真・闇の会夢幻格闘化計画{Dream Duel Project}続・聖夜の天使達

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第 八話「聖夜前日」

<−県立真田付属総合病院−診察室>
(27 All The Time)
 パーティーの一週間前の総合病院。

 昨日まで連日の患者の大群に、
 文字通り猫の手も借りたい状態にあった
 美緒の元に、麻紀がやって来た。

「いらっしゃい、麻紀。」

「さっき、マリーシアが来てたわよ。」

「そうか。…でさ、その事で、問題有りげな情報を手に入れたんだけど……
 聞いていないか?」

「さあ……何も聞いていないわ?」

 手をハァ、な形にして何も聞いていない事を主張する。

「香辺の柴崎さんから少し連絡が有ってね……。
 何か良からぬ事を企んでいる連中がいるって。」

「良からぬ事?」

 怪訝な顔をして、美緒が詰め寄る。

「分ったら苦労しないよ。ただ、何か有った時には
 力を借りるかもしれないから、その時はよろしく。」

 様々な思惑を秘め、クリスマスパーティーの開幕の時は近付く。



<−パーティー会場−>
(27 All The Time)
 パーティー直前の会場。既に準備は整えられており、
 後はパーティーの開幕日を待つだけである。

 そこに、エクレールとマリーシアがいた。

「ママは……物心ついた時には死んでいたから、
 歌を教わった事は無いんです。」

「ママのテープとかを聞きながら……
 私は…ただ真似事をしていただけなんです。」

「でも、この言葉だけは覚えています。」

「『全てを受け止めて生きなさい』って言った事だけは……」

「この翼も、辛い気持ちも、嬉しい気持ちも、
 これまでの全てが……歌い手の歌詞となるんだって……。」

「辛くたって、悲哀しくなって、逃げたり……
 背中を向けちゃダメだって……。」

「泣いてもいい……挫けてもいい……それでも、自分らしく生きなさいって…。」

「今は……理解る様な気がします……。」

「今まで起こった事、出会えた人達があったからこそ……
 今、私がここに存在る……。」

「万感の思いを込めて、歌う事が出来る……。」

「大好きと感謝と……色々な気持ちを込めて………。」

「私達は……歌います……!!」

 そう熱弁するマリーシアの瞳は、エクレールには
 とても神聖で、綺麗なものに見えた。



<−中西家−居間>
(27 All The Time)
 普段と変わらない中西家の居間。
 日本の公営放送である大日本放映協会、通称DHKの
 人気人妻メロドラマ番組「さやかちゃん物語」が流れていた。

(トゥルルルルル……)

 唐突にかかってきた電話を、速攻で取るエクレール。

「はい、もしもし……。」

「あ、なンだ、マリーシア。」

「そうなの?ううン、いいよ。届けたげる。」

「マリーシアから?」

「ええ。マリーシアったら、練習用の楽譜を忘れたんですって。
 ええと……これこれ。」

 しばらく捜した後、テーブルの下に有った
 楽譜を見つける。

「それを届けるのかい?じゃあ、アタシも付き合うよ。」



<−会場の稽古部屋−>
(35 Kamui @)
 聖歌隊の為に用意された稽古部屋。
 そこでマリーシアは連日の稽古の疲れを癒していた。

 その稽古部屋に入ってくる一つの影。
 その少女の名はイデア……。

「マリーシア……。」

 マリーシアの名を口にするイデアの瞳には、
 マリーシアに対する明らかな殺意が込められていた。

「あ……!!」



<−会場の稽古部屋に続く通路−>
(32 terrible beat A)
「?」

 楽譜をマリーシアに手渡す為、
 稽古部屋に向かうエクレールと剣道。

 二人に気付いてか気付いていないのか、
 稽古部屋に影が一つ入り込む。

「あれ、マリーシアの部屋でしたわよね。」

「そうだね。今、確かに誰か入っていったね。」



<−会場の稽古部屋−>
 稽古部屋の中では、今まさに
 イデアがマリーシアを殺そうとしていた。

「マリーシア……殺してやる!!

(SEガチャ)
 
 だが、寸でのところで二人が間に合う。

「マリーシア……。」

「チッ!エクレール……」

「イデア……!!」

 イデアがマリーシアの命を奪わんと奔った瞬間、
 剣道は剣道版疾風{ヴィート ヴァン}こと、風神を発動する。

 周りから見れば、剣道が速くなり、
 そして剣道の目から見れば、周りが遅く見える。

 その速さをもって二本の竹刀で彼女に斬り付ける。
 それは致命傷とは程遠いが、かなりのダメージを与えた。

「お前も……お前も殺してやる!

 再び風神!!だが、剣道の目に
 イデアの動きは遅くはならない。

殺してやる!

 左掌底、右手の愛剣による薙撃、
 そして勢いを利用した飛び回し蹴り。

 剣道は防御に徹する事で、
 かろうじて凄まじいまでの連撃を交わす。

「チィッ!」

「次は……絶対殺す!!」

 三対一の不利を悟り、そういい残すと
 イデアは闇へと溶け込む様に逃げ込む。

「エクレール……あの子は……。」



<−県立真田付属総合病院−診察室>
(27 All The Time)
「傷はそれ程のものではないですね。」

 剣道の傷具合を一目で察し、美緒はそう診断する。

 警備を任されていた麻紀は不覚を取った事に
 苛立っていた。

「不覚だね……我々の警備をああも容易くすり抜けるとは……。」

「一体、アイツは何モンなんだ?」

 剣道がイデアの氏素性について
 麻紀に迫る形で問いただす。

「あいつは、秘密結社・暗黒鳳凰団の工作員だよ。」

「恐ろしい程の凄腕で、香辺の五十嵐組も
 彼女には手も足も出ないらしい。」

「クリスマスは中止の方向で動いているらしいが……。」

 深刻そうな面持ちで呟く麻紀。



<−中西剣道道場の稽古場−>
 夜の稽古場で、適度に体を動かしているエクレール。

「剣道……!?」

 気配を後ろに感じ、振り向くと
 腕に包帯を巻いた剣道がいた。

「確か、入院している筈じゃあ……」

「選りすぐりの特体生が
 束になってかかっても……アイツは倒せない。」

 エクレールに剣を手渡す。

「クリスマスパーティー当日までに……
 アイツに対抗出来る様にしてやるよ……。」

「だから……少し付き合ってよ。」

「無理ですわ!だって、剣道怪我してるし……。」

 だが、剣道の眼を見て、本気の本気である事を
 悟ったエクレールは剣を構えた……。



<−中西家−居間>
「特訓?
 ダメです!!……そんなの……。」

 エクレールと剣道が稽古を続けているのを知り、
 必死で止める様に説得するマリーシア。

「平気だよ。」

「私の為なら……そんなのいいから……。」

「違うよ!とにかく……。」

「マリーシア……アタシ達に任せて……。」

「剣道……。」

「ねぇ、マリーシア……。」

 エクレールが、諭す様に
 マリーシアの両肩に手を乗せて語る。

「ボクはマリーシアの声が好きだよ……。」

「マリーシアの歌を……聞きたい。」

「だから……マリーシアは……ボク達が護る!」

「エクレール……。」



<−パーティー会場−門前>
 結局、クリスマスパーティーは中止されない、という事で
 事は進んでいった。
 スタッフの殆どは異変に気付かず、怪しい連中が
 うろついている可能性がある、としか知らされていない。


<−聖城学園−屋上>
(21 dash to trush 〜unpluged〜)
 満月の夜……マリーシアとエクレールが夜風に当たっている。
 空には雲ひとつ無く、月の光は直接二人に降り注いでいる。

「ねぇエクレール、何を考えているのか……
 話してくれませんか?」

「エクレール、約束してくれましたよね。どんな事が有っても、
 最後まで一緒に戦おうって……。」

「マリーシア……。」

「実は……。」

 イデアと最初に遭ったのは、実は魔界孔の
 凶事の直後である事を話すエクレール。

「イデアはボクの心の一部なンだ……。」

「ママが死んで、そして……」

「前の戦いの時の…ジャンヌ様を死なせてしまった
 やり切れない心が生み出した……ボクの心の影……。」

「エクレールの心の……影?」

 驚きの目をエクレールに向けるマリーシア。

「黙っててごめン……。」

「ボクも最初はただの夢だと思ってたンだ。でも……。」

「再び魔界孔が現れてイデアが現れて……。」

「エクレール……。」

 マリーシアがエクレールの手を取り、話し掛ける。

「イデアの事、ずっと悩んでたんでしょ。でも……。」

「それを打ち明けると、私たちを巻き込むかもしれないって……
 そう思っていたのですね……。」

「違うよ!そンな……」

 マリーシアの手を胸に当てるエクレール。

「マリーシア…。」

「ボクは……」

 目を瞑りながら更に続ける……。

「ボクは、別に世界を救いたいとか、正義の為だとか、
 そンな大それた事をしたいンじゃ無いンだ……。」

「この日本と云う国で出逢えた大好きな人達が……
 ボクの周りにいる大切な人達が、
 幸せでいてくれればいい……。」

「大切な人達を守りたいから……戦うって……
 自分自身の心に決めたンだ!」

 言い終わると、満面の微笑を浮かべる。

「そうですね。」

「私達も最後まで付き合います。」

「うン……有り難う……マリーシア……。」



<−暗黒鳳凰団の支部−>
(35 Kamui @)
 二人の間には、険悪な空気が漂っている。

「ムラタ……」

「殺すな、とはどういう事なンだ?」

 不快感を隠さずに、ムラタに
 疑問を投げかけるイデア。

「さあね。
 俺はただの伝令だからな。」

 事情を知ってはいるものの、
 守秘義務から知らない振りをするムラタ。

「お前は、ただマリーシアを拉致ればそれでいい。」

「あたしには関係が無い。」
 
 素っ気無く言い放つ。

「……ッッ!!」

 イデアの命令無視ともとれる一言に、
 ムラタは憤りを隠せないものの、
 反論すれば自分は一瞬で殺されると知っており、
 反論する事が出来ない。



<−暗黒鳳凰団の支部−>
 古代エジプトのピラミッドに似た内装の支部。

 その内装に似合わない精密機械に囲まれた部屋に、
 数人の科学者と幹部、そしてDrラグナロクがいる。

「で、どうだ?対象の確認は?」

「順調にこちらに向かってきております。ただ……。」

「ただ……?」

「予想外の障害が出てきまして……。」

「何だと!!?一体如何いう事だ!?」

「香辺の五十嵐組です。」

「まあまあ。そんなのは如何だって構わんさ。」

 うろたえまくりの幹部と違い、Drラグナロクは
 飽くまで余裕の構えを崩さない。

「しかし……。」

「私が欲しいのは、暗黒のアダムと暗黒のパンドラだ。
 多少の犠牲は私の知った事では無い。」

「………!!」

 その非情なる言葉を聞き、幹部はいつか自分もそうなるのでは、
 と思いを巡らせ、背筋を凍らせる。

「来たか……。遅かったぞ、イデア。」

 いつの間にか、Drラグナロクの後ろにイデアが立っている。

「邪魔が入ったから片付けてきた。」

「さあ、出番だ……イデア。」

「クス……判ってるよ。」 

そして、クリスマスパーティーが始まる……。


本陣へ撤退
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撤退
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