真・闇の会夢幻格闘化計画{Dream Duel Project}大番長After.Age表紙
真・闇の会サイトマップ
第二章その五・後編 「芋女のキック」

第二章その四・後編新規登場人物

ブラック・ホース
大帝国に出場。
当作では自爆神関係の研究をしている学者であり、
インチキ性能とでも呼べる性能を持っている。
5秒CM
ブラック・ホース
「誰だ?インチキ効果とか、言うのは?」






<自爆神復活の儀式場>
(OriginalBGM:17.Necrofamicom{ネクロファミコン})
ぬんみの ふんぬぬ まみふろ かれせれ……

正直なところロックは非常に焦っていた。

何故ならば当初の予定とは異なり、
来る筈も無い全学連がカチコミをかけてきた上に、
伝令によれば防衛に徹していて、
決して生半可な攻撃では撃ち崩せない
アンデットの防衛陣を現在正に
全学連が突破しようとしているからだ。

こうなれば現時点でロックがとれる
手段はただ一つしか無い。
目の前にあり、現在遂行中の儀式、
鯱の自爆神ルシェルド・チャルアの
復活に賭けるしか無くなっている。

だが後先考えずに復活させてもいいのであろうか?
この思いがロックの心にひしひしと沸き立ってきた。
幸いアンデット軍団が時間を稼いだ成果で
自爆神ルシェルド・チャルアの肉体自体は
既に100%復活を果たしており、
早過ぎる故に腐ってやがるこたぁ無い。

だが予定よりも大分早く目覚めされるとなれば、
これまたどういう事態になるのか。
ロック自身もサパーリ判らん。全然判らん。

復活した途端に動きがストップする事も有るし、
更にはこちらのコントロールを全く受け付けようとせず、
捕食されてしまう可能性だって少なからず有る。

だがやるしか無い。それしか無い。
連中がここにまでカチコミをかけてくる迄に、
一秒でも一コンマでも長く復活の儀式に
時間を費やさなければならない。

「でなければぽっくんの未来はないでしゅ。」

<鬼垣城 天守閣の門>
(OriginalBGM:25.Terrible beat-Duel Soul Version)
「どうやら俺達が一番乗りってところだな。」

鬼垣城天守閣の門前では勝隊が
一番速く到達しており、
その仰々しい門の前を田中が確認する。

「イヤ、マジ悪趣味な扉だな。」

田中が門を見て発した一言目は。
それは門の内容をシンプルで
的確に表現している。

門前には二対の狛犬ならぬ邪鬼{ガーゴイル}像、
門には無数の蛇の彫刻にドクロ状の取っ手、
そしてよく見れば彫刻には無数の
怪しさ大爆発な解読不能な古文字が刻まれている。

丁度ファンタジーとかそういうものに
被れてきた中学生が思い描く魔王の城の門
そのもののベタベタの悪趣味な門だ。

そしてその悪趣味な門から
流れてくるオーラは
吐き気を催さざるを得ない
圧倒的邪悪さを秘めており、
中で良からぬ事が行われている事を
如実に物語っている。

「だが……」

「如何に自爆神の復活の阻止が
 第一命題とはいえども、
 ここで我々だけでカチコミを
 かますのは賢明とは言えんな。」

グレッドとキシラルの両司祭が
田中と百瀬に自重を求める。
確かに今すぐ殴り込んでロックを殴打し、
自爆神復活を阻止すれば
自爆神復活を阻止出来るかも知れない。

だが両司祭には今現在の状況から
ある一つの推測を導き出す。
それはロックと儀式を阻止せんとする
我々を妨害せんとする者の存在。

つまりロックの側には護衛が、
しかも少なからざる数が存在する可能性が
非常に高いという事だ。

もしその護衛の類がいると
仮定するならば、
おそらくさっき交戦した
アンデット軍団とは
比べものにならない位の
難敵となるのはほぼ確実。

「ならばここは後続の面々と合流し、
 しかるべき後にという手を取る、
 って事か。」

百瀬による両司祭の説明の趣旨を
察知しての〆の一言。
確かに全学連からして見れば、
門の中の状況がどうなっているか、
という情報が皆無である以上は、
迂闊な独断行動をとる訳にも
いかないのである。

<鬼垣城の南方面>
(BGM:32 terrible beat ⅱ)
その頃城の南方面でも豪率いる本体と
アンデット軍団の激闘が……と
思われていた。

しかし豪の予想に反して、
これまでのところ敵の反撃…どころk、
敵の陰すら欠片も見あたらない。
豪が考えるにその理由は

「他の場所の応援に行ってしまった」

「単に防御部隊の設定のし忘れ」

「戦力不足で最初から設置していない」

「わざと無防備を装って永続罠にかける」

そして

「重要な拠点に強力なユニットを配置している」

だ。

敵の出方の方法を試行錯誤しながら、
共に進軍している仲間達の反応を豪は見る。
そのうちの一人、マチルダ。

マチルダはさっきから
心の底から沸き上がる
第六感の為す警報装置の
鳴らすベルの轟音を根拠に、
まるで世の獣道を行く獣の如く、
動物的危機察知能力で
これから起こりうるであろう
激闘を予見している。

「どうしたマチルダ?」

「危険です、果てしなく。
 ビッグ・ビガー・ビゲスト危険デス。
 さっきから私の直感山勘第六感が
 警報ランプをビンビンにして
 気をつけんかいと喚いてるんデス。
 この先に何か厄介な障害が
 立ちはだかっていると警告しているデス。」

「だが危機があるとは言え、
 退く訳にはゆくまい。
 そうであろう、マチルダ。」

「流石はランランデス。
 目の前に危険が有るからと言って
 義を見てなさざるは勇無きなりデスから。」

「だが虎穴に入らずともその虎児自体が
 既にこちらの前に居座っておるぞ。」

雲水の速攻の指摘が入る。
その指摘通りにマチルダの第六感が
存在を指摘していた者が二人いた。

只の二人なれば無問題{モウマンタイ}。
ここにいる五人は豪を筆頭に
全学連の中でも屈指の強者であり、
只のモブ名無しさん@アンデットが
相手であれば鎧袖一触、
シュンコロ間違いなしだろう。

だが只の二人にあらず。
只の二人ならばマチルダの
危険察知は作動する筈が無い。

マチルダの危機察知力を
以てして危険と言わしめる相手。

それはロックの手下の
ゼガル・ロックに幻杜坊・ロックだ。
だがこの二人が相手であれば、
おそらくはこれ程の危機感を感じる事は無い。

確かにこの二人は戦力として考えると、
かなり厄介な相手である事に間違い無し。
過去の先頭から見ても全学連軍は
かなり苦戦を強いられているのは事実だ。

だが合計戦力のみを純粋に比較するならば、
豪ら五人には及ばない事も確実だ。
ならば何故この二人に対して
マチルダが危機感を抱くのか?

そのうちの一つがこれまで
全学連軍を苦しめてきた
アンデットの特性である
再生能力と悪魔の毒毒能力、
そしてここ鬼垣城が
アンデットの牙城{ホーム}である事と、
最後の一つはおそらく的の目的が
敵の殺傷・全滅とかいうものではなく、
時間稼ぎに在る点だ。

しかもよく見れば二人の周りには
今までのアンデット軍団とは
一目見ただけでランクが違う精鋭が
少なからずいるのが見て取れる。

「初めまして。
 俺は全学連副長の斬真豪というものだ。」

「ロックのパシリの幻杜坊・ロックじゃ。
 そしてこやつは同じくゼガル・ロック。
 して何の用じゃ?簡潔に説明せい。」

「用というものの程でも無いが、
 お前さん方のボスのロックに
 ちょいと野暮用が有ってな。
 会わせてくれると有り難いのだが。」

「よかろう…但し料金はお前等全員の首級じゃ。
 お前大将だろ。大将首なら首置いてけ。
 でなけりゃとっとと出直してこんかい。」

交渉はカール=ルイスの
100メートル走の速さで決裂を迎える。
というよりも最初から交渉をする意志なんぞ
両者共にこれっぽっちも無い。

交渉決裂とほぼ同時。
精鋭アンデットの内の一匹が
抜け駆けとばかりに豪を急襲。
しかしモブのアンデットが
豪にかなう筈も無く、
カウンターの一撃で撃破……
と思いきや以外にも踏みとどまっている。

やはりこいつらは選りすぐりのアンデットだ。
そこら辺のアンデットとはモノが違うのである。
だが豪も全学連の副長の名は伊達では無い。

GAWZAWWAAAA

返しの豪拳一雑魚撃破。
やはりモブは選りすぐりでも
トップクラスの強者に
一瞬で蹴散らされる運命なのである。

「皆の衆はこいつに手を出すでない。
 やはりこやつは全学連副総長だけあって
 他の特体生共とはランクが違う。
 こやつはワシがサシで相手をする。
 ゼガルと他の者共は
 他の四人のモブ共を纖滅せい。」

豪の数瞬見せた戦闘、
その姿を見た幻杜坊は恐れず、
しかし侮りもせずに瞬時を以て
的確な判断を下し、
自らは豪との一騎打ちに望む
判断を寸毫の躊躇無く下す。

ゼガルの方は一部のモブ軍団と共に
雲水と麗蘭に相対し、
残りのモブ軍団はエクレールと
マチルダに対して相対する。

「努々気を抜くで無いぞ雲水。
 こやつは全身之悪魔の毒々モンスター。
 一度触れれば猛毒に犯されかねぬぞ。」

「忠告感謝する。
 なればこの雲水にも考えがある。」

二人の会話のやりとりに、
だがゼガルはそんな事情など
お構いなしとばかりに斬撃を、
いや違う。

地擦り切り上げの斬撃による突進に見せかけ、
その実地面の腐毒を刀身に絡め取った上で、
切り上げ斬撃を行ったのである。

刀身に絡め取られた腐毒は
遠心力によって刀身から離脱し、
それはまるでショットガンの弾丸の如く
二人を強襲する。

だがこの予想外の強襲に対しても
歴戦の二人は些かも動揺をきたす事は無い。
麗蘭の周りには白羽による防御決壊、
雲水は軽功術による回避と、
それぞれが独自の回避のプロセスで
毒団子攻撃を無効化する。

だが触れれば即バッドステータス・
POISON状態になる事に変わり無く、
依然と同様に自然と二人の戦闘スタイルも
極力相手に触れる事無き様配慮した戦い方、
平たく言えば縛りプレイの強要だ。

一指たりとも直接接触する事が許されない
全力を出し切る事が叶わない
困難な状況での戦闘は2on1という
好条件を以てしても苦戦を強いられる事は必至、
おまけにゼガル側もその事を充分理解しており、
そのアドバンテージを大いに生かした、
判りやすく言うならば防御を気にせず
攻撃に比重を置いた戦闘スタイルを貫いている。

「ミリオン誤植ボルト!!」

ミリオン誤植ボルト
富士の樹海魔祖父{まそっぷ}で会得したとされる、
目から一瞬で画面端まで届くビーム型の衝撃波を放つ技。
性欲を衝撃波に変える性撃の幻杜坊ならではの技。
236+Pボタンを長く押す

その頃同時進行している
豪と幻杜坊との1on1のタイマン勝負の火蓋は、
幻杜坊の口から怪光線こと
ミリオン誤植ボルトによって落とされる。

だが妙な違和感を豪は感じ取る。
幾ら開幕奇襲の怪光線とは言え、
余りにも明け透けすぎる
テレホンパンチ的なミリオン誤植ボルト、
これは何かしかの策だと豪は思う。

故に豪は……正にぎりぎりの、
産毛が触れるか触れないかの距離で
必要最小限の動きで怪光線を回避する。

するとどうであろうか。
いつの間にか豪の後ろに
幻杜坊の持つファンネルである
仏像型蟲が静かに豪の後方に
スタンバイしていたのである。

しかし仏像型蟲の待機している場所は
何とミリオン誤植ボルトの軌道上に位置している。

このままミリオン誤植ボルトが仏像型蟲にぶつかれば、
いわば同士討ちという事になる。
おそらくは豪がミリオン誤植ボルトに意識を取られている内に
仏像型蟲が攻撃を仕掛けようという算段なのであろう。

ならば豪が取った先述は必要最小限の動きで
ミリオン誤植ボルトを避けて
仏像型蟲にミリオン誤植ボルトを同士討ちで当て、
ミリオン誤植ボルトを放って無防備状態となった
幻杜坊に対してカウンターの強撃を
叩き込む算段なのであろう。

いや……違った。
幻杜坊の意図は全く違った。
どこがどう違うのか。
それはミリオン誤植ボルトが
仏像型蟲にぶつかった瞬間に起こった。
ミリオン誤植ボルトは
標的である豪に当たり損なった後、
軌道上の仏像型蟲にぶつかった。

同士討ちだと豪は思った。
だがこれは幻杜坊の想定内の事だった。
仏像型蟲の光輝く坊主頭は鏡の如くミリオン誤植ボルトを跳ね返し、
ミリオン誤植ボルトは再び豪の背後を急襲する事となる。
ミリオン誤植ボルトは目論見通りに豪の背後を……
いや、取らなかった。

豪が必要最小限の動きで
ミリオン誤植ボルトを避けた後、
ミリオン誤植ボルトが仏像型蟲に反射して再び
自分を強襲する事を勘で薄々察知し、
再び避けたのである。

「さすがに小細工の一筋縄ではいかんか。
 ならば!食らえ死天王技・極悪ビーム !!」

死天王技・極悪ビーム
富士の樹海魔祖父{まそっぷ}で会得したとされる、
ミリオン誤植ボルトを五発撃つ技。
この技の使い手に極悪非道のゴク・アークという男がおり、
極悪という言葉の語源になったとされる。
236236+KKKボタンを長く押す

幻杜坊の二肢の五指から放たれるは
小規模ながらもれっきとしたミリオン誤植ボルトだ。
その十本のミリオン誤植ボルトが無軌道に豪を
四方八方襲う秘技、それが死天王技・極悪ビーム だ。

数体の仏像型蟲によって跳ね返された死天王技・極悪ビーム は
予想も付かぬ死角の方向から
容赦無く豪をスナイプ。
そして仏像型蟲はミリオン誤植ボルトの経路を予測して
予めその先に急行して、
更に死天王技・極悪ビーム を豪に向けて跳ね返す。

それら10本のミリオン誤植ボルトが絶え間無く
豪を襲う訳だから幾ら豪とは言えども、
回避の手を抜いて迂闊に幻杜坊に
攻撃を仕掛けようものならば、
ミリオン誤植ボルトの集中砲火をまともに食らいかねない。

だが死天王技・極悪ビーム による集中攻撃を
巧みにかわしながらも豪は
思考回路をフル回転させる。

そして導き出された答え、
と言うよりは肌で感じ取ったものだが、
幻杜坊の攻撃は直感山勘第六感が
鋭く違和感を訴えている。
だがその違和感が何故のものなのか
判明しない限りは迂闊な行動は取れない。

「ほわちゃー!!
 ドンドン行っちゃいますよー!!」

マンガ肉を前にしたイモ女の如く、
マチルダがハッスルする。
無論相手はアンデットの中でも
選りすぐりの精鋭であり、
有象無象を相手にするかの如く
無双タイムと洒落込む訳にいかない。

「こちらは大丈夫ですわよ!!」

そのハスールタイム中の
マチルダの後方を預かるのはエクレールだ。

マチルダが如何に手練れとは言えども、
複数の精鋭アンデットを相手にしては
背中がお留守になろうというもの。
無論その大きすぎる隙を
敵が付け込まない筈が無い。

その隙を埋めるべく
エクレールが取った行動とは、
自分とマチルダが背中合わせで
互いの死角である背後をかばい合う、
という作戦に出る。

聖拳アチョーとばかりに
目の前のアンデットを
駆逐したマチルダの、
そいの数瞬生まれた隙をついて
肥満型アンデットがマチルダめがけて
上から重力という凶器を利用して自由落下。
マチルダを巨体の下敷きにせんとする。

肥満アンデットの目論見は見事に成功し、
マチルダを自慢の巨体の下敷きにして
スルメ状態にした……と思われた時だ。

何とマチルダは根性と足腰と腕力だけで
肥満アンデットの巨体を受け止めた上で、
リフティングしたのである。

フンガー!!これしきの事で!
 正義の心はポキンと折れません!!」

だが幾らマチルダに根性と身体能力が
有るとは言っても相手は体重1トンを
越そうとも言うべき複数のアンデットの
集合体と言える存在。

このままでは何れ白鷺の拳の如く
下敷きになってしまうのは目に見えている。

でぇっ!!

このかなりまずい状況にヘルプを出したのが
エクレールのアリスソード、
それによる全力のフルスイングだ。

盾を甲羅の様に背中に背負い込む事で
両手に剣を持てる事の出来る状態にした後、
全力全開のフルスイング。

吹っ飛ばされた肥満アンデットは今度は
味方のアンデット数体の上に落ちる事となり、
巻き添えでくたばることに。

その予想外でかつ規格外の出来事に
アンデット軍団の意識と視線が
自然とそっちに向いた時だ。

オワチャー!!

マチルダの旋風脚が火を噴いた。
1つ!2つ!3つ!4つ!5つ!
だが連中は一撃で倒れない。

独脚旋風砲
中国拳法の代表的な脚技、旋風脚を連続して繰り出す技。
324+Kボタン(5回連続)

マチルダの巨木をも薙ぎ倒すが如き
恐るべき脚力の旋風脚を、
その威力を以てしても汚染人間の如く
アンデット軍団は頑なに
1ヒットキルを拒み、
2ヒットキルで臨んでくるのである。

エクレールが討ち漏らした
標的はマチルダがフォロー、
マチルダが討ち漏らした
標的はエクレールがフォロー、
そして相互扶助していき、
何とか戦線を保っているものの、
精鋭アンデット軍団はまるで
KINTARO飴の如く
次から次へと現れていき、
尽きる事を知らないでいる。

そして他の名無しさん@特体生数人は
アンデット軍団に苦戦を強いられており、
二人はそのフォローにも奔走せざるを得ない
状況となっているのである。

「のう雲水。」

「何だ麗蘭?」

ゼガルとの激闘の最中に、
麗蘭はある一つの仮説を打ち立てていた。
その仮説とは……ゼガルや幻杜坊、
そして無数の精鋭アンデット軍団は、
ロックの不死軍団の中でも
おそらくは虎の子の中の虎の子。

それをホイホイと惜しげも無く
投入してくる戦術。
そしてそれら虎の子である
主力の猛攻にも関わらず、
豪を初めとする面々の殆どは
何故かそれ程の手傷も負ってはおらず、
そして敵もまた然りだ。

幻杜坊とロックを除く
精鋭アンデット軍団に対しては、
エクレールとマチルダによる無双で
確実に討伐数を増やしているが、
それも1ヒットキルではなく
2~3ヒットキルによるものであり、
明らかに時間を取っているとしか思えない。

これらの事実と相手の目的である自爆神復活、
これらを考慮に入れるとするならば、
自ずと敵の採っている戦略が朧げ……
いや、明確に理解ってくる。

「自爆神復活の為の時間稼ぎ……か。」

「確かにロックという男ならば
 採りそうな戦術だ。
 ならばどうする?
 このまま何もせず
 手をこまねいている訳にもいくまい。」

「心配致すでない。
 妾の見立てによるならば
 もうすぐ事は起こるであろうからな。
 そしておそらくは豪もそれを周知の筈。
 ここはじっと我慢の子で自重致すがよい。」

「何の見立てか解らんが、よく判った。」

麗蘭の提案に雲水は
その意図も分からないまま同意する。
だがゼガルの攻撃は止まらない。
その攻撃は飽くまで時間稼ぎが
目的であるにも関わらず、
時間稼ぎ目的である事を
全く感じさせない程の猛攻だ。

毒をエンチャントされた剣による
直接攻撃に平行して行われる
毒をエンチャントされた物質の
投擲による飛び道具攻撃、
そして自信の毒の肉体による
アンタッチャブルガードと、
難敵である事に変わりは無いのである。

麗蘭や雲水としてはこちらも戦術を
「我慢の子=時間稼ぎ」に移行した以上、
戦闘スタイルを防御特化にしたいと考える。

だがあからさまに防御に特化したのでは
こちらの意図を敵に読まれかねないが故、
飽くまでもさりげなく、
そして自然に戦闘スタイルを移行していく。

「どうした?その程度か斬真豪!?
 それでも全学連の副長か?
 全く拍子抜けもいいところじゃ。」

幻杜坊によるあからさまな挑発伝説だ。
だがこの程度の安っぽい挑発で
全学連きっての智将である豪が
トサカに来るとは……

「ほう……それは聞き捨てならんな。」

トサカに来ている様だ。

「怒ったか?怒ったのんか?
 この臆病者のチキンめ!」

幻杜坊の挑発は豪の反応という手応えを感じ、
更にエスカレーションを始めていく。
このままで行くと間もなく……

業を煮やした豪が幻杜坊に向かって
何ら策を持たぬまま冷越豪と猪突猛進。
いつもの深謀遠慮が持ち味の
豪とは思えない無謀な攻撃に、
一瞬その思い込みを逆利用しての
不意打ち攻撃かと幻杜坊は思う。

だがそんな事はどうでもいい。
何故なら不意打ちであろうと無かろうと、
今の自分はその不意打ちに
対応出来得るだけの冷静さを持っている。

であれば冷静にカウンターの迎撃を
しこたまブチかましてやればいい。

「死天王技・極悪ビーム 、一斉発射!!

ならばこちらもと防御を考えずに
突進してくる豪に対して
死天王技・極悪ビームを切なさ乱れ討ちする。

高々と上がる煙と轟音の中、
それらに豪の姿が隠れていく。
ボクシングに限らず、
カウンターアタックというものは
当たれば効果が高い。

「やったか!!?」

成功を確信した幻杜坊がドヤ顔で
成功を確信して叫ぶのも無理は無い。

「その台詞は……生存フラグだ!!」

「なぬっ!?」

黒々と立ち昇る煙と轟炎の、
その中から現れたのは、
くたばっている筈の豪だ。

何故くたばっているはずの
豪がピンピンしているのか……
頭脳明晰な豪は挑発を受け、
ある一計を考えた。

ここで挑発を一笑の元に
聞き流すというのもよいが、
それでは膠着状態から
一歩も前に進まないと言うのと道義。
ならばこの稚拙な挑発伝説に敢えてのり、
膠着状態の打破を計ったのである。

だが何故死天王技・極悪ビーム をまともに受けた豪が
くたばっていなかったのか。
豪がトサカに来て猪突猛進したのは、
キレた振りをしていたのは言うまでも無いが、
その実豪はいつ幻杜坊の罠が
発動しても瞬時に対策が行える態勢で
突進していただけであり、
死天王技・極悪ビーム をまともに受ける瞬間、
態勢を防御に切り替えた訳だ。

ギャアース!!

想定外の豪の生還に幻杜坊は仰天、
豪の鉄拳一閃の一撃に吹っ飛ばされる。
その様はまるで人体が水車の様に
回転しているかの如く、
腰を支点として回転しながら
壁に叩きつけられるという表現が
一番正しいと言える。

この有様では一般人は無論、
鍛えられた特体生であっても
即死か重症は免れないものの思われる。

が幻杜坊は腐ってもアンデットだ。
アンデット故に元々腐っているという
ベタな突っ込みはさておいて。

「まさか挑発を逆手に取りおるとは
 流石全学連きっての智将よ。
 ならばこちらも褌を締め直さねばなるまい。」

覚悟の言葉と共に幻杜坊の
表情とスタイルが豹変る。
今までの獲物をいたぶり、
そして遊び終えたら葬り去る、
とのスタイルから一変し、
全身全霊を以て相手を屠り去る、
ストロングスタイルというやつだ。

目の前の敵・幻杜坊のスタイル変更、
それは周囲の空気を一変させ、
そして豪の表情をも一変させた。

ここからは一切の手加減や余計な考えは無用。
自爆神が復活した時の余力だの、
他の敵が出て来た時の余力だの、
余計な思考を一切無視したガチ決闘だ。

拳と禅杖の睨み合いが続き……
一方ゼガルとの交戦の最中、麗蘭は思う。

「おそらくもう少しだ、もう少しで……」

と。
そしてマチルダのキックで
蹴り飛ばされてきたアンデット、
それが二人の激突の合図だった。

銃声にも劣らぬ轟音を伴い、
豪の鉄拳が幻杜坊めがけて放たれる。
その一撃はとてもでは無いが、
禅杖で裁ききれるものでは無い。

「剛には柔」
即断した幻杜坊はギリギリで見切り、
そしてギリギリ産毛が振れるかどうかの
ぎりぎりの距離で拳を避ける。

だが次の瞬間だ。
拳を形作っていた豪の掌が不意に開いた。
そして幻杜坊の服を掴んで一閃、
強烈に地面に叩きつける。

当て身からの投げへの移行だ。
だが覚悟Verの幻杜坊は
地面に叩きつけられながらも、
生身の肉体では到底成立しない
無茶な関節の状態での腕で
豪の腹部を強打し、
何とか五分の状態に無理矢理持ち込む。

そして返しの禅杖の一撃。
その強打は空を引き裂く勢いで
豪の脳天に快を伴い直撃する。

スコーン!!
割とあっさりと勝負はついた……
と思われたその時だった。

よくよく見てみれば豪の脳天に
ヒットしたと思わしき禅杖は杖頭を外れ、
禅杖の内側の遠心力の少ない部分で、
しかも頭の一番か退部分で受け止めている。
自己防御本能に逆らった額受けだ。

「フンッ!!」

そして中国拳法秘伝中の秘伝の秘技、
寸勁の流れを汲む零距離からの当て身、
零豪鬼が容赦なく幻杜坊を襲う。

零豪鬼
自分の攻撃部位と相手との距離が零の状態から
発勁により強い衝撃を加える当て身。
32466+PPボタン

その拳の威力は計り知れないものがあり、
普通に防御している幻杜坊に対してすら
その上から防御を無視した衝撃を与える。

いや…むしろこの零豪鬼という
技の特性上からして正確に言うなれば、
防御の上から防御を浸透して
衝撃を与える当て身技故に、
無視すると言うよりはむしろ、
無意味なものと言った方が正しい。

ともあれ零豪鬼の一撃を受け、
幻杜坊は流石にアンデットとは言えども
大ダメージを受ける事は免れ得ず、
苦悶の表情のまま辛くも
豪の攻撃範囲内より脱兎の如く逃れる。

「悪いが時間は取らせんよ。
 お前さんにはとっとと退場して貰う。」

「そう上手く行くかのう?
 自爆神はもうすぐ復活する。
 そして貴様等はワシらが返り討」

「たたたたた大変でしゅううう!!!」

「何を取り乱しとるんじゃ
 あのキユーピー頭。
 まさか不測の事態でも
 起きたのではあるまいな?」

「しょしょしょの不測の事態でっしゅ~!!」

幻杜坊が戦闘の為に
構えを取ったその時だ。
何の前触れも無かった。

だがいきなり慌てふためいた
ロックの幻晶画が天井に現れ、
ロックサイドにかなりヤバい異変が
起こりつつある事を示唆していた。
表情を見るに唯事ではなさそうだ。

「フ、我が事なれりだな。」

「どういう事だ麗蘭?」

「あれを見るがよい。」

ロックがパニくっている
幻晶画の後ろの部分、
そこに映っている面々を
雲水は確かに見た。

そこには何と勝隊~愛隊までの全学連が
大挙して怒濤度如く押し寄せている。

「つまりは我々が主力を装った囮となり、
 勝~愛にきゃつらの本陣を強襲させた訳だ。」

「成程……な。」

「計りおったな……
 こうなっては仕方があるまい。
 ゼガル、ワシらも撤退じゃ!!
 残りの者はこ奴らを出来るだけ食い止めい!!」

<鬼垣城天守閣>
(OriginalBGM:17.Necrofamicom{ネクロファミコン})
ロックは今非常に焦っていた。
もう少しで自爆神復活が
完了しようというところに、
まさかの全学連軍が大挙して
カチコミ襲来をかましてくるとは。

今回の戦闘の行動に関しては、
全てが自爆神の復活の為だけに
リソースを裂いている。

何故ならば全学連に急襲された
関ヶ原の戦力ではとてもでは無いが、
全学連軍を返り討ちにするだけの
戦力は無いからだ。

故に自爆神の復活を早めてまで
自爆神を戦力として運用をなし、
全学連軍に当たらせて撃退しよう、
という腹づもりだったのである。

しかしロックは戦力の分配を
明らかに謝ってしまった。
豪率いる毘隊が本命であり、
他の部隊は囮である。
そう判断して毘隊に対して
持てる戦力のうちの
最大戦力を当たらせたのである。

だがそれは完全なる判断ミスだった。
侵攻の本命と踏んだ毘隊は
実はこちらこそが囮であり、
勝隊~愛隊こそが本命だった。

だが己の判断ミスをいつまでも悔やんで
ウジウジする程ロックは魯鈍では無い。

「こーなったら背に腹は変えられないでしゅ。
 予定よりも大幅に早いでしゅが、
 自爆神を復活しゃしぇるしか無いでしゅ。」

「呼んだかキューピー頭のロック。」
 
「おお!幻杜坊にゼガル!!
 丁度いいところに来たでしゅ!!
 今からここに来る敵共を
 おまいらが防ぐでしゅ!!」

「わーった。やりゃあいいんじゃろ。」

「……」

「理解が早くて助かるでしゅ。」

「ここが自爆神復活の儀式の場所か。」

幻杜坊が到着したのもつかの間、
間髪を入れず久那岐率いる謙隊が一番乗り。
イーグル 凛 ユキ 無頼を従え、
これまでの戦闘で疲労しているとは言え、
戦闘態勢に抜かりは無い。

「もうきおったか。まあいい。
 モブアンデット軍団、
 お前等は他の連中を足止めしろ。
 ワシは天楼久那岐と藤宮凛を相手する。
 ゼガルは他の奴らが
 来襲した時の為に待機しておれ。
 だが飽くまで時間稼ぎが
 目的という事を忘れるなよ。」

久那岐率いる謙隊の襲来に対し、
幻杜坊はロックに代わり、
アンデット軍団に対して
非常に的確な指示を下し、
そして久那岐と凛の前に立ちふさがる。

「我々二人に独りで相対するとは
 随分嘗められたものだな。」

「お前等の陰部{ほと}ならば
 幾らでも舐めてやってもよいぞ。ククク」

「初対面の人間に対していきなり
 下ネタとは品性の悪さが伺えますね。」

「幾らでも言うがええ。
 罵倒なんぞはむしろ耳に心地ええワイ。」

そう言うや否やの刹那の瞬間。
抜け目もクソも無い幻杜坊が
禅杖を用いてさりげない動きで
久那岐のこめかみをねらう。

まるでビリヤードの如き
突きの速さと正確さで
久那岐のこめかみを強襲した禅杖は、
しかし幻杜坊の思惑を外れ、
空しく空を突くにとどまる。

イナバウサー。
それが久那岐が出した
貧乳回避の技術の名前だ。

イナバウサー
足を前後に開き、つま先を180度開いてのけ反り、
相手の攻撃を避ける技。
バックダッシュ中に222

直立の体勢で背中の筋力だけで
上半身を反らしたその技術により、
幻杜坊の不意打ちを不発に終わらせる。

だがこれだけでは終わらない。
幻杜坊の二段突きが容赦なく
上半身を反らして無防備な
久那岐を再び強襲せんとする。

だが久那岐の体術は更にその上を行く。
状態を反らした勢いをそのまま利用して
バック転をかました上で、
そしてそのまま蹴り上げる。

だがしかし幻杜坊の二段突きの標的は
上半身を反らした久那岐では無かった。

「…!?」

「甘いわ!!」

上半身を反らした久那岐の、
何も無い筈の頭上の空間、
そこに禅杖の二撃目を打ち込んだのである。

その何も無い筈の空間に
まるで禅杖に吸い込まれるかの如く
久那岐の後ろから現れたのは……
禅杖を打った後の無防備な体勢に
一撃を加えんと跳躍をした凛だ。

禅杖による強撃は捻りによる
威力上昇も加えて凛を強打する。
幻杜坊の読みというやつだ。

常人ならば即死100%の強打、
それを凛はとっさの判断、いや、
とっさの反射神経でその時点において
駆動可能な体の部位を総動員し、
体勢を無理矢理捻り、
何とか致命の一撃を凌ぐ。
だが

「これは一本取られました。
 体位を反らさなければ
 おっ死んでいたところです。」

こめかみをしこたま打ってしまい、
凛の足下はまるで忘年会の帰りの
オサーンの如き千鳥足に。

だが幻杜坊は容赦せん。
訪れたこのビッグチャンス、
必ずモノにせんとばかりに
禅杖の一撃を凛に脳天撃。

千鳥足の凛にこの必殺の一撃を
かわす術など無いと思われた。
すぐさまに物理的に
昇天してしまうだろう。

「え!?」

ミスった。スカった。何故?
凛のバッドステータスはピヨリ状態の筈。
そもそも今の禅杖の一撃の速さは、
ピヨっていなくてもかわすのは
正に至難の業と言える程のベストアタックの筈。

それをかわしたのは
どういう要素が加わったのか。
その要素とは…凛が千鳥足で
後ろに倒れようとしている時に、
それを更に助長すべく
久那岐の水面蹴りが
刈り取るかのごとく凛の足下を襲い、
凛は体勢を崩す事によって
禅杖の一撃を逃れる事に成功したのである。

だが、久那岐はまだ終わらない。
禅杖の一撃をかわされた幻杜坊の隙を突き、
その好きを逃さず爪の一撃。

爪撃は容赦なく幻杜坊に痛撃を与え、
それにより幻杜坊が数瞬の隙を作る。

高々数瞬の隙だ。
だが達人同士の相対は
一瞬の隙すら許さぬシビアなもの。

そしてその隙を逃す程
久那岐は魯鈍では……いや、違う。
久那岐の爪撃を受けたとは言え、
幻杜坊は一流の達人。

それがこれ程のあからさまな隙を
見せるとは到底思えない……。

闇夜に幻杜坊の指鳴りが響く。
それを合図としてモブ強アンデットが
軍団久那岐……いや、
ピヨリ状態の凛を強襲する。

アンデット軍団を迎え撃つは、
久那岐の銀鎖の結界だ。
凛の周りをまるで檻の如く取り囲み、
アンデット軍団を寄せ付け無い。

群がるアンデット軍団を
全員屠り去る事が出来るだけの
攻撃力は有してはいないものの、
取りあえずは凛のリカバリーと
戦線復帰までに要する
数十秒の時間を稼ぐ事に成功する。

「不覚をとってしまいました。」

「だが奴はかなりの策士と見える。
 さりげなく隙を作って
 私をおびき寄せようとした事、
 そして弱ったところから叩く
 戦術のいろはを忠実に実行する力、
 やはりあの男は侮れん。」

「そして戦術の基本中の基本、物量じゃ。」

幻杜坊が禅杖を振り回し。
周りのアンデット軍団に指示を出す。
するとどうであろうか。
いつの間にか久那岐達の周りには
無数のアンデット軍団が取り囲んでいた。

Damn It!
 こいつら殴っても殴っても
 沸いて出てきやがる!!」

「どうやら後続が来るまでに
 ボク達を全滅させようって
 魂胆なんだろうね。」

「OK。奴らの魂胆は理解った。
 ならユキ、煙幕弾で奴らの目を眩ましてくれ。」

「いいけど。何をする気なのわっしぃ?」

「護衛の奴らの目を逸らしているうちに
 儀式の最中のあのチビハゲを
 一発ブン殴ってくるのさ。」

「わかった!でも気をつけてね!」

返事もそこそこに、
ユキは愛用のハンドガン「WS-サンパチ」を
腰のリボルバーサックに仕舞い込み、
背中の暗殺拳の三男的な、
ユキにとっては大きめの
ショットガンを取り出す。

ユキの背中にはそんなショットガンを
収納するスペースなぞなさそうなのに、
何故ユキは大きいショットガンを
背中に収納出来たのかと考える余裕を与えず、
更に弾丸までも取り出してリロードする。

おそらく二十二世紀のたぬき……もとい、
猫型ロボットが有する技術でも
持っているのであろうか。

それはともかくとして
ユキによって反撃の煙幕ののろしは
文字通り上げられた。

煙幕とアンデットが充満する
カオスな空間の中を、
イーグルは何の躊躇も無く
それらのカオスの中に入っていく。

だが煙幕で周囲りが見えないのは。
当のイーグルとて同じだ。
それを承知の上で敢えて
突っ込んでいくと言うからには
某かの勝算が存在るはずだ。

Go!Yes!Wow!Ass!

その勝算のおかげなのか、
わっしぃは煙幕で視界を塞がれて
右往左往状態のアンデットを
自慢の拳で蹴散らし蹴散らし、
ロックに向かって順調に進んでいる。

ここでそのネタをバラしておくと、
イーグルのグラサンには暗視効果のある
インフラビジョン機能が備わっており、
その昨日のおかげで煙幕の中でも
迷う事無く進撃する事が出来るのである。

そしてこのままロックの元に
辿り着こうとしたその時だ。
やはり素直に通してはくれないらしく
「……」
目の前にゼガル・ロックが立ちふさがる。

Shitty Zombie!
 やはり素直に通してくれそうにねえか。」

「ちょいと待ちなは。」

「ここは私達に任せて……」

「わっしぃはつるぴかハゲチャビンの
 ところに疾く行くでござるよ。」

ゼガル・ロックが現れたと時を置かずして、
わっしぃに対してかけられた三人の声、
それはサワタリと桃花と鈴女の三忍者。

忍者とは基本的に
闇夜で戦う修練を積んでおり、
こういう視界がかなり制限された
劣悪な状況界においても
視界が開かれた状態の時と同様に
行動が出来るのである。

「流石はJAPANのNINJAだな。
 ひと味違うぜ。OK!後は任せた!!」

立ちふさがるゼガル・ロックを
三人に任せて更にイーグルが進撃した先、
そこに今回のボス・ロックが
怪しげな儀式をしくさっている。

「げぇっっ!!イーグル=ダグラシュ!!
 てか護衛共はなにをしているでしゅ!?」

「悪いが奴らと戯れている暇は無かったんで
 華麗にスルーをさせてもらったぜ。」

「貴様の吐き気を催す下衆顔は
 二度と拝みたくは無かったがな。」

ひーっ!鈴麗蘭!!

ロックが麗蘭の名前を口にする。
その視線の先には舞い散る
無数の百羽の中に立つ鈴麗蘭がいた。

「ぐにゅにゅ…ましゃか護衛共をシュルーして
 ぽっくんのところにくるとは……!
 こうなったら仕方が有りましぇぇん……」

「どう致すというのだ?
 まさか恥も外聞無く降参する、
 というのではあるまいな?」

「それともHARAKIRIでもするか?」

「ヌクク……何をパッパラプーな
 世迷い言を言うているでしゅかタコ共が。
 しゅでに自爆神ルシェルド・チャルアの
 肉体は完全復活して腐ってなどいないでしゅ。
 少々起動しゃしぇるのが早かったようでしゅが、
 もはや問題ではないでしゅ!!」

麗蘭とイーグルが見たもの。
それは巨大なる鯱の自爆神だった。
その自爆神は巨大な躯を横たえて
まるで死んでいるかの様に
深い眠りに入っている。

「しゃあ!とっとと起きるでしゅよ!!
 ぽっくんの忠実なるしもべ!!
 悪魔の化身{デビルリバーシュ}、
 ルシェルド・チャルア!!」

「くっ……」

大げさな身振りと共にドヤ顔のロックが
悪魔の化身ルシェルド・チャルアに命じる。
これまでかと思われたその時だった。
しかし……自爆神は動かない。
文字通りうんとも寸とも動かない。
てろか?それともし゛こか?

「どうした?
 見たところその木偶の坊は
 寸毫たりとも動いておらぬではないか。」

「しょしょしょしょんなこたぁないでしゅ!!
 どーしたでしゅルシェルド・チャルア!!
 ぽっくんの命令に従うでしゅ!!」

(BGM:Off)
シーン……
ロックの絶叫が空しく響きわたるのみで、
自爆神は無視して動かない。
し゛は゛くしん は なそ゛の
ほ゛いこっとを とけ゛た 。
テーレーテー


「そろそろ覚悟は出来たか?」

「どどどどうしゅるでしゅ~!?
 『こうなったら猛虎落地勢で命乞いしゅるしか
  たしゅかる方法はないでしゅか~?』」

死への恐怖からか
ロックが失禁している。
その醜態は見ていて
あまりみっともいいものではない。
見ている者がみなそう思った時だ。

(大帝国BGM:非常事態!)
しかしここで状況は一変した。
どうやら命乞いの必要は無さそうだ。
自爆神ルシェルド・チャルアは
やっとのことでロックの目覚ましに
耳を貸したのであろうか、
凶悪な眼光を放ちながらおもむろに覚醒する。




アイキャッチ
百瀬壮一
「だって俺は非特体生だから……」


アイキャッチ
結奈沢慶
「今日はシャチの竜田揚げなのだー。」

ガャハハハハハッーーハハハハ!!!
 これで形勢逆転でしゅう!!
 ぽっくんのしもべの前に
 お前らはもうお仕舞いバイナラでしゅ!!」

「くっ……最悪の事態になってしもうたか。
 この土壇場で自爆神が復活するとは…!!」

「最悪のシチュエーションだな。」

この土壇場の大事な時に限り、
招かれざる最悪の事態は盗人の如く訪れた。
追いつめられたロックが自爆神を従えて
再度牙を剥いてきたのである。

ルシェルド・スチャラカ程の
驚異ではないものの、
今の全学連の対処出来る代物ではない。
今度こそ終わり……ロック、後ろ後ろ。

「何でしゅか?」

ルシェルド・チャルアの目が。
目の前のロックを物欲しそうな目で見ている。
これはどういう事か?
少なくともロックの命令に従って
敵のせん滅をしようとしている目では無い。

おそらくは目の前のロックを
捕食対象として見ているのであろうか。
轟音と轟吼と共に起動き、
巨体を起こしたかと思うと、
まずはロックを捕食せんと
巨大な口を開ける。

自分の手に負えない強大な化け物を
復活させて思い通りにしよう、
という捕らぬ狸の皮算用が
巧く言った試しは古今東西殆ど無い。

逆に自分がその化け物の餌食になるのが
創作物のお約束というものだ。
さらばロック。君の幽姿は忘れないよ。

「何をしとるかキューピーハゲ!!」

今まさにそ上の鯉状態のロック。
それに怒号をかけて縄を掛け、
上からサルベージして
自爆神の捕食範囲から
ロックを遠ざける者が現れた。
その正体は幻杜坊だ。

「だから言わんこっちゃな。」

「コンナ事になるとは
 思っても見なかったでしゅ。
 後は放置プレイしゅれば
 ルシェルド・チャルアが
 勝手に全学連軍を全部
 捕食しゅるでしょうから、
 ぽっくん達はトンコしゅるでしゅ!!」

「ったくしょうのないハゲじゃな。」

ハゲハゲいうなでしゅ!!

「おいゼガルに残っているアンデット軍団!!
 名残は惜しいが今回はここまでだ。
 とっとと撤収するぞ!!」

幻杜坊の撤収の合図、
その合図を皮切りに
残存アンデットはまるで
潮が引くが如く一死乱れぬ統率で
トンコを決め込んでいく。

その見事な迄の統率者振りに
豪は瞬時に直感した。
あの幻杜坊という男が単なる
戦闘力にのみ秀でたアンデットではなく、
指揮者としても有能である事と、
そしてこの男が将来大きな壁として
我々の前に立ちふさがってくるで
あろう事を。

だが何よりもその前に、
現実問題として今現在
立ちふさがる一つの大きな壁が存在る。
自爆神ルシェルド・スチャラカだ。

現在全学連は籠城していた
ロック軍との激闘と今までの
激闘に次ぐ激闘でまさに
ヒーコラヒーコラバヒンバヒン状態だ。

(BGM:35 Kamui ⅰ)
現在の戦力は豪に麗蘭、
久那岐にイーグルにユキに無頼、
鈴女に桃花にサワタリだ。

後の面々はまだ後方におり、
それらがこの悪の現場に到着する迄の間、
この木人形{デク}の鯱相手に
時間稼ぎをしなければならない。

現在持ち得る全戦力を以てしても、
自爆神の一柱であるルシェルド・チャルアに
勝てる可能性は極めて低いだろう。
だがやらなければ可能性は零だ。
目覚めた直後の鈍重な動きであれば
勝てる確率は零ではない。

出来るか出来ないかではない。
やるしかないんだよ。
そこにいる皆が覚悟をキメた時だ。
有無を言わさずルシェルド・チャルアの
口から怪光線が豪を襲う。

こんな代物をまともに食らったら
タダじゃあスミませんっ。
勿論言うまでも無いが、
豪は特体生の中でも屈指の身体能力の持ち主、
それにより怪光線をヒラリとかわす。

だが…後方にはかわさない。
かわすと同時にルシェルド・チャルアに
近づく形で前方に飛んでかわす。
目的は二つ。
時間稼ぎ及び仲間に攻撃が
及ばない様にする為の囮だ。

その為に動きは度派手かつ大振りの
注意を引くものでなければならない。
だがルシェルド・チャルアの猛攻は止まらない。
目覚めた直後の鈍重な体でだ。

怪光線に続く大振りのテールスイングだ。
その尾の強襲に対して豪は
髪の毛の隙間の間合いで
ぎりぎり強襲をかわす。

だが次の一撃をかわすだけの
余裕も余力も豪には無い。
ルシェルド・チャルアが
サンレンダァをかまそうとしたその時だ。
鯱の目の付近が急に爆発した。

「これは……爆殺拳!?」
最初に場に到着したのは我門だ。
この攻撃によるダメージはほぼ皆無だ。
自爆神に対してこの程度の攻撃力が
通用するはずも無いのは言う迄も無い。

だが攻撃を発生させる迄の時間を遅らせ、
豪に攻撃をかわすだけの態勢を
整えるという目的は十二分に達した。

三撃目の強襲を豪は余裕を持ってかわし、
そして…慶がグレッドとキシラルと
田中と百瀬を率いて到着し、

「みな待たせたのだ。
 後はおれ達にばーんと任せろ!」

そして新開がレスラーというよりは
むしろルチャドールとでも言うべき
身のこなしで参上する。

だが息をつく暇はコンマ1たりとも無い。
どでかい口から怪触手攻撃だ。
レスリング技術主体の新開にとっては
最悪の相性の攻撃だ。

だが新開は寸毫たりとも狼狽えない。
何を思ったかおもむろに馬鹿力で
襲い来る触手を纏めて団子結びにし、
反り投げ!バック投げ!腰投げ!新開ボトム!
とレスリングの技術で触手と渡り合い……
そして渾身のダイビングエルボーで
華麗にフィニッシュ。
それと同時に田中と百瀬が
木刀で触手をスラッシュし、
触手攻撃は見事に不発に終わる。

新開スペシャル
反り投げとバック投げと腰投げと新開ボトムを
連続して繰り出す連続投げ技。
41236+P
(反り投げ中に)236+P
(バック投げ中に)214+P
(腰投げ中に)一回転+P

だが尚もルシェルド・チャルアは
ひれで強襲せんとする。シブトい鯱だ。

そうはイカの金隠し!!トリャー!!

降って沸いて出てきた様な
マチルダの渾身のキックが。
その強襲を跳ね退ける。

アカイダーキーック
ライダーキック。
空中で874+K

マチルダの参戦だ。
だが強烈な攻撃、特に当て身による攻撃は、
自ずと繰り出す肉体にもダメージをもたらす。
特に攻撃の対象が頑丈になればなる程、
返ってくるダメージが大きくなる。

丁度刀で言うならば堅牢な物を
斬った時に起こ刃こぼれと同じ状況だ。
「~~~~!!!だだだダイジョーブデス!!!
 正義の味方は痛くても泣きませんデス!!
 ヘタレません!!くじけません!!
マチルダの足は折れぬ!砕けぬ!朽ちぬ!
勿論心も折れません。ぽきんとは。

追撃は尚も終わらない。
はねのけられたひれが元に戻る前に
雷刃の追撃の強襲が浴びせられる。

電刃衝{アマル}
大きく前方宙返りしながら、
地面を叩く様に稲妻をまとった剣を叩き下ろす突進技。
623+K

その斬撃はまるでRAIGEKI BREAKが
落ちたかの様に雷鳴を轟かせている。
それは黒翼を自在に操る
高貴なる女性天騎士・エクレールだ。

だが反撃もまだ終わらない。
ルシェルド・チャルアは
自分のアドバンテージが巨体及び、
それによる超重量である事を熟知っている。
その超重量を活かして繰り出される
ひれの叩き落としが一行に繰り出される。

この重量のひれの下敷きになった
人間がどうなるかは……
想像しただけで魔羅が縮こまる様だ。

(OriginalBGM:26.Terrible beat-Remix Bout)
しかし
「そうはサセホはNAGASAKI県!!」×5
誤認の勇者がそうはさせじと
超重量の下に立ち、
ものごっつい重いひれを
獄悔房の囚人の如く支える。
その五人とは……慶にグレッドにキシラル、
そして新開にマチルダの五人組だ。

「流石に五人でも重いものは重いな。」

「我が特体生能力の
 集中{ピンポイント}を以てしても
 支えるのは用意ではないぞ。」

「ヘヴィーコンダラ試練の道なのだ!!」

「いいか、いっせーのっで跳ね返すぞ!!」

「こっちもオッケーデス!!」

「っせーの……せっっっ!!!」

宙に鯱が舞った。
だが反撃は……ひとまず終了した様だ。
ルシェルド・チャルアもこれ以上の
勢いに乗って押せ押せとばかりに
猛攻を加える事の愚を悟ったのか、
その場で唸りながら空中で浮かんでいる。

「これはかなりマズいわね。」

次にみちる率いる愛隊が到着する。

「TADAでさえ自爆神と
 いうだけで厄介だというのに
 その上飛行ユニットと来たからには
 攻撃を届かせる事すら困難になるわ。」

「まずは何とかしてあのデカブツを
 攻撃が届く範囲にまで
 引きずり出さねばなるまいて。」

みちるとマホコの言う通り、
現状ではルシェルド・チャルアの状態は
空中を浮遊する飛行ユニットであり、
現時点での全学連軍では
ダメージを与えるどころか
攻撃を届かせる事すら出来ない事になる。

「Jud{あい}、シオンが思いますに、
 こちらからは基本的に攻撃を仕掛けず、
 相手が攻撃をかましてきた時、
 即ち我々の攻撃範囲に
 ずかずかと入り込んできた時に、
 一斉にボコればいいと思います。」

シオンが提案した作戦は、
一言で言えばボクシングで言う
カウンター作戦であり、
飛行ユニットに対抗する手段が
忍者軍団の手裏剣や一部の忍術、
そしてユキの銃火器等しか存在しない今、
全学連軍が取れる数少ない攻撃手段だ。

「でもでも~アッチが
 飛び道具とか出してきたらどうする?」

あまりオツムがおよろしくないが故に
余計な考えを一切排除して
物事の核心を突いた瑞貴の質問が入る。

「あの…弾数の限界とかは無いのでしょうか?」

「それは期待出来ないわね。
 あんなどでかい怪物だから
 エネルギーとかもおそらくは
 最低でも数日は尽きないだろうし。」
 
「結局のところカウンター狙いの
 戦術で行くしか無い様だな、豪よ。」

この土壇場で現れたは
最後の一人である雲水だ。

「これで役者が揃ったか。」

「その様だな。だがどうでる?
 あの自爆神にまともに攻撃が
 通じるのかも疑わしいと言うのに。」

「その上飛行ユニットであるからして、
 攻撃手段が限られている
 一種の縛りプレイだ。
 だがあのレーザーの様な怪光線は
 無闇矢鱈と撃てるものではあるまい。
 相手が直接攻撃の為に
 接近してきたその時こそが……」

ポイ。何の脈絡も無く。
いきなり豪のところに
プチハニーがプレゼントフォーユー。

その送り主は一体誰か?
勿論全学連軍のオツムの上の
ルシェルド・チャルアだ。

狡猾{クレバー}にも空飛ぶ鯱は
プチハニーを汗の如く出し、
あたかも空襲よろしくボンバーしてくる。

カキーン!!
だがとっさの豪の判断は、
プチハニーを送り返した。
中帝国に伝わるストロングスタイルの秘技、
奇想天外狙振弾だ。

だが強く早く高くは打ち返せない。
何故ならばある程度以上の
衝撃を与えるとその場でボン!だ。

だがそれにも増して言う迄も無いが、
プチハニーは当然一個では無い。
無尽蔵に生み出される大量のプチハニー、
それらが一気に襲いかかってくるのである。

どうしろと言うのか?
到底職業ゴルファーでも
対処しきれるものではない。
では全学連軍が取るべき道は……

プチハニーの爆破圏外まで避難するか、
プチハニーに対して迎撃をするのか、
素直に自爆に付き合って飲む茶になるか。

田中や百瀬による木刀の打ち返し、
我門による爆破処理、
忍者軍団による火遁の術、
格闘系メンバーによる投げ返し。

(SEKABOOM)
皆一様に襲い来るプチハニーに
適切な対抗対処を行っている。
だが、見当たらない。
対抗策が一向に見当たらない。

ついでに投げ返すプチハニーも
ルシェルド・チャルアに当たらない。
ていうか届かない。
普通ゲームではこういうシチュエーションなら
それらが攻撃手段になるのがセオリーだが、
この世界はビデオゲームではない。

こうなれば数少ない現時点で取れる対抗手段で
ルシェルド・チャルアに攻撃をかますしかない。
だが遠距離攻撃をかませるユニットがいない。
お空に浮いている鯱に攻撃をかます手段……
空に浮いている……そうか。
田中がティーンと来た。

「空を飛んでいる鯱に攻撃をかますには
 空を自由に飛べる奴が空を飛んで
 攻撃をしかけえばいいんじゃねえの?」

余りオツムがおよろしくないが故の
田中の本質をついた完璧な答えだが……
実現不可能って事に
目を瞑らなければならない。

現在飛行能力を有しているユニットは
シオンに麗蘭にマリーシアにエクレールの
四人だけであり、
しかも飛行と言っても背中の翼による
ごくごく短時間の飛行程度のものであり、
付け加えるにエクレールや麗蘭はともかく、
シオンやマリーシアに至っては
直接戦闘を得手とするユニットではない。

「ならば私とライゾーを
 マリっちやシオ子が抱えて
 上空から落とせばいいです。」

「え!?」

田中が、そして周りの表情が固まった。

「おいおい!ちょっと待てよマチルダ!!
 それどこの神風沢田特攻隊だ!?
 ていうか俺達の攻撃でまともに
 ダメージを与えられるわきゃねえし。」

田中の言うこたぁもっともだ。
いくらマチルダや田中が
優秀な特体生だとしても、
もしルシェルド・チャルアの
頭上を取ったにしても
ダメージを与える事は出来ないだろう。

攻撃を繰り出している間に
振り落とされるのは目に見えている。
カミカゼサワダアタックを
かますにしてはリスクが多過ぎる。

「何も攻撃をかますとは言ってません。
 これを無理矢理イーティングさせるのデスよ。」

マチルダが取り出したブツ…それは、
今回の序盤にキッズがあわや
毒死しかけた原因のポイズンフーズだ。

「てかまだ持っていたのか?」

「何が有るか判りませんので、
 いざという時の為にストックしておきました。」

「ちょいとちょいと、エクレに麗蘭。」

ここでエクレールの麗蘭を呼ぶ声の主、
鈴女がもっているもの。それは……

「特注の鬼丸印に雷切印の鋼釘でござる。
 これに久那岐の銀鎖をつけて…と。
 この状態での鋼釘を二本それぞれ
 ルシェルド・チャルアの背中に
 パイルしてきて欲しいでござるよ。」

「それをしてどうなるというのだ?」

「鈴女達愉快な忍者軍団が
 雷迅の術で銀鎖を通して
 感電攻撃をかますのでござるよ。」

「あの自爆神にどこ迄
 通用するかは判らぬが、
 私の銀鎖を用いるのだ。
 通用して貰わねば困る。」

「判りました。
 御期待に添える様に
 奮起努力致しますわ。」

特別任務略して特務を背負った6人が
それを遂行すべく翼以て飛翔した頃に。
グレッドとキシラルと新開と凛が
真正面からルシェルド・チャルアの
口から怪光線とプチハニーの乱れ撃ちに
敢然と立ちはだかっていた。

一見何の意味も無い行為だ。
実際こちらからは攻撃は一切届かず、
相手からの遠距離攻撃を文字通り
一方的に受け続ける無意味な行為。

だがこの無意味以外の何物でもない行為にも
ある一つの重要な役割があった。
それは陽動作戦即ち目くらまし。
6人が無事に標的の上空について
エアレイドするまでの時間稼ぎを。

襲い来る怪光線に対し
「明鏡止水!!」×2
己の体をまるでガラスの如く
ピカピカにする体術(?)で
グレッドとキシラルは
多少のダメージを受けながらも
怪光線攻撃を受け流す。

明鏡止水
Bパワーを集中して体の一部を光を通す体質にする技・明鏡の応用。
一定時間全身を光を通す体質にする。
64123+PP

だがそれらと平行して落とされる
プチハニーの群はどうするのか?
新開が足下のプチハニーをむんずと掴んで
他のプチハニーに無造作に投げ返す。
すると自ずとプチハニー同士が
ぶつかって同士討ちで爆発する。

だが新開一人では
とてもではないが追いつかない。
それと平行して凛が
そこらに落ちている
岩や木材等の硬質の物質を
掌底や鉄拳で細かく砕き、
そしてショットガ~ンの如く
プチハニーに向かって投げつける。

当然は破片に当たったプチハニーは
標的に到着する迄に……ボン!だ。
これら一連の陽動作戦は、
しかし予想以上の効力をもたらした。

ルシェルド・チャルアは目の前の
四人に対する雪合戦的纖滅に夢中になり、
しかも口から怪光線状態の為に
アホの子の如く口をアングリーだ。
これはナウゲッタチャンス。

「悪魔の毒毒料理を喰わせる
 絶好のチャンスデース!!」

「これでも喰らえ!!」

それぞれ一本のロープを通して
飛行中のマリーシアとシオンに
持ち抱えられたマチルダと
田中がサンタのプレゼントの様に
袋詰めにされた悪魔の毒毒料理を
歯クソ臭い口にポイポイする。
そしてナイス着陸。

間を入れずしてエクレールと麗蘭が
二本の大釘を空中から
自由落下に任せてパイル打ち込む。

だがこれではまだ浅い。
皮膚は完全に突破してはいるが、
未だに鯱の内肉には殆ど刺さっていない。
ならばザ・トールハンマー攻撃の出番だ。

釘を内肉に打ち込むべく
二人は釘の頭に衝撃を与え始めるが、
しかし二人が釘を撃ちつける作業を
見逃す程鯱はタコ野郎ではない。

体を激しく回転させる
必殺ローリング飛行による遠心力で
二人を無理矢理振り払おうとする。
だが二人も根性では負けてはいない。
ここからは先に音を上げた方が負ける
漢女{おとめ}勝負だ。

鯱が回転して壁にぶつかり、
無理矢理にも二人を振り払おうとする。
その永く永く永遠に続くかと思われた
根性比べの時間……
その末に二人は落ちた……いや違う。

既に釘は深く撃ち込まれており、
二人は任務を終えたが故に帰投した迄だ。

「今でござる!!Bパワーを銀鎖に!!」

いいですとも!!」×3

その隙を逃さずに四人の放つ
雷迅の術が銀鎖を通して
ルシェルド・チャルアを襲う。
ルシェルド・チャルアは絶悶苦悶の
苦痛の鳴き声を上げながら荒れ狂う。

これは効果絶大だ。
水属性のルシェルド・チャルアには
雷属性の攻撃が効果絶大なのは自明の理。
まるでアニメのシビレデブの如く
電撃で骨丸だしでシビれていく。


毛根雷電拳
雷迅の術を鎖を通して相手に直接ブチ込む技。

自然界には電気ウナギ・電気クラゲの様な
体内に発電器官をもつ生物が数多く存在しており、
筋肉や神経等の人間の血肉にも微量ながら
電流を帯びたイオン質が含まれている。
そして異常なまでに絡み合った神経細胞の神経線維が
乾電池の如く一つ一つ直列上に繋げたとしたら、
その刺激で敵を怯ませて倒すのが
究極神拳法秘中の秘といわれる毛根雷電拳である。


民明書房刊『蒙古相撲コンバット』より
相手が鎖にからまっている状態で236+P

これで大ダメージは間違いなし。
と思った。誰もがそう思った。俺もそう思う。
理論上はそうなる「筈」だった。
だがその計算は脆くも崩れさった。

きっかけは釘の強度。
四人の放つ電撃の威力が予想以上に有り、
しかもそれが故にルシェルド・チャルアが
その電撃から逃れようと必要以上に
暴れはっちゃくする度にかかる負荷、
それらに耐える程釘に強度は無く、
脆くも物理的に崩れさる。

ついでにマチルダや田中が放り投げた
毒飯も……全然効いてなさそうだ。
そもそも毒飯は対人用に作られた代物、
巨大な自爆神の肉体に悪影響を及ぼす程に
効果を求める事はどだい無理なのである。

「骨折り損の草臥れ儲けデース。」

マチルダがガックシと落胆。
しかもこの自爆神ヤローはよく見ると、
ちょっとトサカにキているときた。
すぐに報復の猛攻撃が来る事は
日の目を見るよりも明らかだろう。

今までとは比べものにならないランクでの
大量のぷちハニーの投下による空襲。
反撃もクソも無い感情任せの乱打だ。

この猛攻を前にして
全学連軍が取るべき道は一つ。
モブの特体生@名無しさんをも含めた
ぷちハニー処理だ。

掴んでは投げ、得物で打ち返し、
他の物をぶつける等、
まるで現場は大運動会の
玉入れの様相を呈している。

人海戦術で行われる
ぷちハニー処理だが、
何せその数が多過ぎて
段々とハニーの手も借りたくなる位に
人手不足となる。

「まるでバケツで洪水の水を
 処理している様な気分デス!」

だがその中で一際
気を吐いているのが
以外にも葵我門だ。

爆破処理のスペシャリストである
我門は触るものみな解除した。
嗚呼…解ってくれとは言わないが、
そんなに我門が悪いのか?

「全くどうにもこうにも
 あったもんじゃない。
 やはり国{ステイツ}に帰るべきだったか。」

ポトリ。
天井に引っかかってきた
ぷちハニーが落ちてきた。
しかも落ちてきたのはマチルダの足下。
とどめに超ぷちハニーときた。

このまま爆発すればマチルダは元より、
周りの者数名も犠牲となってしまう。
おまけに投げ返すだけの時間も無い。

「こうなればこの手しか有りません!
 ……んがっ!!」

そう言うなりいきなり
マチルダが取った行動は……
何とぷちハニーを口の中に入れると言う
常識とかそういったものを一切合切、
いや……それ以前の行為を
顔色一つ変えずに平然とやってのけた。

その直後。
マチルダの口内の超ぷちハニーが爆発。
おそらくは自分一人を犠牲にする事で、
周りの仲間を救おうとしたのであろう。

誰もが髪の毛一本も残っていない
まりも的な惨状を予感する中で……
ケホッケホッ……
 アラマカ゛フラフワフルレフヨ……


何という強い口内か。
咳込むだけで意識も
はっきりしているとは。
そして千載一遇のビッグチャンスが
まるで盗人の如く訪れる。

幾ら乱打しても一向に埒が開かない
ぷちハニー連打攻撃に
とうとうしびれを切らしたのか、
遂に巨体を全学連軍に対して
突進してきたのである。

それを迎撃するのは……
グレッドとキシラルとイーグルと無頼だ。
ルシェルド・チャルアの突進に対して
事前に示し合わせていた四人は、
それに対して一切取り乱す事無く、
「いっせーの……せっ!!」×4

正にカウンターパンチの
シンクロとでも言うべき
四人のカウンターパンチが
まるで一門の大砲の如く一つに纏まって
自爆神の鼻っ柱をへし折る。
こいつぁグレートだ。

自爆神にとっては余り大した
ダメージではないだろう。
だが、確実にダメージを与えている。
しかしダメージを与える為に
払ったその代償は大きかった。
四人の石拳は高速で突進してくる
自爆神の巨体に対して真正面から
パンチを叩き込んだが故に、
拳に掛かる負荷もまた尋常ではなく、
かなりのダメージを追う事となる。

(ランス9BGM14:今しかない!)
「どうやら間に合った様だな。」

「ええ。」

「スペディオ、遅刻しない。」

この崖っぷちの状況の中で現れたのは……
全学連総長の狼牙と扇奈、
そしてスペディオ出身の
自爆神学の第一人者とされる
学者ブラック・ホースだ。

「遅かったじゃないの扇奈。」

「遅れて申し訳ありません、みちるさん。」

さっきみちるが言っていた二人とは
おそらくは狼牙とブラック・ホースの事であり、
みちるの秘策とは最強の特体生たる狼牙が
重傷から治癒ったところを見計らって
援軍に来る事を要請し、
そして万が一自爆神が復活した時の為に
ブラック・ホースに対しても
援軍を要請する為に扇奈に対して
言伝を依頼していたのである。

「かなり苦戦している様ですね。」

「ああ、その様だな。
 ところでブラック・ホース教授。
 早速ですまねえがアンタの知恵を借りたい。
 単刀直入に言ってあのデカ物を
 やっつけるにはどうすればいい?」

「大丈夫。スペディオ嘘付かない。
 こいつの力の源、即ち水。
 おそらくここの何処か、水脈がある。
 だからその水脈、一時的に乱す。
 そうすればルシェルド・チャルア、
 へたれてよわくなる。」

「成程、よく解りました。
 という訳でお客様の中に
 水脈を乱せる人はいませんか?」

「いや…そんな都合良く
 そんな能力者がいる訳がねえだろうし。」

狼牙の言葉はもっともだ。
水脈を乱せる様なレアな
能力の保持者は只でさえ少ない。
出陣前に事前に募集したところで
そう簡単に見つかるものではないのに、
たった今必要になったからと言って
今更探したところで見つかる訳が…

「はいはいは~い。
 瑞貴ちゃんになら出来るかも。」

案外簡単に見つかった。

「おれもおれも。」

「私も私も。」

「オラもオラも。」

そして瑞貴のみならず、
特体生@名無しさん3人も。

「そういやあ瑞貴とかもいたな。
 グッドタイミングで助かる。」

「では、四人に頼みたい。
 ここっとここ、そことあそこ、
 そこの岩盤、粉砕玉砕代喝采した後。
 Bパワー注入で、水脈を乱す。」

だがここで新たな問題が浮上する。
その問題とは。
まずはクソ厚く頑丈な岩盤を
一体誰がブチ抜くかについてだ。

これらの岩盤を確実に、
しかもなるべく一刻も早く
岩盤クラッシュしなければならない。

そしてもう一つの問題。
目の前で行われる一連の作業を
ルシェルド・チャルアが黙って
放置プレイする可能性は
万に一つたりとも存在せず、
まず確実に妨害行為をしてくるであろう。

そこで問題の対策だ。
岩盤を粉砕する役を誰が務めるか。

「ならばこの山本無頼が行くしかあるまい。」

「神の御名において。」

「ボーダー神の御加護が我らには存在る。」

「ステイツの伝説のボクサーは言った。
 誇りを捨てて生きるより、熱き死を、と。」

名乗り出た勇者はグレッドとキシラル、
そして無頼とイーグルだ。

「その意気込みは買うが、
 勝算とかは有るんだろうな?
 第一そんな傷ついた拳じゃあ……」

「ノープロブレムだ。
 俺達にはコレが有る。」

狼牙の問いに対して
イーグルが持ち出してきたのは、
古びた錆でコーティングされている
四本の巨大な鋼釘だ。

「こいつを岩盤にブッ刺した後で、
 愛しのゲンコツちゃんで
 殴りまくって埋め込むのよ。
 そうすれば岩盤なんざ
 イチコロという訳よ。」

「やるじゃない。」

「囮は俺達に任せて貰おうか。」

皆が向けた視線の先に、
声の主たる百瀬と、田中とユキとみちる、
そして名無しさん@特体生数人がいる。

これらで構成されるチーム百瀬が、
チームわっしぃの任務が終了するまで
鯱の気を引くのである。
シャッチョサーン、ヤスクシトキマスヨ。

「おーい、早くしてほしーのだ!
 こっちはルシェルド・チャルアの攻撃で
 ヒーコラヒーコラバヒンバヒン
 言っているのに!」

慶の催促in。

「判った。今囮のデコイとして、
 百瀬一味を向かわせる。」

「一味って何だよ一味って。」

「少なくとも七味唐辛子から
 じゃない事は確かだよね。」

慶達が苦戦する中。
人間デコイの使命を受けた
チーム百瀬一行が到着した。

「後は俺達に任せときな。
 水脈をグッチャングッチャンにする迄
 俺達がこいつの気を引く。」

「わかったのだ。じゃあ後はヨロシク。」:

慶達のバトンを受け取り、
百瀬一行の戦いが開始まる。

「とは言ったものの、
 ボク達数人で一体どうやって
 ルシェルド・チャルアの気を引こうか?
 チームわっしぃの任務完了まで
 気を引こうか?」

「相手は鯱だから雌鯱の
 ピンナップとか見せて…いや、
 美味しい餌でつろうか?」

ユキと百瀬があれこれと
気を引く為の手段を試行錯誤しているうちに

「あんまりでかいツラすんなこのタコ野郎!!
 アイアムアボーイ!!ジスイズアオクトパス!!

変態大魔王!!

田中と何故かマチルダまで加わって
挑発伝説をかましている。
はっきりと百瀬は思った。

そんな稚拙な語彙の挑発で
自爆神がつられるクマーな訳がない。
つられる訳がつられるつらつら
つらつらつららららぁ。
いや……見事に挑発に乗っている。

「マジかよ……」

田中やマチルダの思惑を
遙かに超越た効果で挑発は
ルシェルド・チャルアのトサカを
こちょこちょとくすぐり、
バッドステータス・バーサーカー状態となって
一行を屠るべく巨体を起動させる。
煽り耐性と沸点の低い奴。

だが物事には全て表と裏が存在る。
相手を怒らせて自分達に
攻撃の矛先を向けさせたのはいい。

だが起こらせるという事は、
平たく言えばいわゆる攻撃力が
大幅に上昇したという事だ。

「ステイツにおける逸話で聞いた事が有る。
 プロボクサーがリングインする前に、
 ジムメイツが選手に対して
 暴言や暴行の限りを浴びせて怒らせるという。
 怒りで精神力を極限状態にまで高め、
 身体能力を最大限に引き出す事を。」

「みんないいか。
 先ずは攻撃をかわす事だけを考えろ。
 かわしてかわしてかわしまくるだ。」

百瀬の指示で皆が迫り来る
脅威に対して構えたその時だ。
ルシェルド・チャルアがまるで
ブレーキが壊れたダンプカーの如く
猛スピードで突っ込んでくる。

否……それは最早ダンプカー等という
規模のレベルを遙かに超越ていた。
旅客機が高速で突っ込んでくる、
と言った表現こそが正しい。

百瀬と田中、ユキとみちる、
ついでに数名の特体生@名無し。
これらの面々はいわば
計量級の特体生であるが、
それでも高速突進の軌道上から
逃走するというのは容易ではない。

このままではいずれは捕捉されて
文字通り赤い霧になる。
それと平行して恐いのは、
ルシェルド・チャルアが
弾丸が回転しながら発射される様に
突進していく時に、
ひれ等ががまるで扇風機の羽の如く
回転する際に起こる突風及び、
突風の中に含まれる大中小の瓦礫だ。

ルシェルド・チャルアの突撃を
何とかしてかわしても、
これらの容赦の無い突風が起こす
瓦礫の牙が愉快な仲間達を襲う。

流石に全学連の中でも
激戦を潜り抜けてきただけに、
面々はそれらの予期せぬ突風と
瓦礫の牙に対して体術と根性で
何とか凌いではいるものの、
このままではルシェルド・チャルアが
直接ぶつからなくても
それらのサブアタックだけで
やられてしまう可能性すら有る。

だがユキには一計有り。
ルシェルド・チャルアの体そのものを
何とかしようとするからして、
泥沼に陥ってしまう。

ルシェルド・チャルアの体は
それでなくても巨大で頑丈であり、
そこから繰り出される攻撃を
まともに止めたりかわしたりする事は
至難の業だ。

ならば視点を変えよう。
ルシェルド・チャルアの
視点……視点……視線……!!
視覚を妨害しようとユキが閃いた。

ユキが目を付けたのは
今にも落ちてきそうな岩礁だ。
これをバズーカによって落とし、
ルシェルド・チャルアの額に
落とす事で視覚を攻撃する。

その瞬間に白煙砲による
ボーンをかます事で、
尚の事効果が相乗する。

無論攻撃力なんてものは
皆無に等しい。
こんなものでダメージを
与えられる筈も無く。

しかし目的はダメージ付与では無い。
バッドステータス・ブラインド及び、
それによる時間稼ぎが主たる目的だ。

そして次にルシェルド・チャルアが
突撃をかましてくるその時こそが
千載一遇のナウゲッタチャンス。
その時に撃つしか無い。

ユキはおもむろに立ち上がり、
わざわざルシェルド・チャルアから
見える丘に自らの身を移動させる。

ここは敵から見れば見晴らしが良く、
獲物を狙うには格好の場所であり、
そしてユキから見れば岩礁を狙うには
一番適しているところだ。

つまりはこの上無い
ベストポジションという訳だ。
だが問題はルシェルド・チャルアが
ユキという餌に喰らいつくかどうかだ。

田中とマチルダの
挑発伝説が効果覿面で、
その点は全くの無問題だ。

後はユキの度胸と腕と運次第だ。
ユキという餌の存在に気づき、
ルシェルド・チャルアという
規格外以前の巨大弾丸が向かってくる。

勝負は一瞬。
まるで西部劇の映画のガンマンの如く
ルシェルド・チャルアに正対して
ユキが構えを取る。

もうすぐ……もうすぐだ。
引き金を引くチャンスは1秒も無い。
そして当のルシェルド・チャルアは
バズーカ砲に対しては意にも介さない。
鯱にとってバズーカ砲なんぞ
豆鉄砲の様なものだからだ

え~い!!

(SEボーン)
バズーカ砲が火を噴いた。
だがユキはしまったと今更ながらに思う。
引き金を引くタイミングが一瞬遅れたからだ。

だが塞翁が馬。
バズーカ砲の轟音が幸いする事となる。
その轟音はルシェルド・チャルアの突進を
一瞬遅らせる事となり、
そしてそれが引き金を引く
タイミングを遅らせるという、
最大にして致命的なミスの
リカバリーに繋がる事となる。.

バズーカ砲が火を噴き、
そしてルシェルド・チャルアの頭上の
岩礁の根っこを打ち砕く。
根っこを喪失った岩礁は、
重力に引かれて自由落下に身を任せ、
自爆神の額を強打する。

え~い!!

(SEボーン)
だが成功に浮かれる事無く、
更にユキは流石に努めて冷静に
ミスのリカバリーに対処する。
ミスに対して精神的な動揺を
些かも見せる事も無く、
白煙砲によるボーンを
ルシェルド・チャルアの
目元に対して正確に打ち込む。

ボーン
白煙砲を打ち込むスキル。ヒットすると数秒動きが遅くなる。
4126+P

効果は抜群だ。
額には岩礁をぶつけられ、
目には白煙砲をブチかまされ、
ルシェルド・チャルアは
視力に対する不意の間接的攻撃に
慌てふためいてその場で暴れまくる。

無論それによって周りに強風や
瓦礫の弾丸が無差別に襲い来る事になる。
だがマジだ。
旅客機が突っ込んでくる様な
ヤバい状況よりは遙かにマシだ。

「でもいつまでも
 ああやっているとは限らないわ。
 いつルシェルド・チャルアが
 リカバリーして襲って来るとも限らないし、
 次弾が来る迄にさっさと準備を済ませるわよ。」

ルシェルド・チャルアが
罠に引っかかった事により
生ずる可能性のある油断。
それを皆に戒めたのはみちるだ。

「各自各の判断で自分の能力適正を鑑み、
 速攻で適切なポジションについて
 ルシェルド・チャルアの攻撃に備える事。
 いいわね。」

みちるの指示が下り、
各自が自分の能力を発揮出来る場所に
移動しかけたその時だ。

突如ルシェルド・チャルアが
何の脈絡も前触れもなく突進してきた。
正直この現象はここにいる誰もが
予想だにしていなかった現象だ。

巨大な敵に襲われた時に
瞬間的に全身を激しく闇雲に動かす行為……
本来ならば人間を初めとする中小動物が
行うであろうこの現象を事もあろうに
ルシェルド・チャルアという巨大生物が
やらかしたのである。

そして間の悪い事に鯱の突進先には
白煙砲を撃って持ち場に撤収しようと
しているユキと百瀬がいた。

「後ろ後ろ!危ないデース!!
 後ろから60メートルのボディプレスが!!」

マチルダの警告が入るも時既に遅し。
60メートルのボディプレスが二人を襲う。

「あぶな……!!」

このままでは二人共
ボディプレスの下敷きになり、
南無阿弥陀佛になってしまう。

逃げろユキ!

刹那の判断。
百瀬がユキを突き飛ばして
横の崖につき落とす。
とっさの判断だが
この判断は理に叶っていた。

何故ならば百瀬自身はポジション的や
自身の態勢的にどう足掻こうと、
ボディプレスから逃れる事は出来ない。

だが百瀬の横にいるユキならば話は別だ。
とっさに崖に突き落とせば、
少なくともルシェルド・チャルアの
射程外に逃れる事が出来る。

崖の深さも高が知れているというもの、
それで被害を減らす事が出来る
百瀬の判断は実に理に叶ったものだった。

だが……だが百瀬がボディープレスを
まともに受ける事には変わりは無い。

洞窟に一生モノのトラウマになるであろう
ニブい凶音が響いたかと思うと、
まっるで打ち捨てられた人形の様に
百瀬が端から見ても人目で判る程、
骨がボキボキの状態で倒れ伏していた。

一方チームわっしぃのディグダグ作戦も、
ルシェルド・チャルアを殴って
傷だらけのフィストと化した今では
思惑とは違って作業は遅々として進まず
ただ時間だけが空しく過ぎていく。

「やるじゃない。
 俺達の命じゃ足りねえっつーのかよ。
 この業突張りの釘ヤロウが。」

「だがどうする?
 我々の拳のコンディションから見て、
 撃ち込みをするとすれば
 せいぜい後一発というところだ。」

「昔物理の教師から聞いた事が有る。
 全人類が同時にジャンプしたらどうなるかと。
 ならば俺達も一斉に釘にパンチを撃ち込めば
 厚い岩盤もイチコロだとは思うが。」

無頼の考えとはこうだ。
60億の人類が同時にジャンプすれば、
計算上ではマグニチュード5に
等しい衝撃になると。

だから四人が同時に
釘にパンチを撃ち込めば、
衝撃も層状的に増えるというもの。
さっきルシェルド・チャルアに
かました四連パンチの如くに。

「仕方があるまい。」

「そうと決まれば善は急げだ。」

「じゃあいくぞ。」

「いっせーの……」

せっっっ!!」×4

(SEゴッッッッ……)
四人の命を振り絞った
渾身の一撃が釘に撃ちつけられる。

四人が息を合わせてシンクロし、
撃ち出した拳が出した音は、
今までの甲高い殴打音とは
全く異なるズシンとした
低鈍音が周りに響いた。

四人の拳からは朱色の噴水、
つまり血流が一瞬勢い良く噴出した。
これは逆に言えば、
釘に対して少なからざる衝撃が
撃ち込まれた事を示唆している。

これで打ち止めだ。
四人揃って仲良く打ち止めだ。
これで水脈が出なければ
もう何もかもお仕舞いだ。

そして四人の願いが叶ったのか。
何か硬質のモノが罅割れる音が
周りに確かに響いた。

皆が思った。岩盤が破砕されっと。
ただし罅割れて粉砕されたのは
何と釘の方だった。
釘の強度が四人の拳の威力に負けて
罅割れてしまったのである。

それと同時に四人の心もぽきんと

折れるかアホダマー!!

壊れとる場合かー!!

おちょくっておるのかー!!

SON OF A ASS!!

それぞれ怒りのボーゲンを吐きつつ、
度怒り炎の助の感情のまま
四人揃って苦痛を無視して
潰れた釘にストレス発散パンチを撃ち込む。

するとどうだろうか。
罅割れた状態で耐久力零の釘は
四人のパンチの威力に耐え切れず、
文字通りバラバラに粉砕される。
そしてそこから噴水が……

「何故だ……?」

「何故砕けぬ!?」

「…。この俺の命じゃ不服だってぇのか…!?」

「ちくしょう…贅沢な野郎だな…くそったれめ!」

だが今度は吹き出したのは血の噴水ではない。
釘の刺さったところから岩盤が罅割れ、
そこから水脈の噴水が勢い良く吹き出してきた。

ヒャッハー!!水だーっ!!

特体生@名無しさんが勢い良く叫んだ。

「だが気をつけろよ。
 気を抜くとジャッカルに取られるぞ。」

我門も訳の判らん事を口走る。

「とりあえずは水脈がバーンした。
 瑞貴、後は頼んだぞ。」

「うん、判ったよ。
 瑞貴ちゃんがとっとと
 水脈をぐるんぐるんにしてくるね。」

早速瑞貴と名無しさん数名が
水脈を乱す作業に取りかかるが……

「ていうかアレやばくね?」

田中の指さした先、
そこにはルシェルド・チャルアが
こちらの目論見を暫く察知した様で、
瑞貴の作業を妨害しようと口から
波動砲をチャージしてボンバーしようと。

いや…皆がよく見てみれば、
波動砲の中身は口から怪光線ではない。
大量の水を圧力を利用し、
まるで水鉄砲の如く対象に向けて
放つ形式の攻撃方法だ。
つまり巨大な水鉄砲。

何故今までに繰り出してきた
怪光線ではなく巨大水鉄砲なのか…?

口から怪光線は今までのそれを見る限り、
チャージするまでに少なからぬ時間を要し、
そしてボンバーするまでにも
少なからぬタイムロスを要する。

当然ながらその攻撃から
瑞貴が待避するだけの時間を
容易に捻り出せる事は明白だ。
しかも水脈に直接当たれば
水脈が乱れる事にもなりかねない。

一方水鉄砲ならばチャージする時間が
大幅に短縮出来る利点が有る。
何しろ自分の体液なのであるから。

そしてもう一つの利点。
もし水脈に直接当たったとしても、
水脈が乱れる事は無い。

何故ならば同じ水が当たったところで
水脈は乱れる事は無いからだ。
だがその攻撃の意図に
気付く事それ自体ならまだしも、
その水攻撃に対して適切に対処していくだけの
時間的余裕が無い事は誰の目にも明らかだ。

即ち瑞貴に待避するだけの
余裕すら無いという事だ。
誰もが思った。
瑞貴には確実なる戦死が待っていると。

「んしょ。んしょ。」

だが当の瑞貴は全く動じてはいない。
攻撃に動揺するどころか、
平常通りに水脈を乱す作業に従事している。

まさか水鉄砲攻撃の標的に
自分が指名されている事に
気付いていないのであろうか?

いやいやそれはあり得ない。
幾ら暢気な瑞貴でもあり得ない。
瑞貴の視線の先にはチャージ中の
ルシェルド・チャルアの姿が
バッチシカンカン見える上に、
周りの皆も騒いでいる。
これで気付かない訳が無い。

となれば残る可能性は二つ。
攻撃が執行されるまでに
水脈を乱す事が出来ると
思っている楽観的観測か、
それとも攻撃を避ける事は
土台無理と悟り、
それならば一命を賭して
水脈を乱そうとしているのか……

だがどちらにせよ、
作業が終了する前に
水鉄砲が来る事はほぼ確実だろう。

あれこれかんがえているうちに
ルシェルド・チャルアは
みずきにとくだいのみずでっぽうを
いっぱつくれました。


その威力。その速さ。その勢い。
どれをとっても正に並の洪水を
遙かに上回るであろう、
水鉄砲と称するにはあまりにも
桁が違う水撃の奔流に、
誰もが瑞貴の確実なる
死亡確認を確信した。

周りの岩礁はまさに
ドリルに削り取られる岩肌の如く
ぼろぼろに無惨な岩片と化していき、
瑞貴に対するウォーターマグナムの
威力を赤裸々に物語っていた。

(大帝国BGM:征くは星海)
「みんな~。
 後ちょっとだから
 もう少し待ってて~。」

水の一撃が収まってから
十数秒程した後に。
だが瑞貴の声が高らかに響いた。

しかもその声の暢気さや
大きさから察するに、
皆が予想していた凄惨な結末を
瑞貴が迎えていない事が理解る。

高らかに舞う水飛沫が
全て収まった後に見えるは……
何と瑞貴だった。
しかもハナテウォーターを喰らう前よりも
瑞貴はよりエネルギッシュにより力強くなっている。

「これは…おそらく属性相性による
 水属性吸収の現象ですわ。」

「ぞ…属性相性?何のこっちゃ?
 俺にはサパーリわかんねえんだけど。
 ワリィ!エクレール、説明頼むわ。」

「人それぞれが持っている
 火や水等の属性の事ですわ。
 瑞貴ちゃんには水属性、
 雷蔵クンには雷属性とありますけど、
 特体生の場合だと極端な場合は
 今の様に相性のいい属性の攻撃は
 逆に吸収する事が有りますの。」

「我が鈴家に伝わる五行説と同じ様なものか。」

「Jud{あい}、しかし気をつけて下さい。
 次の攻撃がすぐきます。」

シオンが指さした先、
ルシェルド・チャルアが
攻撃の為に次弾を装填していた。
しかも勿論水ではない。空撃砲だ。

これならば水撃よりも
大幅に威力が落ちるものの、
それ以上に溜め時間が短縮されるという
大きなメリットがある。
そして瑞貴を葬るに十分な威力。

その大気をルシェルド・チャルアが
大きな口から集め始めたその時だった。
不意に辺りに爆音が轟いた。

まるで大きなタイヤがパンクした…
とでも形容すべきだろうか。
皆が恐る恐るその音の音源の方、
つまりルシェルド・チャルアの方に
視線を移してみると……
この鯱、妙に苦しんでいる。

「もしかして瑞貴が
 水脈を乱し終えたから
 苦しんでいるんじゃね?」

いや、違う。我門の推測は外れだ。
瑞貴はまだ水脈を乱す作業に
絶賛取りかかり中だ。

「てか何か変なもんでも
 拾い喰いでもしたんじゃね?」

「変なものとは?」

「例えば…マチルダと田中のゲゲボメシ!!」

「……今頃効いて来たのかよ。」

天から大きな奇貨が施された。
先程マチルダと田中が
無理矢理喰わせた毒飯が、
今頃になって効いてきたのである。

そしてそれは瑞貴の作業時間の許容量が
増加する事に他ならない。
それはほんの……
ほんの僅かな時間かも知れない。
毒飯と言っても毒への耐性は
自爆神だけに強大だ。

すぐさま回復してくるのは明白だ。
だがそれでもいい。
それで時間は十分だった。

「終わったよぉ~。」

ルシェルド・チャルアは
全身から紫の禍々しい煙を出しており、
瑞貴の終了の合図と共に、
その様子は目に見えて衰弱しているのが
素人目からでも見て取れる。

ナウゲッタチャンス。
今ならば愉快な仲間達が総出で
弱りきったルシェルド・チャルアを
フルボッコタイムに出来る
一世一代のビッグ勝負に出られる。
その先陣を切ったのはエクレールだ。

「早い……正に雷{イーニッジガルイイ}だ。」

狙うはルシェルド・チャルアの
体の末端部分だ。
新開とのスパーリングの最中の事、
エクレールは
「自分よりも明らかに巨大な敵を
 相手取った時の対処方」
を伝授された事を思い出す。

対処方の「巨漢は末端から攻めよ」
とのセオリー通り左ひれに対して
でぇぇ~~~っ!!
と大斬りで攻め込む。

驟雨雷煌斬{エル・トール}
背中を見せる程に大きく振りかぶった後、
跳躍を伴って電撃を纏った斬撃を放つ技。
立花誾千代の実の父・立花道雪が得意とした技とされる。
6321466+PP(ゲージ1本消費)

エクレールの驟雨の如き斬撃は
ルシェルド・チャルアのひれを深く斬り裂く。
効果はてきめんバツグンだ。

zldsjふぇpwpwpっwdg!!

自爆神の叫びはそれを端的に証明している。
だが物事には必ず表と裏が存在る。
森羅万象二極一対、男と女、陰と陽、仁王像の阿と吽。
今回の攻撃にしてもそうだ。
端的に言ってしまえば
ハイリスクハイリターン。

深く踏み込んで攻撃すればする程、
攻撃手の身も危険に晒す事になる。
その危険とは…尾びれによる反撃だ。

その尾びれによる反撃は
正に数十万トンクラスの
衝撃と言っても過言では無い。

「エクレール!!ひれだ!!
 ひれに稲妻レッグラリアートを
 かましてその反動で回避だ!!」

そのエクレールにアドバイスの
助言を出したのは新開だ。
現在のエクレールの姿勢は斬撃を終え、
その直後の姿勢であり、
ここから体勢を立て直して逃げるとなれば、
尾びれの攻撃から逃げる事はほぼ不可能、
かえって無防備な後ろ姿をさらけ出す事となる。

逃走による回避が不可能であるのならば、
防御態勢をとって尾びれの攻撃を
受け止めるという手段も有るが……
それは無謀だ。余りにも無謀だ。

そんな事をすれば
台風の前の瓦礫の如く
吹っ飛ばされますぽきん。

となればレッグラリアートを
左ひれに叩き込んでその反動と
黒い翼を仰ぐ事による反動で
危険圏から逃れるが最善策。

稲妻レッグラリアート
跳躍を伴いながら体を90度方向横に流し、
ラリアットの要領で浴びせ蹴りを叩きこむ技。
66+K

「でっ!!」
エクレールの雷腿{サンダーフット}が唸り、
プロレスリングの高等打撃技術、
稲妻レッグラリアートがひれを強打。

しかし従来のレッグラリアート、
いや、レッグラリアートに限らず、
あらゆる攻撃というものは
標的にいかに衝撃を与え、
そして反動を抑制するか、
つまり如何にダメージ効率を
良くするの工夫に腐心なされている。

だが今放ったレッグラリアートは違った。
それは従来のレッグラリアートとは真逆の
ダメージを与える目的ではなく、
如何に反動を利用してその場から
逃れる事に特化した性質の打撃だ。

だがまだだ。
ラリアートを放ったエクレールが
自分の位置を見るに、
そこはまだ尾ひれの攻撃圏内だ。
ならば……

エクレールの背中の黒い翼が羽撃いて、
更に反動を強化した。その結果が……
黒髭危機一髪、正に髪の毛程の間で、
尾びれはエクレールを叩き損ねた。

そして危機の後に好機有り。
思いっきり尾びれを振り回した
ツケは非常に大きく、
ルシェルド・チャルアの姿勢は
大幅にイビツな格好を
取らざるを得なかった。

そこに叩き込まれるは

猛砕!

猛砕{もうさい}
右手で鋭い手刀をドリルの様に突き出す突進打撃技。
追加コマンドで少し跳躍してしゃがみ防御無視の
脚技による連打を喰らわす猛砕訣貫がある。
P貯めP離す

砕拳!

砕拳{さいけん}
極限にまで高度を高めた拳撃による打撃技。
上位互換に左右のコンビネーションの
浮竜{ふりょう}砕拳が存在する。
236+P(浮竜砕拳は追加コマンド236+P)

キシラルとグレッドによる
いちかばちかのカウンター狙いの
ダボーパンチを頬肉に向けてかます。

インパクトの瞬間、二人は思った。
脳内に浮かんだイメージは、
長年に渡り風雨に晒されながらも
殆ど欠損をする事の無い丸みを帯びた岩、
それにラーバゴムと鉄分の塊をコーティングさせ、
ダメ押しに鋼鉄で固めた様なそれだ。

言う迄も無く打撃というのは
己の身を当てると書いて「当て身」。
例えば割り箸び紙袋には強度は皆無。
だが、超速で割り箸に叩きつけることにより、
弱いはずの紙で箸を折る事も可能になる。

そして標的は割り箸の
紙袋なんてものではなく、
肉厚なんてレベルを
遙か遠くに通り越している頬肉。
強いて言えば筋肉の山だ。

そんな代物を本気で殴打すれば、
腕が折れるどころか、
下手すれば腕そのものが
肩から根こそぎ持っていかれる
可能性も十二分にある。

だが構わん。我々は一向に構わん。
とばかりに撃つ手を止めない。
ともあれ全治ウン週間の重傷と引き替えに、
かなりのダメージを頬肉に与える事に成功。

そして間髪を入れる事を許さず。
久那岐の銀鎖がルシェルド・チャルアの
一番細い部位に巻き付いた。

その刹那。鯱は強大な声で咆哮した。
~~~~~~~~~ッ!!!!!!
今までのそれとは聞いただけでも
明らかに質が異である事が理解る。
何故ならばこの銀の鎖の感触は
ルシェルド・チャルアに
ある事を思い出させたからだ。

遠く昔の戦国時代。
蘇った自分を戦国大名・毛利家と
オフランスの連合軍の所持する
聖なる小娘の遺品たる銀鎖によって、
しこたまシバかれ、シバられ、
挙げ句の果てには銀鎖の力で
この地に妖滅されてしまった、
その苦い記憶が有るからだ。

無論自分の祖先である御老公が
行ったその事を久那岐は知っている。
知っているからこそ押し入れの中で
埃を被っていた銀鎖を
わざわざ取り出してきたのである。

人狼系能力者特有の馬鹿力で
立ち直る術と時間を寸毫も与えず、
久那岐は銀鎖を引っ張りまくり、
そしても一方の銀鎖を……
扇奈の腰に巻き付ける。

周りの衆が。一瞬どん引きした。
いや…正確にはリアクションを
どうとっていいのか判らない。

それ程に唐突で突拍子……
いやそれ以前の行為だからだ。
だが当人たる扇奈は
平然と落ち着いている。

これは名付けて
「銀奈{アルジョント・センナ}」
の攻撃態勢だ。

銀奈{アルジョント・センナ}
久那岐が扇奈のついた銀鎖を振り回す事による、
前代未聞のこの技はいわば意思を持った鎌であり、
その威力と攻撃力は絶大なものであると言えるが、
当然両者には絶妙な呼吸の一致が要求される。
タッグマッチ時に4126+P

銀鎖の軌道は久那岐によって
ある程度操縦が可能であり、
それによって翼を持たなくても
立体的な機動が可能となる。

無論並大抵の者では遠心力が生み出す
鎖の締め上げの圧力により、
内蔵が口から…いやその前に、
胴体が真っ二つに泣き別れになる。

だが扇奈の腹筋を見てみると、
腹筋がそれ自体光っているが如く
ギンギンにパンプアップしている。
これを極めたる者は処女膜までもが
腹筋と化すと言われる程の力技だ。
これを以て数々の立体機動的な攻撃の数々を
行う事を可能としている。

立体的な軌道から繰り出される
数々の斬撃は鯱の肉体を切り刻み、
仕上げは扇奈自身が腰の銀鎖を外し、
ルシェルド・チャルアのうなじに
強烈な一撃を加え、そして……
反撃を受ける前にヒットアンドウェイの
要領で瞬時に離脱。
後には何も残存らない。

「また詰まらぬモノを斬ってしまいました。」

だがこのままで終わる訳もなく。
扇奈の立ち去った直後の事だ。
ルシェルド・チャルアの口から
無数の光弾がまるで
ショットガンの如く発射される。

当然ながらさっきの
口から怪光線の様な
貫通力が有る訳では無い。
そして触れるモノを瞬時に
破壊する強大な威力も無い。

だが一目で判る程の無数の数が
それらの欠点を補って余り有る
驚異に仕立て上げられている。

そもそも幾ら威力が無いとは言え、
元々の威力が高いが故に
数が分散してもそれなり以上の
威力を誇るのは当然の事。

「Jud(あい)。ここはシオンに任せて下さい。」

しかしその言葉と共に
無数の光弾の前にシオンが立ち塞がる。
屈強の戦闘系特体生でも
凌ぎきれるかどうか判らないのに、
シオンがどう対処するのか……

皆がそう思ったその時だ。
「Jud(あい)。」
シオンの言葉と共に襲い来る無数の光弾が
目に見えない風の壁により減殺されていく。
おそらくはシオンの特体生能力なのであろう。

紫苑{エル・アトラシア}
目の前に見えない風の壁を貼る事による対飛灯具技。
4666+PPP

だが減殺されただけで、
光弾そのものはまだかなり生きている。
察するに本来の風の壁の範囲は
守護る対象が個人用の極めて狭い範囲の
空間しかフォローしないのであろう。

それを無理矢理広範囲に
フォローさせたのであるからして、
当然の事ながら風の壁の厚さと効果は
カルピスディ。

「ふんっ……!!」

突如轟いたのは震脚による轟音。
その轟音の原因たる震脚を
地面に向けて放ったのは凛だ。

象化の闘(ぞうげのとう)
藤宮流柔術の体術の一種で、
体術によって実際の体重とは関係無く
体重を蝶の様に軽くしたり
象の様に重くさせる技。
222+P

その象化の闘により実質数百キロになった
体重で繰り出される震脚がもたらす揺れ、
それによって鍾乳石や石塊等の落下物が
次々と光弾めがけて自由落下してくる。

そして間髪を入れずに
光弾を強襲するもの有り。
マホコの炎で炒られて熱く、
それでいて強固に固まった豆と、
麗蘭の放つ無数に舞う純白の羽根。

白羽殲風陣
背中の白い翼からナイフの様に鋭い羽を次々と繰り出す技。
1(溜め)316+K(パワーゲージ1本消費)

これらが嵐の如く
絡み合って螺旋を成し、
それらが風の壁によって
勢いと威力を殺がれた
光弾を次々と纖滅していく。

「ならば次は動きを封じよう。」

雲水が袖から出した無数の符を
Bパワーと麗力で自分の周りに浮かせる。

オーム ヴァジュラ マヌパラヤ
 ヴァジュラ ディドメパワ
 サルバ サルバ カルマ チッターム

怪しさ大爆発の呪文にて雲水が護符にパワーを。
いいですとも。
それに連動して殆ど何も描かれておらず、
ほぼ白紙といっても過言では無い護符に
アイアムアボーイジスイズアオクトパス、
つまり解読不可能な梵字が浮かび上がり、
護符を呪いの符、呪符となす。

それらと同時に雲水の周りには
梵字で形作られた光る文字の帯が
数本輪を成してまるで木星の如く
雲水を取り囲む。
これは平安時代に生まれたとされる
一子相伝の陰陽師の秘術だ。

オンキリキリハラハラフタランパソツソワカ

そして祝詞の言葉の数と
正比例するかの如く、
文字の帯の長さと本数が
加算されていく。

オン!!

裂帛の気迫による結びの言の元、
それら梵字の帯は完成された。
霊力を纏いし呪符が舞い、
ルシェルド・チャルアの巨躯を
戒めている鎖に自動的に絡みつく。

その様子はまるで借金取りに
差し押さえられた数々の家具や調度品に
酷似してやまない。

かつて幼少の頃にたまたま
TVで目にした悪司の帝王で出てきた、
悪徳借金取りに差し押さえを食らう場面を
今更ながら無頼は思い出した。
何度見てもフラストレーションが
貯まるシーンだ。

一方エクレールも思う。
こんなボンビーな時代を
思い起こさせるトラウマな光景を、
もし美亜子に見せたらだ。
過去のトラウマに塩を送る様な
行為ではないかと。

現に名無しさん@特体生が数人、
心のトラウマに塩をギフトされ、
現在絶賛悶絶中となっている。

そうこう皆の衆が考えているうち、
雲水の術式は終幕を迎える。
雲水の周りを木星の輪の如く
回転し続けていた梵字の輪は、
一本残らずルシェルド・チャルアの
巨躯の肌に耳無し芳一のお経の如く
びっしりとプリンティングされている。

自爆神であるルシェルド・チャルアを
妖滅する為の下準備の一環としての呪印だ。
無論ルシェルド・チャルアの力を
押さえる役割をも果たしている。

「じゃじゃ~ん!!」

その直後に慶が取り出したるは
薙刀「運慶」「快慶」の二振りだ。

「いっくぞー!!」

掛け声一閃、慶は「運慶」「快慶」を
まるで頭上でヘリコプターのプロペラを
回すが如く振り回す。

泰山双刀剣
薙刀をヘリコプターのプロペラの如く回転させ、
を回転させ、小竜巻といえるほどの風圧を起こす技。
2222+PP

手にした薙刀を高速で旋回させて空を飛ぶ、
いわば人間ヘリコプターとでもいうべき技。
古今東西、世界各地には鳥人伝説が多々あるが、
中国においては金斗山に住むという仙人が有名である。
これを極めるには両端に羽状形態を有する杖・棍等を、
尋常ならざる速さで回転させる為の手首の力は勿論、
ずば抜けた平衡感覚が必要とされる。

これで人間ヘリコプターとして飛翔し、
上空のルシェルド・チャルアに
カチコミをかけようと言うのか。

それ自体はナイスアイデアだと皆は思う。
同時に幾ら慶の馬鹿力でも無理だと思う。
中国拳法の蘊奥を極めた者でなければ
そんな芸当は到底無理だ。

皆がそう思って落胆したその時だ。
突如慶を中心にして小規模の竜巻が
形成されて上昇気流を成し、
慶の周りにある葉っぱや木っ端等の
軽量の有象無象がその上昇気流に乗って
まるで台風の如く宙を舞う。

行為自体はかなりの技量がなければ
成し得ない高等技術であり、
対人用の目眩ましとしては
非常に効果が有る技術だ。

だが相手は規格外の自爆神。
そんな目眩まし如きが
通用する訳も無く。

否…通じる通じない以前の問題で、
例えるならばマンモスサイズの象に
目潰し目的で一握りの砂を
目に向けて投げつける様なものだ。
効く効かないとかそれ以前に、
相手の目に届かせる事すら出来ない。

しかし何の脈絡も無く、
慶が跳躍んだ。ただ跳躍んだ。
何の術式も施している訳でも無く、
かと言って縄鏢等のアイテムが有る訳でも無い。

ただ単に高く跳躍んだだけだ。
流石に十二神に数えられるだけあり、
慶の跳躍力は本業ではないものの、
全特体生の中でも上位にある、
と言っても過言ではない。

だがいかんせん上空の自爆神に
到達するのにはまるで遠過ぎる。
だが空中で慶がまた跳躍んだ。
これは一体どういう事か?

跳躍力と重力釣り合ってそれらが0になっり、
そして浮遊状態になるその瞬間に。
その一瞬を使ってしなやかな全身の筋力と
荷重のかかる薙刀の反動を駆使して
初めて可能と言われる二段跳躍か?

いや、これは全然違う。
二段跳躍の技法を以てしても
せいぜい飛べるのは
1~2メートル位のもの。

そもそも二段跳躍というものは
一段目の跳躍の時に、
後少し跳躍力が足りない時の為に
とっさに行われるものであり、
今の状況の様に明らかに
高さが足りない時に使っても
何の意味も為さないし、
今慶が空中で飛んだ高さは
1~2メートルどころではない。

それどころか慶は二段跳躍を終えると、
空中で三段跳躍までかます。
これは一体どういうカラクリなのか?
皆がその疑問を抱いてよくよく見てみる。

すると慶は宙に浮かんで
ゆっくりと自由落下を始めている
葉っぱや木っ端を足場として用い、
そして跳躍をなしている。

鶻宙身の法を以ちて、
それはまるで宙に舞う扇に乗って
舞うが如き軽やかさで、
葉っぱや木っ端、木っ端と葉っぱ、
それらを跳躍していく。

鶻宙身の法
空中に浮いている物質を足場にして跳躍する移動技。
空中に浮いているオブジェに乗ってジャンプ

「とりゃー!!」

そして薙刀「運慶」「快慶」による一刀両断技、
穀蔵院一刀流奥義「二刀流烈斬」が
ルシェルド・チャルアの眉間に
見事命中し、効果を示すが如く轟音を上げる。

二刀流烈斬
薙刀「運慶」「快慶」を×印状に叩き込む大技。
236236+P(ゲージ1本消費))

「眉間、ルシェルド・チャルアにとって、
 そこは弁慶の泣き所。よくやった。」

その効果はダメージ付与だけに止まらず、
弁慶の泣き所である額を強打された
ルシェルド・チャルアの思考能力を奪い、
そしてそれは同時に自爆神の飛行能力を
奪うという事に直結する。

例えるならば水泳の達人が水泳中に
何がしかのアクシデントに見舞われ、
そのまま溺れてしまうかの如くに。

空高く飛ぶルシェルド・チャルアの
飛行能力が喪失われるという事は、
即ち自由落下による墜落及び、
狼牙軍団の攻撃範囲に
自分の身をさらけ出す事を意味している。

「よくきてくれた。
 こんなところですまないが、
 まあゆっくりしていってくれ。」

その墜落してしっちゃかめっちゃか、
ぶんだりけったり状態の
ルシェルド・チャルアを迎え入れたのは、
正に豪烈拳の構えでバリバリに
歓迎の意を示している豪だ。

そのギランギランの表情からも、
歓迎の意がモノホンだと言う事が
ありありと見て取れる。

「マリっち、エクレっぺ、ちょいとちょいと。」

「何です?」×2

ルシェルド・チャルアが重力によって
自由落下をかましている最中に、
マチルダがマリーシアとエクレールを呼んで
何やら密談をしている。
その表情は一目見ただけで
グッドアイデアを思いついた、
という表情がありありと見て取れる。

「たった今思いついたんデスが、
 お二方に協力してほしいんデスよ。
 私が自爆神の眉間に対して
 ドリルキックなグレート技を
 かますつもりデスんで。
 そこでお二方には黒い翼で
 アーチを作って貰いたいデス。」

「アーチ?」×2

「そーデス。それを弓のリムに見立てて、
 そして私自身を矢に見立て、
 私のツインテールを弦に見立てるんデス。
 それで矢を穿つ如くに
 私のドリルキックをかますんデス。
 名付けて雷錘龍捲{ミョルニルトルネード}デス。」

「え、ええ……」×2

その頃のルシェルド・チャルアは
袋叩きのフルボッコ状態にあった。
今まで標的が上空にいる、
即ち文字通り手の届かない
雲の上の存在であったが故に、
待機状態であった面々、
主に名無しさん@特体生が
今までのお礼参りとばかりに
寄ってたかって只今絶賛
ヒャッハータイムバーゲンセール中。

一人一人の攻撃力は自爆神から見れば
ほんのアリンコの一噛みだが、
それが多数でくると結構痛い。
無視出来ないくらいに痛い。
実際軍隊蟻は象すら捕食すると言う。

「いくぞオラァ!」

「よっしゃー!」

「オラオラオラオラァ!」

「ゴメンネ!」

「どうしたどうしたぁ!」

「こっちこっちぃ!」

「うるぁうらぁ!」

「オヤジィー!」

「ドヒャー!」

「オーイェ!」

「ラクショー!」

「ヒャッホーイ!」

「もう一丁!」

「なめんじゃねえぞ!」

「ヘイヘイ!」

「どないしたんや?」

「こっちこんかい!」

「蝶余裕だぜ!」

だが彼らの目的は単に
ダメージを与える事では無い。

「皆ご苦労だった。」

これまでの一連のフルボッコの
トリをかざるのは豪烈拳を構えた
豪の鉄拳だ。

終わりだ!!

鉄拳一閃・大鯱{シャチ}撃破とばかり、
ルシェルド・チャルアを強打する。

豪烈拳
片足を半歩引いた半身の姿勢で
→腕をやや曲げながら前に伸ばし、
左腕を後ろに引いて水月に持って行く
斬魔の構えにより相手の攻撃を受け止め、
手首・肘・肩・腰・膝・足首全てを用いて
自身の上半身を螺子と化して
攻撃の衝撃を蓄積した後、
発条{ゼンマイ}と同じ要領で足首から手首へと
威力を螺旋状に駆け巡らせ、
使用者である豪の打撃と併せて相手に叩き返す技。
632146+PP(ゲージ2本消費)

片足を半歩引いた半身の姿勢で
→腕をやや曲げながら前に伸ばし、
左腕を後ろに引いて水月に持って行く
斬魔の構えにより相手の攻撃を受け止め、
手首・肘・肩・腰・膝・足首全てを用いて
自身の上半身を螺子と化して
攻撃の衝撃を蓄積した後、
発条{ゼンマイ}と同じ要領で足首から手首へと
威力を螺旋状に駆け巡らせ、
使用者である豪の打撃と併せて相手に叩き返す技。

インパクトの瞬間、皆は思った。
全学連のトップクラスの特体生。
それが放つ一撃、しかもだ。
最大限の一撃と自爆神の肉体の激突、
この現象がもたらすのは
反動による膨大な衝撃波及び、
その衝撃波に乗って襲い来る
代償の瓦礫の牙だという事は
容易に想像出来ていた。

故に皆はそれらの来襲に備え、
瓦礫が己の身に襲いかかってきても
対応出来る様に態勢を整えながらも、
来るべき時を待つ。

だが予想していた筈の衝撃波も
瓦礫も一向だに来ない。
これは一体どういう事なのか?
と皆が恐る恐る豪のいる場所を見る。

そこには豪烈拳を放った豪の拳の先の
ルシェルド・チャルアの肉が
まるで衝撃波を受けたかが如く波打ち、
そして赤く肉離れの腱鞘を起こしている。

つまり豪が放った豪烈拳の衝撃の対象たる
ルシェルド・チャルアの肉体は
余りにも巨大であるが故に、
豪による衝撃波を肉体の内側まで
浸透させる事は豪にとっては
非常にたやすい行為だという事だ。

判り易く言うなれば、
衝撃波による転換を初めとした
攻撃力のロスを殆ど生じさせる事無く、
攻撃力をほぼ十割ダメージに
変換させる事が出来たという事だ。

それと時を同じくしてマチルダ達が
雷錘龍捲{ミョルニルトルネード}を行うべく
行動を開始している。

マリーシアとエクレールの二人は
背中の黒い翼を弓のリムの形状と為し、
そしてそれをマチルダのツインテールが
弓の弦の役割を果たしている。

そして矢の役割を果たすのは
他ならぬマチルダ本人だ。
弦に相当するツインテールが
極限まで伸ばされ、
マチルダを発射する為の
力を貯めていき、

「とりゃー!!」

イモ女のキックが発射された。
しかもそれはただの蹴りと異なり、
ドリルの様に錐揉み回転しながら
足から前方に突っ込んでいく、
まるでドリルの如き蹴り技だ。

フルト・シュピラーレ
ツインテールを弦に見立てて弓矢の如く
自分を矢にしてドリルキックをかま蹴り技。
2146+KK

その高速で回転するドリル的なキックが
ルシェルド・チャルアの眉間に
見事クリーンヒットし、
マチルダの足先こと鏃は見事に
自爆神の眉間に突き刺さる。が。

「うおっ!?ぬぬぬ抜けないデス!!
 足が抜け抜け抜けなくなりました!!」

あまりにも威力が強すぎたのか。
足先がズブリと突き刺さってしまい、
足先に肉が絡みつく様な形で
抜けなくなってしまったのである。

「うおっ!?しかもお腹に違和感が!!」

しかも蒸かした山芋を食べ過ぎたのか、
今の衝撃がトリガーとなって
マチルダはお腹の辺りに違和感を感じる。

とっさに足先を外してトンコしなければ、
ルシェルド・チャルアが苦痛で
大暴れ天童してマチルダも只ではすまない。

だが只でさえ足先はズブリと
深く肉に突き刺さっており、
容易な事では抜けない。
その上腹部の異変により、
マチルダは全力を出せない。

今現在マチルダは八方塞がりに陥っていた。
あれこれしているうちにタイムリミットは
無情にも刻一刻と近づいていく。
にも関わらず、腹部の異変は収まらない。

「こーなれば仕方が無いデス!!
 おりゃ!!」

マチルダが決断したのは、
腹部の異変が取り返しの
つかない事になる前に、
何とか最後の全力で足を
肉から引っ張りだし、
大脱出する事だ。

だがその為には腹筋に力を
込めなければならないという事だ。
今の腹の状態で腹筋に力を込めれば
どういう事になるのか判らない。

だが背に腹は抱えられない。
これしか方法が無いと腹を括り、
マチルダは腹筋にあらんばかりの
全力を込めて足を引っ張り出す。

だがその行為はマチルダ……
いや……周りの者が皆
予想だにしていなかった
珍事を引き起こす事となった。

マチルダが腹筋に力を入れた瞬間。
いきなり何の脈絡もなく
ルシェルド・チャルアの眉間の辺り、
つまりマチルダのいる場所で異音がした。
それも爆音ににた異音だ。

視線を移すとそこには
硫黄色の煙が充満しており、
皆は最初そこの中にマチルダが
いるものと思いこんでいた。
だが当のマチルダは

「いたたた……」

どういう理屈なのか眉間から見事に脱出し、
ルシェルド・チャルアの眉間から
離れたところに吹き飛ばされていた。

そして再び眉間に視線を戻してみると、
その硫黄色の異様な煙を吸い込んだのか、
一目見ても判るレベルで壮絶に
自爆神が悶絶しているのが見て取れる。

「Jud{あい}、これは……!?
 マチルダが放屁した音です。」

流石はシオン。
セメント系ヒロインの冷静さで、
マチルダが起こした異変の正体を察知する。

つまりマチルダが起こした
放屁の威力の反動で足が引っ張り出され、
そしてマチルダ本人をも
吹き飛ばしたというのである。
蒙古流拳法の流れを汲む秘法儀を
マチルダは使用したのである。

「今こそ絶好の好機、
 狼牙{マッイイツォ}、奴に止めを。」

「ああ。判っているとも。」

この土壇場にきて主人公である
狼牙の出陣が入った。
つまりFATALITY FURYの時間だ。

既に狼牙の体は完治しており、
その上パンプアップの為の
準備体操もバッチグー。
後は究極の神の拳を叩き込むだけだ。

「喰らってくたばれ!!
 影狼拳{シャドウ・ファング}!!

狼牙のニューブルーが唸りを挙げて
ルシェルド・チャルアに叩き込まれる。

影狼拳{シャドウ・ファング}
肩からの体当たりの後、上昇しながらのアッパーで相手を浮かせ、
浮いた相手に拳を叩きつけて追撃する。
623623+P(ゲージ1本消費)

今やルシェルド・チャルアの状態は
全学連総出でのフルボッコを受けて
ピヨリ状態にある。

「後の妖滅は任せたぜ。
 ブラック・ホース。」

「判った。」

ルシェルド・チャルアを
ピヨリ状態に陥らせた後、
狼牙はブラック・ホースに
自爆神の妖滅を一任する。

狼牙の一任を受けたブラック・ホースは
おもむろに手に携えていたロッドを
奇妙な軌跡を描いて動かし始める。

それを見ていた皆は最初ブラック・ホースが
何をしているのかがよく判らないでいた。
だがロッドの軌跡の後に残った
Bパワーの形状を見て見ている者全てが
その軌跡と意図を察する事となる。

ロッドの軌跡の形状は
鯱の地上絵を形作っている。
即ち自爆神である
ルシェルド・チャルアを
妖滅封印する為の行為という事だ。

軌跡の後に形作られた
鯱の地上絵を模した絵柄は儚く薄く、
しかし徐々にはっきりとした形を
作っていき……

Mamakuna Mamaqucha Qaraku……

まんくちゅあ語の呪文が終わると同時に
地上絵の模様は青白く光輝き始め、
それらがまるで生き物の如くうねって
ルシェルド・チャルアの表面に
取り付くが如くひっついていく。

端から見ればまるで
ルシェルド・チャルアがまるで
全身入れ墨をしているかの如く。
そしてブラック・ホースの
囁く詠唱が念じられる祈りと共に
終わりを告げると同時に……

「自爆神が……地の底に帰っていく……」

まるで地面に溶け込むかの如く、
ルシェルド・チャルアの巨躯が
地面に沈んでいく。

妖滅完了。

これで京から続いた一連の戦闘は
一応の収束を迎えたかに見えた。
だが……

(ランス9BGM15:絶体絶命)
「助けてユキ!!ももっちが!
 ももっちが息をしていないの!!」

だがもう一つの問題が浮上してくる。
ルシェルド・チャルアの下敷きになり、
瀕死の重傷になっている百瀬の事だ。

「こいつぁひでぇな。重症だ。
 だが特体生の持つBパワーを
 同じ特体生に分け与えれば、
 この程度の重症は何とかなる。
 頼むわマリーシア。」

「はい。」

これはどういう事なのか?
特定の技能を持った特体生は
体からBパワーを球状にして取り出すことが出来、
これを別の特体生に与えて負傷や疲労を回復させたり、
桁違いの莫大なBパワーを与えれば
特体生の死者を生き返らせる事さえ出来る。

即ち狼牙は自分達の
Bパワーを百瀬に与える事で、
特体生によるBパワーでの
回復を促そうとしたのである。

残念ながらこの方法では
エネルギー効率が良くない事もあり、
普通ならば使われない方法だが、
緊急の処置としては悪くない処置だ。

マリーシアが狼牙達から
Bパワーを球状にして取りだし、
そして百瀬に与える。
これで一件落着。
後は三国い帰投するなり、
ここで一服するなりして
体制を整えれば……

皆がそう思ったその時に。

「え?」

思惑とは正反対の事が起こった。

「体が…Bパワーを受け付けないです!!」

Bパワーを分け与える事は
基本特体生ばらば誰でも出来、
その中でもマリーシアには
Bパワーを治癒力に変換えて
他の特体生に分け与える技能がある。

その技能を以て百瀬に
B治癒力を与えれば、
百瀬は回復する筈だ。

しかし百瀬の体は一向に
回復の兆しが見えない。
というよりもBパワー自体を
受け付けようとしない。

「だって…」

「え?」

「だって俺は特体生じゃないから……」

百瀬の口から。
さりげなくトンデモ重要なセリフが
あっさりとこぼれ落ちる。

「確かに特体生ならば
 Bパワーは体が受け付ける。
 だが壮一が特体生じゃないならば
 残念ながら話は別だ。
 特体生にしか受け付けられない
 Bパワーをいくら非特体生に
 与えようとしても出来ない。」

「という事は……」

「ああ…ここでは少なくとも
 壮一を助ける事は出来ない。」

田中の口から漏れた残酷な事実が
周りの空気を限りなく重くする。
このままみすみす百瀬を死なせるのか……

「黒い宣告をしなければ……
 いや、それはまだ早い!!」

黒い宣告{ラビカージュ・ド・ノワール}とは
負傷した負傷兵の治療優先順位中において
治療しても回復の見込みがない兵士、
あるいは既死兵に告げられる宣告を指す。

そして世界中に魔界孔が現れた後に
世界の人口の殆どが駆逐され、
それに伴って特体生を初めとする
戦闘をこなせる人口も目に見えて
軒並み減少しているという現状がある。

ので戦闘人口が中世欧州における
胡椒の如く貴重になっている今、
戦死者の数を極力減らす事は
どの勢力にとっても急務中の急務だ。

しかも百瀬はその中でも一つ
頭を抜きんでている貴重な戦力であり、
それが喪失われるという事は
全学連にとっても大きな痛手であり、
そしてそれよりも前に
戦陣や苦楽を共にしてきた仲間を
そのまま棄て置くという事は、
ここにいる者全てにとっては
とても出来る事では無い。

だがしかし救いたくても救えない。
特体生でない百瀬の重症を
治せる者がここにはいない。

「あの……私ならば非特体生同士で
 生体エネルギーを移し変える事が出来ます。」

「Jud{あい}、それがありましたか。
 お客様の中に非特体生の方は
 いらっしゃいませんか?」

……いない。それも当然の筈だ。
全学連は事務方などの非戦闘関係者に限り、
結構な割合で非特体生がいるが、
基本的に特体生で構築されている。

京からついてきた難民も
多くは疲弊の極みにあり、
彼らからエネルギーを
お裾分けしてもらっても
一時的な延命は出来るものの、
とても回復するに足る量ではない。

「だったら近くから
 お裾分けして貰うしか
 ないんじゃないか?」

「それでどこからお裾分けを
 してもらえばいいでござるか?」

「私にいい案があるわ。」

(ぱすてるチャイムBGM:心に秘めた固い決意 )
サワタリの発案に対して
鈴女の疑問が入り、
そこにみちるの策が解決に導く。

「確か今頃は同時進行で
 姫夜木研究所による作戦で、
 近くの村落にに非特体生ながらも
 全学連屈指の実力を持つと言われた男、
 魔窟堂野武彦がいるわ。」

「魔窟堂……」

魔窟堂の名を聞いた途端、
周りの空気が一変した。
それは緊張と安堵、
そして色々な感情が入り交じった
何とも京葉の付けがたい空気だ。

魔窟堂野武彦という雷名は
おそらくは全学連の中でも
知らぬものはいないといわれる程の
ビッグネームの実力者だ。

その名前が出るだけで
全学連の特体生の表情が
変わるのは当然といえるだろう。

「今から全速力で大爆走すれば
 万が一にも間に合うかも知れないわ。」

「ならば善は早い方がいい。
 治療役としてマリーシアは絶対に
 同行しなければならないとして……
 運搬役と運搬中に起こる可能性のある
 トラブルへの対処は誰にする?」

「百瀬を運搬する役は
 俺達に任せて貰おう。」

そう言って運搬役に立候補したのは
田中と百瀬とはつき合いの長い新開だ。

「警護役は俺が引き受けるぜ。」

「私も参りますわ。」

「義を見てセガールは勇無きデス。」

次に警護役に立候補したのは
狼牙とエクレールとマチルダだ。

「そうか……お前達が
 行ってくれるのなら心強い。
 ならばしかと頼んだぞ。」


予告
キシラル「遂に自爆神の一柱を撃破した全学連。
     だがその為に百瀬が生死の境を彷徨う事に。」

グレッド「百瀬を救うべく魔窟堂の元に疾走る。」

田中雷蔵「その頃兵太のいる村には凶悪な影が忍び寄る。
      そして謎のミステリアスな美少女が……」


斬真豪「次回大番長AA
第二章終章 「本命はM²{ダブルエム}」 」』」
狼牙軍団全員「立てよ人類!!

今週の提督
魔窟堂野武彦(ぷろすちゅーでんとGood)
スキル 指揮値 部隊1 部隊2 部隊3 部隊4
不屈 199 索敵50% 全攻撃60% 全攻撃10% なし
専用艦
芭蕉船

後書き
前回でも書きましたが、
最初は一話ですませるつもりが
ずるずると話が大きくなって
二話になる事になりました。

どーなどーなにランス✕、
RPG3にドーナドーナ(仮)、
エクシールだけではなく
非常に忙しくなりそうです。

次回は魔窟堂のじっちゃんだけでなく、
意外なキャラも登場させたいと思います。







苦情などの感想はここへどうぞ。
また私の妄想に満ちたサイトは
http://shin-yaminokai.jp/
となっております。
よろしかったら是非遊びに来て下さいませ。


本陣へ撤退
本陣へ撤退
撤退
撤退