真・闇の会夢幻格闘化計画{Dream Duel Project}続・聖夜の天使達

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第 四話「輝ける闇の翼」

<−聖城学園−保健室>
(18 comical)
 早朝、マリーシアが慌しく通院の為の用意をしていた。

「保険証と……後……」

「よし、と……」

 用意を終えた後、保険証をエクレールに手渡し、
 エプロンを外して外出用の服装に着替える。

 ……まあ、殆ど聖歌隊の服装と変わらない気もするが。

「じゃ、行きましょうか?」

「う…うン。」

 歩く事しばし、二人は県立真田大学付属総合病院にやって来た。

 何でも、日本屈指の公立病院で、
 その設備内容は国立病院に引けを取らないという。

「取り敢えずは……外科の受付ですね。」

「う……うン。」

「じゃ、私はあっちの病棟に行ってきますね。」

 エクレールに保険証を渡すと、マリーシアは
 隣の病棟へと歩いていった。



<−県立真田大学付属総合病院−診察室>
(27 All The Time)
「ご免なさい、お待たせしました……。」

 ポニーテールの、まだ若い女医が入ってきた。
 年頃は二十前半、といったところか。

「えーと……右手首の擦過傷に、左手の打撲……」

 その女医は、まるで目にレントゲンを
 仕込んでいるかの如く、
 エクレールの傷を素早く的確に見抜いていく。

「背中とか左肩も、大分痛めている様ですね。」

「外科は本業では無いんですが、
 ちゃんと資格は取ってあるから大丈夫ですよ。」

 そういうと、女医はにこ、と微笑む。

「マリーシアの……お友達の方ですか?」

「は……はい。」

「私、彼女の担当医なんです。」

「まあ、医者というよりはむしろカウンセラーとして、ですけど。」

「あ、申し遅れました。私、麻田美緒といいます。」

 一通り自己紹介を終えると、エクレールの傷に対して次々と
 治療を施していく。

「よし……と。ま、こんなものでしょう。」

 治療を終えて、エクレールが改めて自分の体を見ると、
 体中の傷に適切な治療を施されていた。

「あ、有り難うございます……。」

「じゃあ、今日はお仕舞です。」

「あ、エクレール……。」

 ギィっと開いた扉から、マリーシアが顔をのぞかせる。

「お邪魔……でしたか?」

「ううん、平気よ。」

「丁度診察が終わったところだから。」

 美緒がマリーシアに気さくに話し掛ける。

「マリーシアも結果は出た?」

「ええ。大丈夫ですよ。」

「そう、良かったわ。」

「お二人共、お大事に。」

 そう言うと、エクレールの肩をポン、と軽く叩く。

「ええ。」

「さようなら。」

「ええ。さようなら。」



<−病院の広場−>
(27 All the time)
「あンな若い人が、担当の人なンだね。」

 感心しながらマリーシアに話し掛けるエクレール。

「ええ。」

「私の主治医は、彼女の御主人なんですが……。」

「…夫婦でお医者様かぁ……。」

「何か凄いなぁ。」

「ですよね。」

「やぁ、エクレールにマリーシア。」

 治療を終えた剣道が、駆け足で
 話が弾んでいる二人のところに寄ってくる。

「大丈夫だった?」

「ええ。別に問題は有りませんでしたわ。」

「剣道の方こそ……大丈夫ですの?」

「うん。大丈夫だよ。」

 大袈裟に腕を振り回し、
 体に異常が無い事を示す。

「まあ、今日はマリーシアに言われているから
 稽古は休みにするよ。」

 その言葉を聞いて、
 安堵したかの様に肩をなで下ろすマリーシア。



<−聖城学園の帰路−>
 聖城学園に帰る途中、エクレールはふと
 昔の事を思い出す……。



<−回想−>
(21 dash to trush 〜unpluged〜)
 10年前……
 あの日も、玩具の模造剣で剣の稽古をしていた。

 神父のジャンと母のジャネットの稽古を
 見ているうちに見様見真似で始めた稽古だったが、
 『門前の小僧習わぬ経を読む』の諺通り、
 めきめきと腕を上げていった。

 もっとも、エクレールの性別を鑑{かんが}みるに、
 小僧という表現は正しくは無いが。

 前々からエクレールはジャネットから剣を教わりたい、教わりたいと
 せびり続けてきたが、ジャネットは巧みにそれを交わしていた。

 だが、その天与の才を見てジャネットはこう呟いた。

「やはり……血は争えないわね……。」

「今度戻ったら……本格的に剣を教えてあげなくちゃ……。」

 その言葉を聞いて、エクレールはとても喜んでいた。

「どうせなら、姉さんより……私より強くなりなさい……。」

「あなたになら出来るわ。」

うン!!

 満面の微笑みで、エクレールは力強く頷く。

「ボク……強くなる!!」

「ママよりも……誰よりも強くなる!!

 そうジャネットに約束するエクレールの目は、
 他のいかなる宝石の類いよりも輝いていた。

「じゃあ…約束よ。途中で挫折したり、泣いたりしないで……。」

「私よりも、姉さんよりも、誰よりも……強くなりなさい!!」

「うン!!!!約束するよ!!」

 しかし、ジャネットはNAGASAKIから戻ってこなかった。
 話によると、マリーシアという名の幼女を守る為に
 暴徒に殺されたという。

 ジャンは、その事実を知り、エクレールにこう話した。

「エクレール……実はな……。」

「ジャネットが帰ってこれなくなった。」

「とても……とても遠いところに行ってしまったんだ。」

「いつ……いつ帰ってくるの?」

 ジャネットの帰りを……ずっと憧れた『母から剣術を教わる』その日を
 心の底から待ち望んでいたエクレールは、寂しそうにそう聞いた。

「帰ってはこれないんだよ。」

「ずっと遠い…お空の国に……行ってしまったから……。」

「やだよ……」

「ボク、ママに電話する!!ママが帰ってくる様に!!」

「エクレール……ママの行き先には……電話が…無いんだ……」

 涙を浮かべて裾に縋るエクレールを見て、
 悲哀しげに諭すジャン。
 
「やだ……そンなのやだよぉ!!」

「だって、帰ったらボクに剣術を教えてくれるって……
 約束してくれたもン!!約束してくれたもン……」

 ジャンは、泣きじゃくるエクレールに答えられずに、
 ただただエクレールを抱きしめた。

「すまない……すまない……。」



<−聖城学園への帰路−>
(25 Warm glow)
「私のせいでエクレールのママが……。」

「ごめんなさい……。」

「ううン……マリーシアのせいじゃあ……。」



<−聖城学園−校舎前>
(18 comical)
「くーちゃん!違う、そっちそっち!」

「だめなのだー!そっちじゃないのだー!」

「え!?」

「慶にくーちゃん!!?」

 三人は呆気に取られていた。何故なら、
 慶とクレオが足場の安定しない校舎の上に乗った
 天王寺ミオのところの子猫を追っていたからである。

 無論、足場の悪い事など考慮に入れず、
 全力で追っている姿は危なっかしい事この上ない。

「危ないですわよ、お二人共〜!」

「なにやってるんですか〜?」

 校舎の下から二人の危うさ爆発の行動の内容に対し、
 説明を求めるエクレールとマリーシア。

「こいつが今朝からここにいるんだよ〜。」

 校舎の二人へ状況を説明する慶。
 だが、説明をしているその体制は不安定極まりない。

「だからおりられないとおもってきゅーじょかつどーを
 しているのだー。」

 同じく、クレオの体制も不安定、というより
 累卵の如き危うさである。

「マタタビやるから、ほれ、こっちこいこい。」

 懐のマタタビで子猫を誘わんと試みる慶。

「ニャアアア〜」

 しかし、子猫は面識の無い二人を恐れている様であり、
 不安と空腹も相まってかなり気が荒ぶっていた。

 その刹那、突風が吹いて子猫を宙に攫って行く。

「えいっ!」

 二人は、脊髄反射的に思わず宙に飛び出して
 子猫を捕まえる。だが……

「「あれ?」」

 二人は、ニュートンの法則に従って地面に向かって
 落下していく形となった。
 その落下速度は、クレオの浮遊能力も発揮する
 暇も無いほどである。

慶!!くーちゃん!!

(32 terrible beat A)
 その瞬間、エクレールの全身の毛という毛が逆立り、
 エクレールの周囲の空気が鉛の如く重くなる。

 これぞ疾風{ヴィート ヴァン}!!!!!
 
 初速からいきなり最高の速さに達する足の運びで、
 一瞬の内に間合いを詰める幻の体技。
 日本では神速と呼ばれる絶技。

 絶対無音にして白黒の世界の中、
 背中に黒い翼を宿し、エクレールは疾走りだす。
 絶対に届くはずの無い距離を一気に詰めていく。

 だが、僅かに届かない。

「………!!」

 その時、マリーシアが何かを念じた。
 
 その時、エクレールは自分の身体が
 何かの力に押される感触を感じた。

 否、自分の背中の黒い翼がマリーシアのそれと
 共鳴するのを感じた。

 その力でエクレールは更に加速され、
 二人の落下するであろう地点にたどり着き、
 スライディングする形で
 無事に二人を受け止める事に成功する。

「「むきゅ!!」」

「ふぅ……。」

 それを見届けると、マリーシアが
 ほっとした様に気絶する。

「マリーシア!!」



<−県立真田付属総合病院−診察室>
(27 All The Time)
 エクレール達は美緒に電話をして、
 気絶したマリーシアを病院へと運んだ。
 慶とクレオと子猫、そしてエクレールは無傷だった。

「軽い昏睡と貧血状態、みたいなものですね。」

 軽い診察の後、美緒が安心させるかの様にそう診断する。

「だから大丈夫なはずですよ。」

「そうですか……。」

「マリーシアの黒い翼について……少し説明しましょうか。」

 そう言うと、パソコンを立ち上げ、
 一般人には到底理解不可能な資料を映し出す。

「彼女の力は、『特殊異変染色体』そう呼ばれています。」

「生まれ付き、染色体に特殊な情報が刻まれていて、
 魔界孔の影響とかいった……
 外界からの影響で様々な現象を引き起こす染色体です。」

「そして、その中でも脳内機能の細胞内に於ける
 Bパワーの異常存在……それらが生み出す現象……。」

「その症状は起動染子{きどうせんし}性疾患シリアルbX1と
 呼ばれています。」

「その副産物として、念じる事によって物理的に物質に干渉したり、
 心を読んだり……思考を他者に伝えたりする……。」

「正式には起動染子性疾患シリアルbX1.ハスター……。
 通称『輝ける闇のハスター』。」

「使い手が未熟なら、最悪の場合は
 死に至るケースも珍しい事では無いわ。」

 マリーシアの背中から、漆黒の光が溢れる。
 そしてエクレールの背中からも……。

 その翼は、柔和かつ温和で、黒く光り輝いていた。

「この翼……。大嫌いでした……。」

「黒い……呪われた翼だって……。
 恐がられたりするの……怖くて……。」

「エクレールとこの翼を分かち合うまでは……。」

「でもさ、あの……だって…。あの、その……。」

「俺、マリーシアやエクレールの事が好きだよ。」

 躊躇いながらもマリーシアに話す慶。

「くーちゃんもなのだ〜。」

「マリーシアとエクレールがたすけてくれなかったら、
 くーちゃんと慶はきっとドエラいことになっていたのだ〜。」

 少々大袈裟な手振りでその時の状況を
 説明するクレオ。とても18才とは思えない
 無邪気な様子である。

「ボク……ボクは…マリーシアの事……大好きだよ。」

 頬を赤らめながら、エクレールがマリーシアに話し掛ける。

「これまでも……ううン、これからも、
 もっともっと……好きになる……!!」

「みんな……。」

「ふむ……。」

 美緒は、フッと微笑み、
 自分の額をマリーシアの額に当てる。

「脳波正常……ほぼ異常無し。」

「もう帰って大丈夫よ。」

「有り難うございます。」

 そう言うと、にっこりと微笑むマリーシア。


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