
その分自分の拳にかかるダメージをも
無視出来ない程に蓄積している。

既に拳主体で戦闘をこなしている
イーグルや無頼の両拳は
まるで潰れた柘榴の如き状態だ。

「Shit…こいつぁマジでヤベぇな。」

「そうだな…だがこのままバカの一つ覚えで
 頑丈な相手を殴り続けていても
 こちらの拳が先におシャカになっちまう。」

「ああ…つまるところは殴る拳を保護する
 何かがあればいい訳だろう。」

「どうするつもりだわっしぃ?」

「こうするんだよ。見てな無頼!!」

そう言うやわっしぃは自分の両拳を
布でぐるぐる巻きにしてまるで
布で作られたボクシンググローブの如き
形状を成している。

一言で言えば即席の
ボクシンググローブと言うべきか。
それに習い

「成程な。これなら拳もいい案配に保護される。」

無頼も即席ボクシンググローブを装着する。

「だがこれでは肝心要の攻撃力が落ちるな。」

「仕方がねぇ。
 このままあいつらを殴れば
 拳は潰れるだけだ。
 背に腹は代えられねぇ。」

だが弱気な発言とは裏腹、
二人の気力はグローブ装着により
目に見えて回復している。
反撃の時はこれからだ!!

HAUっ!!

(SEBOOOOOOOMERANG)
イーグルの黄金の右ストレートが
アンデットの頑丈な体にヒットする。

この時二人が出した攻撃の結果の予想は
素手で殴った時よりも与えるダメージが
減少するだろうと言ったものだった。
だがイーグルがグローブ付きで放った一撃は
二人が予想だにもしない効果を生みだしていた。

それはグローブによる殴打により、
打撃力と共にグローブによって生み出される
振動力がプラスされた結果だ。

拳のみを当てるのではなく、
グローブの実をギリギリに
相手の体の先端の部分にを掠らせる、
という弛緩んだ肉体に薄皮一枚を掠めさせる、
この一閃が肉眼では捉えられぬ程に
微かに…しかし超高速で震撼えさせる。

これぞ正に怪我の功名。一石二鳥だ。
拳へのダメージを大幅に削減するのみならず、
相手に与えるダメージをも大幅にアップする
妙策で日米ボクサータッグの前に最早敵無し。

一方アンデットの前に相性最悪の
銃撃という攻撃手段しか持たないユキは
一人必死に対抗策を暗中模索していた。

相手はいわば全身が鋼鉄の人形、
その鋼鉄の人形とでも言うべき
アンデット…というか、
そもそもアンデットに対する銃撃そのものが
相性が悪いなんてレベルではないのは
ホラー映画を見ても一目瞭然だ。

つとめて冷静沈着に、
今ユキは目の前の自分と相性が
最悪を通り越したレベルの相手である
アンデットをGEKIHAするには
どうすればよいのかという解決策を出す為に
脳細胞をFULL回転していた。

そしてそれから導き出される答え。
ならば話は早い。
後はその答えによって導き出される
手段を遂行して目の前の敵を排除するのみ。

流れるが如き行動の早さ、
ユキが懐から取り出したるは虎子、
もとい虎の子の炸裂弾だ。

炸裂弾ならば頑丈なアンデットと言えども…
いや……銃身に炸裂弾を込めても
何故かユキは一向に発砲しようとしない。

何故?諦めたのか?
いや、それは違う。
ユキの視線は明らかに。
何かをねらっている視線だ。

そして目の前の対象である
アンデットが動こうとした時、
即ち防御力が一番無くなる
その数コンマをユキは逃す事は無かった。

ボボーン
比較的ゆっくりした弾丸を発射する射撃スキル。
対象にヒットした瞬間に爆裂するッ!!
412+PP

(SEBANG)
ユキの銃身から放たれた弾丸が
アンデットの一番柔らかい部分を通り、
肉体深く埋まった瞬間だ。

己の破裂という使命果たし、
その肉体を内より爆破したのである。
外は頑丈だが内は余り頑丈ではない。

一方その頃の凛は、
わっしぃと無頼のボクシンググローブに
何かのインスピレーションを得ていた。
素手による拳固の当て身では
どうやら相性が悪いらしい。

「ならば骨法にも在る掌打による当て身で
 相手の内部に衝撃を与える戦術を用います。
 お兄ちゃん、見ていて下さい。」

舞うが如き凛の体捌き、
そこから繰り出されるは
一見ただタッチしているだけにしか
見えない掌底の当て身だ。

だがその掌底から繰り出される衝撃は
アンデットの頑健な外殻を通り抜けて
内部に浸透して確実に打撃を与えていく。

背水掌
ヒットすると相手の腕を片手で持ち上げ、
もう片方の腕で掌を当ててそこから衝撃を放って
相手の体内に浸透させる当て身。
412+PP

繰り出す掌底の数約数撃、
それらはアンデット一体を
仕留め得るに十二分な攻撃だ。
凛の猛攻を受けて撃沈するアンデットを背に

「お二方のおかげで反撃の糸口を得られました。
 感謝いたします。」

「なぁに、お互い様よ。」

「出でよ、聖なる小娘の輝ける遺品・銀鎖よ!!」

一方久那岐の両上腕には
鎖が巻き付けられていた。
それも一本の長鎖だ。

「いざという時に取っておいた奥の手だが、
 こうなれば致し方あるまい……!」

だがこの鎖でどうやって
アンデット軍団を屠り去るのか?
@鞭の如く敵を撃ち据える打撃
A縄の如く敵を緊縛プレイ
B拳に巻き付けて殴りつける



その無数の攻撃手段の中から
久那岐が選び取った手段は
目の前のアンデットを渾身の力で
鎖を以て縛り上げる。答えはAの様だ。

しかし恐らくはこの攻撃手段では
今までの爪撃よりも効果は薄い事は
容易に想像がつく。
そして@の鞭としての使用もしかり。
斬撃で通じないものが
打撃でどうして通用しようか。

星雲装着
聖なる小娘の遺品たる銀鎖を装着する技。
これから色々な技に派生していき、
通常技から変化していく。
222+PP(ゲージ1/3消費)

……いや、これは違う。
これは緊縛による攻撃手段ではない。
久那岐は更に敵を緊縛した鎖を操り、
緊縛した敵を武器として
敵の群れに対して撃ち据えたのである。

目には目を、歯には歯を、
頑丈な敵には頑丈な敵を。
正に逆転の発想。正に一石二鳥。

こうなりゃあ突破も時間の問題と思われる。
だがその時間の問題が大問題なのも事実だ。
何故ならば今回の城攻めは
自爆神の復活するまでという
明確なタイムリミットがあるからだ。

<鬼垣城の西方面>
(ランス9BGM33:Helman Battle1)
この窮地において鈴女には一つの秘策があった。
その秘策とは桃花やサワタリに火遁の術をかけさせ、
アンデット軍団が一つに固まったところで
我門の懇親の爆殺拳をかまさせ、
そして戻ろうとしたところを新開のバカ力で
周りにある瓦礫を初めとする
燃えやすい異物を投げ込んで
燃えやすい状態にした後、
自分の火遁の術・零式で
盛大に火葬するというものだ。

「とゆー訳でござるからサワタリに桃花、
 まずいっちょかましてほしい訳でござるよ。」

「判ったわ、さっきと同じく燃やせばいいのね。」

「んじゃあ…盛大にやっとすっか!」

サワタリと桃花が盛大に火遁の術にて
アンデット軍団を火葬しようとするのを、
自分達の持ち戦術である蜂球ならぬ
屍球の体勢をとろうとする。だが……

「させっかよ!!」

我門の爆殺拳による爆破攻撃だ。
この時を逃せばもうナウゲッタチャンスはない。
そう重い一つの判断を我門は下す。
周りの鉱物をすべて爆殺拳の弾丸に使いきる。
効果は抜群だ。

我門の懇親の爆破術により、
アンデット軍団の屍球は
球状をなすのがほんの十秒近く遅れた。

だがそれで十分だ。
それを逃す事なく

オラオラオラオラァ!!

屍球が再形成されるであろう空間に向けて
柱からゴミまでありとあらゆる燃えるものを
何でもかんでも新開は投げ込む。

新開により多数の異物を
中に埋め込まれた屍球は
既に球としての形状を保ってはいない。

「今でござるよサワタリに桃花!
 忍力を炎に!!」

「いいですとも!!」×2

この好機、逃さでおくべきか。
サワタリと桃花の火遁の術に加えて
鈴女の火遁の術も加わり、
屍球は外の炎のみならず、
内より異物の発火により
発生した炎に焼かれ、
見事に一斉火葬されてしまう。

<鬼垣城城門上>
「もう少しというところかしら。」

城門の上の愛隊をひきいるみちるは
勝・虎・謙の三隊が異変があった時の為に備え、
全員待機しているところで一人何かを待っている。
だが周りの面々の様子を見る限りでは
その何かはみちる以外には知る者はいない模様。

「こんな事もあろうかと扇奈に
 任務を任せておいてよかったわ。
 もし自爆神が復活したとしても
 あの二人がきてくれれば何とかなるわ。
 フフフ…我ながらグッドアイデアね。」

流石は全学連切手の策士だけあり、
みちるの手回しに抜かりは無い。
あの二人とは今現在みちるの口から
誰なのか語られぬ以上、
既出キャラか新規キャラかは不明だ。

だがみちるの表情をみるに相当の強者か、
それとも対自爆神に相性がいい者と推測される。

「ところでみちる。」

「何よマホコ?」

「後ろ後ろ。」

みちるに対してマホコが
指さした先には……

「これは予想外の展開ね……。
 項明みちる一生の不覚。」

いる筈の無いアンデットの集団が
退去して押し寄せてきている。
恐らくは幻杜坊辺りの
独断による差し金であろうか。

これらのアンデットは他のと違い、
明確に攻撃の意志を示している。
みちるの明晰な頭脳は、
瞬時に自分達の置かれている状況が
かなりやばい事を察知する。

他のアンデットと違ってこいつらは
攻撃を仕掛けてくる意志がビンビングで、
しかも自分達は他の舞台と違って
本来は攻撃手段に乏しい看護部隊であり、
まともにやり合っても勝ち目がある筈がない。

愛隊が今現在すぐにとれる行動は、
何とか現存戦力で抗戦する事ともう一つ、
迫り来るアンデット軍団に背を向けて
一目散にトンコをかます事の二択だ。

現存戦力を考えるならば、
選択すべきは後者だ。
だが逃走を選択したところで、
何故かアンデット軍団は異常に素早い。

恐らくは敵の逃亡を見越しての事だろう。
幻杜坊が厳選したと思わしきアンデット軍団は
並のアンデットの三倍はある速度を有している。

もしそれらを相手取って
逃走を図ったところで、
逃げきれない可能性が非常に高いと
みちるは値踏みする。

ならば逃走という選択肢が消滅した今、
もう一つの選択肢たる
抗戦以外に選択肢は無い。

だが戦闘部隊ではないが故、
単純な戦闘能力を相手と比較してみるならば
勝ち目何ぞ有るわきゃない。

相手のアンデット部隊を撃破する事はむろん、
友軍が異変に気づいて援軍に駆けつける
可能性に賭けていても運良く気づいたにせよ、
それまでの間戦線を保てるかどうかすら疑問だ。

ならばどうすればいいか。
自分達の本分は支援だ。
治療や看護を初めとして友軍を補佐し、
支援を行うのが本分の部隊。

何とかしてこれらの技能を
攻撃に転化出来ないものか……

「相手は……そうだわ、相手はアンデットよ!!」

みちるの明晰な頭脳は
瞬時に今の状況に対し、
アンデットに対抗する答えに導く。

今現在自分達が目の前の
アンデット軍団に対して
持てるであろう対抗手段。
それは

「回復治療術式よ!!」

「みちる、何故治療術式なのだ?
 治療術式なぞかましたら
 敵は回復して益々強くなるぞ。
 ならばここは我の炎の術式にて……」

マホコの疑問に対してみちるが

「わからないのマホコ?
 アンデットはいわゆる
 マイナスの生命力の存在よ。
 ならばそのマイナスの生命力に対して
 プラスになる治療術式を
 ブチ込むとどうなると思う?」

「プラスマイナスゼロ…理論上はそうなるな。
 だが理論通りに行くのか?」

「そんな事やってみなけりゃ
 わからないじゃない。」

マホコが、ガクッとなった。

「まあよい。他に手段がないのだ。
 であるならばやるしかあるまい。
 ならば我も人事を尽くした上で
 天意を待つしか他に無いのだからな。」

そう返答したマホコの両掌、
そこには大量の大豆が握られていた。

「という訳でシオン、マリーシア。
 二人には治療術式で
 アンデット退治を任せるわ。
 私と瑞貴は敵の囮になって
 袋小路にまで誘導するから
 後は煮るなり焼くなり
 消毒するなりするといいわ。」

「みちるちゃんが何を
 考えているのかわかんないけど、
 瑞貴ちゃんも一生懸命頑張るね。」

「頑張る…うん、イイ言葉だわ。」

己の捻りだした秘策、
その要となる任務を
三人に一任する一方、
みちるは瑞貴や名無しさん@特体
生数人と共にアンデット軍団の前に
ひらりと悩ましく立ちふさがる。

無論みちるの事だ。
ただ立ちはだかるだけでは芸が無い。
そう……みちるはわざと着の身着のまま、
といった風体であたかも偶然
アンデット軍団とエンカウントしたかの
様に装ったのである。

上着はわざと反対に羽織り、
髪は寝坊した女子高生の如く振り乱し、
靴下はぞんざいなオヤジの如く中途半端に履き、
ご丁寧に口には小物アイテムとして
トーストパンまでくわえているという名女優ぶり。

そしてその後を瑞貴がまるで
先輩と一緒に登校する後輩が如く、
必死に追いかけてくる。

まさにアンデット軍団から今まさに
逃げてきたとでも言うべき風体だ。
そのみちる一行の風体をみて、
アンデット軍団は……見事項明の罠にヒットした。
所詮は死人のオツムか。

聖なる樹木の俳優顔負けの演技で
必死を装ってトンコするみちる一行に対し、
その必死のトンコが実は自分達を
誘い出そうとしている演技である、
と看破でける賢いオツムを持った
賢者アンデットなぞいる訳が無い。

いや…もしこれが相手がアンデットではなく、
知性を持った相手であったとしてもだ。
この迫真の演技を見破れる者は
余程の洞察力・観察力を持った者に限られるだろう。

「ビンゴだわ瑞貴!!
 このまま袋小路まで誘い込んで
 一気に合同葬儀よ!!」

自分の仕込んだ項明の罠が見事ヒットし、
意を得たみちる一行は更に
袋小路に誘い込まんと逃げ込んでいく。
ここまで巧く行くと途中でアンデットに
意図がバレてしまうフラグビンビングだが、
何せ相手は脳髄まで腐っているアンデット軍団、
逆にバレる様にする上が至難の業というもの。

アレヨアレよという間にやっこさん共が
計画通りにホイホイと付いてきている。
後少し……後少し……今だナウゲッタチャーンス!!
この千載一遇のき貨を逃してなるものかと

「今よ!この迷える連中に盛大な葬式を挙げちゃって!!」

「はい!」

「Jud{あい}。」

みちるの号令一閃、
袋小路自綱に轟いたかと思うや否や、
マリーシアとシオンの回復系術式が
白黒のマーブル羽毛を介して
マイナスの存在であるアンデット軍団に
プラスの生命力を遠慮諍{いさか}い無く
グングンと提供している。

後はこのプラスの生命力を
術式として叩き込む事により、
アンデット属性である屍群が
目論見通りに土に帰ってくれるか、
それが問題だ。

もし目論見が外れてパワーアププーでも
されたらそれこそどうしようも無くなる。
ここの場所は袋小路であり、
逃げる場所は壁の上位しか無い。

そんなところをパワーアップした
アンデット軍団に襲われでもしたら
全員マサクゥルで天にメサルティム。
この乾坤一擲の賭け。
気まぐれな女神が微笑むはいずれぞ!?

ヒーリング
回復系特待生に共通する基本技。
これから様々な派生技につながっていく。
123123+PP(ゲージ1本消費)

ぼげぶげ!

ぺぷちゃべ!

はぶらばら!

びィえ!

かぴぷ!

よく判らん。日本語でおK。

あぶた!

びぎょへ!!

ダメだこいつら。やはり言葉が通じん。
そえはともかくみちるの目論見は
バッチシカンカンザマァカンカンだ。

アンデット特有の負の生命力によって
動かされていた腐肉の体は
その負の生命力が回復系術式によって
片っ端からゼロになっていき、
気持ちいいくらいに無双している。

「どうやらみちるの判断は正鵠を射た様だ。
 ならば我も動かねばなるまい。」

マホコの両掌にそれぞれ握りしめた、
大量の大豆はその殆どが高温で熱せられて
今にも自然発火しそうになっている。

勿論これらの大豆をアンデットへの
攻撃手段として用いる行為は……
鬼は外・福は内とばかりに投擲一択しかない。

滅せよ!!

鬼外福内
大量の大豆を高温で自然発火せんがばかりに熱した後、
それらをマシンガンの如く投げつける技。
412346+P(ゲージ1/3消費)

只でさえ邪悪なるマイナスの生命力で
動いているアンデットには効果抜群の大豆であり、
更にその大豆がマシンガンの如く
これまたアンデットにとっての天敵である
高温と炎を伴って襲ってくるのであるからして、
アンデット軍団にはたまったものではない。

その光景は正に大火葬とでも言うべき光景だ。
燃え盛る大豆の一つ一つがアンデット軍団のそれを
まるで岩を削り取るが如く確実かつ、
しかも迅速に削り取っていく。

マリーシアとシオンの方を見ると、
まるで放置プレイの食べ物が
腐って土に帰っていくのを
早送りで見ているかの如く
腐り落ちて土に還っていく。
サラダバ、アンデット軍団。
次はもっといいところに生まれて来いよ。

「これで全て片づいたわね。
 恐らくは他の面々もアンデット軍団に
 苦戦しているでしょうから
 とっとと加勢しに行かないと。」

予告
わっしぃ「とうとう悪夢の自爆神が蘇ってしまう……
      あまりにも巨大な自爆神の前に、
      特体生達の希望は失われるのか!?

成瀬ユキ「でもボク達は負けない。
     負ける訳にはいかない。
     御先祖・成瀬正義の名に懸けて!!」

項明みちる「次回大番長AA
第二章その五後編 芋女のキック」』」
狼牙軍団全員「立てよ人類!!

今週の提督
リリアム=マッカバーン(パステルチャイム3)
スキル 指揮値 部隊1 部隊2 部隊3 部隊4
大制空 400 レーザー20% 航空−40% 航空20% レーザー60%
専用艦
なし

後書き
正直1話で話が終わると思いましたが、
結局2話までかかる事になりました。
とりあえず次のその六を二章最終章に
しようと思います。

とりあえずはエクシールを楽しみにしたいです。
最近エロゲが面白い!!






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となっております。
よろしかったら是非遊びに来て下さいませ。


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