真・闇の会夢幻格闘化計画{Dream Duel Project}続・聖夜の天使達

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第 九話「聖夜の奇跡〜天使が降り立つ街」

<−化粧室−>
(27 All The Time)
「ほら、剣道、エクレール……これに着替えて。」

 マリーシアが取り出したのは、剣道とエクレールにあわせて
 特注された純白のドレスだった。

 それはあくまで伸縮性が高く、丈夫な素材で出来ており、
 しかも羽根の如き軽さを備えていた。

「動きやすく、丈夫なんですよ……。」

「あらま、ホントだ。……動きやすい。」

 剣道が振袖を確かめるかの様に
 ふわっと一周する。

「ホントに……使い易い……。」

「傷付いたり……死んだりしちゃ……イヤ……。」

 マリーシアは二人を抱きしめた。
 目尻には涙が浮かんでいる。

「二人がいなくなったら私……。」

「これが死に行く人間の顔に見えるかい?」

 マリーシアの頭を軽くなでながら、そう言う剣道。

「大丈夫、死ンだりなンかしない……。
 ボク……ちゃンと生きてマリーシアの歌を聞くよ。」

 エクレールが、少し照れながらも力強い口調で約束する。



<−パーティー会場−>
(26 Lady Dance)
 タキシードスーツを華麗に着こなしたジャンが、
 眼前の満員になった客を相手に挨拶をはじめる。

「お早いお越し、感謝に耐えません。」

「パーティーの開始まで、死魔根の歌姫、聖歌隊の歌をお聞き下さい。」



<−宿舎の玄関−>
(32 terrible beat A)
 パーティーの開始まで後数時間……。
 エクレールは警備陣と一緒にマリーシアに付き、
 剣道は舞台裏に続く宿舎の玄関に張っていた。

 そして、『それ』は唐突にやって来た。
 素人でも容易に察知出来る殺意を纏って。

 剣道の前に現れた殺意の持ち主、イデア。

「飽くまで……邪魔をする気か?」

「ああ。その積もりだよ。」

「じゃあ、しかたがないな…ならば……
 殺ス!」

 そう言い放つと、一瞬で目には狂気、
 顔には明らかな殺意を伺{うかが}わせるイデア。



<−舞台裏−>
(26 Lady Dance)
「エクレール……」

「え?」

 何かを思い詰めていたエクレールに話し掛けるマリーシア。
 その一言ではっと我に返るエクレール。
 
「マリーシア……大丈夫だよ。……ただ……。」

 言い様の無い不安感に教われるエクレールとマリーシア。



<−宿舎の玄関−>
(32 terrible beat A)
チェアアッ!!

 打撃が壁に穴を穿ち、
 斬撃が柱を両断する。

 鋭い音を立てて交差する斬撃。
 常人の眼には映らぬ攻防がそこにあった。

ゥッ!!

 斬撃の合間の密着戦では拳撃、蹴撃、逆技も
 使用される熾烈な闘い。

遅いッ!

 互いに寸で斬撃を交わし、
 間合いを取って再び構える。

「そこを……どけ……!」

 右手を前で横に振りながら、激昂して叫ぶイデア。

「そんな事が……出来るか!」

「どうしてもか?」

「当たり前だ!」

「なら……殺ス!!

 激昂しながら剣道に向って真剣を突き付ける。

 イデアが強襲の構えを取り、
 剣道は二刀流独自の左右二者択一の構えを取る。

「『左右どちらから来るか判らない構え……
 小賢しい……ッッ!!』」

デャアッッ!!

 イデアの強襲!それを風神で交わし、
 二者択一の連撃を叩き込む。

でぁぁぁ!!

 だが、吹き飛ばされたのは剣道の方だった。

(23 silence..)
 イデアが二者択一の連撃の発動する直前に剣道の懐に潜り込み、
 必殺の拳撃を無数に叩き込んだからである。

 結果的に連撃の発動そのものを潰した事になり、
 壁に叩き付けられた衝撃と受けた拳撃のによる肋骨の複雑骨折で、
 剣道は戦闘を続行する事が出来ないダメージを受ける。

 そして、イデアの左肩からも血が流れている。
 もう少し深ければ、恐らく戦闘不能になっていたであろう。

「フン……。」

 戦闘不能の剣道を一瞥すると、そのまま去る。

「く……ま…待て……。」



<−パーティー会場−>
(26 Lady Dance)
「本日は、お忙しい中のお運び、真に有り難うございます。」

「このクリスマスパーティーは世界中の子供達を
 少しでも救う為のものであり……。」

「同時に、孤児院の孤児達の成長を確かめる……
 一種の儀式でもあります……。」

「NAGASAKIから世界へと……
 夢と希望を担い、一人立ちして羽ばたく為に……。」

「我々の魂{たましい}を継ぐ、次代の担い手達へ……。」

「ここに来て、そして歌を聞いてくれる皆さんへ……。」

「どうか、このパーティーを心から楽しんでいって下さい。」



<−舞台裏−>
 今や遅しと出番を待っているマリーシア達聖歌隊、
 警備の指揮を担当している麻紀、そしてエクレールがいる。

「……。」

「来る……」

 エクレールがイデアが来る事を予感し、緊張を走らせる。

「麻紀さん……マリーシアを…お願いいたしますわ。」

「任せてよ。」

 自身有り気に答える麻紀。

 その言葉を聞き、マリーシアの安全を確信したエクレールは
 イデアの元に向かおうとする。

「エクレール……。」

 エクレールの身を案じ、心配そうに語り掛けるマリーシア。
 その心配を払拭するかの様に、自分の額とマリーシアの額を
 合せながら、エクレールが囁く。

「大丈夫だよ、マリーシア。」

「ボクは…キミのエクレールは……絶対に負けない……
 ううン……絶対に生きて戻ってくる!!」

 そう力強く約束すると、その場を離れる。



<−パーティー会場−>
 会場では、ジャンが司会者として場を盛り上げていく。

「では……死魔根の歌姫、聖歌隊の歌が間もなく始まります。
 存分にお楽しみ下さい。」



<−宿舎の通路−>
(35 Kamui @)
「イデア!!?」

 宿舎の通路で、イデアに遭遇するエクレール。 

 エクレールに再開出来た歓喜から、
 イデアは子供の様にはしゃぎながら話し掛ける。

「エクレール、強くなったね。あたしはエクレールだよ。
 あたしはエクレールに起こった事は何でも判るンだ。」

「エクレールが好きな奴はみンな嫌い!」

「エクレールが好きな人がいなくなれば
 エクレールは一人ぼっち……。」

「あたしとだけ遊んでくれる!」

「剣道を……どうしたの……?」

 話し掛けてくるイデアを無視するかの様に問いを投げ掛ける

「とっくに倒したよ。生きているかはどうかは知らないけどね。」

 嘲笑するかの様に即答する。

「剣道を……っっ!!」

 エクレールが怒りの表情を露わにする。

「何でよ………!?」

 エクレールの怒りに、悪戯を咎められた幼児の如く
 困惑したイデアが問う。

「…あたし、エクレールの為にやってるのに!」

「エクレールの為にエクレールの好きなやつをみんな殺すンだ!」

 何かを訴える様に、必死になって
 心の叫びをエクレールに叩き付ける。

「え?……如何いう事なンだ!?」

 イデアの意外な答えに、一瞬戸惑うエクレール。

絶対殺ス!

「ラグナロクが教えてくれたンだよ。」

「大好きなエクレールの為にどうすればいいかって……。」

「好きな人が死ぬからエクレールは悲しむンだ。」

「ママや……ジャンヌ様が死ンだ時みたいに
 エクレールが悲しむンだ!」

「だから、もう二度とエクレールが悲しまない様に、
 好きな人が出来ない様にみィーーーンな殺せばいいって!!!!

 そう言い放つイデアの顔は、狂気の笑みが漲{みなぎ}り、
 目は爬虫類のそれを連想させるものになっていた。

「違うンだイデア!!ボクはみンなに死ンで欲しくなンかない!」

ボクはみんなを護りたい!

「大好きな人達と『生きて幸せになりたい!』」

 イデアに訴えるエクレール。
 だが、聞く耳をもたないイデアは
 容赦無くエクレールに襲い掛かる。



<−宿舎の通路−>
(35 Kamui @)
 剣道が辿り付いた時には、エクレールは既に全身に
 傷を負っており、肩で息をしていた。

 それに対して、イデアは殆ど無傷の状態だった。

 剣が奔走{はし}る!!!!

 その強襲を寸で見切りつつ、エクレールは瞬時に薙撃で
 イデアに斬り付ける。

「くっ!」

 即座にエクレールの蹴りがイデアの腹部を襲う。
 その蹴撃を、かろうじて肘で捌く。

てぃっ!

 そして、間合いを取り、エクレールは
 再び構える。

 イデアは強襲の構えで迎え撃つ。

 イデアの疾風{ヴィート ヴァン}が発動!!

うわぁぁぁぁぁぁ!!!!

 その時、イデアは見た。
 エクレールの全身からにじみ出る何かを。

 『神の光』……
 かつて、エクレールが「あの人」に見出した、
 神々しく、優しい光……。


(00 No Sound)
 エクレールの神撃とも云える渾身の一撃。
 イデアの愛剣が折れ、その刃片が宙を舞う。

 そして、肝心のイデアは致命傷とまではいかずとも
 満足に戦う事すら出来ないダメージを負う。

 勝負……有り……!!

「……。」

 刃が半分折れた愛剣を見つめるイデア。

「何で…何で?」

何で拒否するのよぉぉぉぉぉ!!!!

 愛剣の刃を半分折られ、自らの敗北がほぼ確定しても尚、
 それでも立ち向かおうとする。

(25 Warm glow)
 そのイデアを慈しむかの様に抱きしめ、
 頭を優しく撫でるエクレール。

「イデア……。」

「エクレール…?」

 エクレールに抱きしめられたイデアは、
 まるで幼な児の様な顔付きになる。

「ボクの心……」

「ボクがあの時に残していった心の影……。」

 エクレールのの脳裏に、
 自分達がジャンヌを死なせてしまった過去が蘇る。

「ずっと一人だったンだ……。
 どこ探しても……。」

「エクレールがいなくて……。」

「一人でいたら、ラグナロクが現れて……。」

「私と一緒にいればエクレールに逢えるって……。」

 エクレールに抱き付くイデア。

「ごめンね…一人で寂しかったンだよね……。」

 イデアの頭を抱きかかえる様に、
 強く、そして優しく慈しむ様に抱きしめる。

 そして、エクレールの目からは
 一筋の雫が零れ落ちる。

「イデア…ボクの心がわかる?」

 自分の胸にイデアの手を当てるエクレールの目は、
 何よりも暖かさと慈悲を湛{たた}えていた。

「うん……エクレールの心が……解る。」

 目を閉じ、手から感じるエクレールの心を
 感じ取る。

「ボクは好きな人とは一緒になりたい……。」

「生きて幸せになりたい。だから……」

「だから、自分も好きになりたい。」

「愛したり、苦しンだり、悲しンだりする心も含めて、
 自分のイヤな部分も全部ひっくるめて……
 自分を好きになろうと思うンだ。」

「あたしの事も……好きになってくれる?」

「うン……!」

お帰りなさい……もう一人のボク……。

うン……。ただいま、エクレール……。

 溶け合う様に、エクレールに入り込んで消えるイデア。



SEドガーン
(32 terrible beat @)
 その瞬間、無粋な轟音が響いたかと思うと、
 通路の壁が砲撃で穴を穿たれた。

「一体何が!!?」

 二人が穿たれた穴を覗くと、
 戦車隊を率いたムラタがいた。

「何だか知らんが、絶好のチャンスだ!!
 野郎共、やぁ〜っておしまい!!

 ムラタは部下に命じ、次々と大砲で宿舎を砲撃させる。



<−舞台裏−>
(00 No Sound)
(SEドクン……ドクン……)
「神父……嫌な予感がする……。」

 マリーシアは、ひしひしと感じていた不安を隠せずに
 ジャンに打ち明ける。

「……エクレールが……剣道が、危ないかもしれないんです……!」

「ジャネットの時と……同じ……かね?」

「でも……時間が……。」

 ジャンが諭す様にマリーシアの肩に手を当て、
 優しく語り掛ける。

「マリーシア……生きる道は……自分で決め給え……。
 後で後悔しない様に……。」

「神父……」

「行って来なさい。」

「あの日の事を……繰り返したくないんだろう?」

 ジャンがエクレールの元に行く様に言う。
 そして、聖歌隊のメンバーも………

「はやくいくよろし。」

 聖歌隊唯一の東洋系のリンファ

「後悔は誰でもしたくないンだな。」

 アフリカからの留学生、タニヤ

「『一人はみんなの為に、みんなは一人の為に』
 聖歌隊の格言、だろ?」

 北欧の天才少女、レニ

「マリーシアがいない間は何とかするがね!!」

 南米のスラムで育った野生児、アイシャ

「マリーシアの悲しむ顔を見ると、ミーも哀しくなるザンス。」

 エクレールの幼馴染み、リュミエール

「ここはわしらに任せるるぜよ!」

 レニの双子の姉、セルフィ

「みんな……有り難う……。」

 目じりに涙を浮かべ、
 マリーシアはエクレール達の元に急ぐ。



<−崩れそうな宿舎−>
(32 terrible beat @)
「剣道……剣道!?」

 既にムラタ軍団は撤退していない。

 瓦礫を押しのけて、剣道が立ち上がる。
 だが、砲撃を連続で受け続け、
 深刻な大怪我を負っている。

「この宿舎は崩れるな……。」

「早く行くんだ。アタシを抱えたままじゃあ、間に合わない。」

 自分の怪我では到底脱出不可能と判断した剣道は、
 エクレール一人が助かる方法を提案する。

「ダメですわ!!」

 だが、涙目で剣道の提案を拒否するエクレール。
 その様な非情な提案は、昔のエクレールならいざ知らず、
 今のエクレールに到底受け入られる筈が無かった。

「エクレール……」

「もう失わせたくない……もう悲しませたくない……だから……
 一緒に……一緒に生きて帰りましょう!!」

 剣道を背負ったエクレールは、
 宿舎の非常階段を窓から垂らして脱出を図るが、
 そのロープは二人の重量に悲鳴を上げ、今にも千切れそうだ。

 そもそも、そのロープを支えている宿舎の部分自体が
 戦車砲の連続射撃を受け、今すぐ崩壊しても
 可笑しく無い程の状態となっている。

 このままでは落下時の衝撃と
 宿舎の瓦礫の下敷きになる事によって、
 二人共遠い世界に召されるのは目に見えている。

エクレール!!

 その時、エクレールは見た。

 マリーシアが宿舎に向かって
 必死に走ってくるのを……。

「マリーシア!!何で……ここに!?」

エクレール!!!

「来ちゃダメだ!」

 エクレールは知っていた。自分達二人を助けようとすれば、
 マリーシアは自分の能力を限界にまで使用する事を。

 そうすれば、あの時死にかけた様に、否……
 今度こそ死を迎える事になる。

(00 No Sound)
「……エクレールを助けたい……。」

「私はどうなっても構わない……」

 そう言いかけた時、マリーシアは自分自身でその言葉を否定する。


(30 Big Bang Age)
「……違う!!」

 そして、自分自身で出した結論を力強く言葉に出す。

「エクレール達を助けてみせる……!!」

「そして……私も幸せになってみせる……」

 ロープが重力に対する最後の抵抗を終え、
 プツリと切れる。

 そして、ロープを支えていた宿舎そのものが轟音を立てて崩れ、
 二人の上に瓦礫の山を降らせる。

「……!!」

(21 dash to trush 〜unpluged〜)
 だが、その時二人は暖かな光に包まれて、宙に浮いていた。

「エクレール……!!」

 マリーシアが美しく黒く輝く、今までのどの翼よりも大きな翼を
 背中に宿し、二人を包むかの様にその翼を広げ、
 宙に浮いている。

 そして、エクレールの背中にも黒い翼が宿っていた。

 二人に降り注いでいたであろう瓦礫の山は、
 悉{ことごと}くその翼によって弾かれていた。

 そして、エクレール、マリーシア、剣道は
 雪の如くふわりと地上に降りていく。

「マリーシア……無事なのか?」

 目の前の奇跡に、剣道がマリーシアに問いかける。

「ええ…大丈夫ですよ。」

「自分一人でその力を限界まで使えば、
 私は……多分死んでいたと思います。」

「けど……黒い翼の力を私と共有していたエクレールの翼が
 共鳴して力を使ったから、負担がそれぞれ半分で済んだんです……。」

「平たく言えば……負担がマリーシアとエクレールの
 二人に分散したから一人分の負担が減った……って事かい?」

「ええ……。」

「マリーシア……。」

「剣道……エクレール……お帰りなさい…!!

 マリーシアが疲れて立つのもやっとの二人に
 手を伸ばす。

「「只今……マリーシア……。」」


本陣へ撤退
本陣へ撤退
撤退
撤退