真・闇の会夢幻格闘化計画{Dream Duel Project}続・聖夜の天使達

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第十一話「神々の黄昏・中篇〜悲愛」

<−暗黒鳳凰団本拠−Drラグナロクのラボ>
「その為にこんな事を……許せん!!」

 匡一郎が怒りを露わにする。

「いいや、許されるさ!!」

 だが、匡一郎のもっともな言葉に、
 嘲笑の言葉を浴びせる。

「いいか、久我匡一郎……」

「私は天才だからな!!もう一度言う!!
 私こそは人類を進化へと導く資格の有る天才だ!!!!」

「天才は何でも許されるんだぁ!!」

 自分を天才だと言い放ち、
 更に自説に凝り固まった演説をするDrラグナロク。

「氷河時代を見ろ。猛獣より遥かに軟弱で、
 草食獣より遥かに鈍足な原始人達は
 みるみる凍えて死んでいった。」

「だが!!その中の一種類のうちの何匹かが滅亡の淵で、
 生き延びたい必死の本能に支えられ……。」

「それまでとは別次元の閃きを感じ、
 火を燃やして温まり、石を投げ、棒で殴って
 獲物や他の原始人を殺して喰い、道具を発見した!!」

「また、猛獣を火で追っ払い、
 集まって協力して暮らす様になった!!」

 Drラグナロクの演説は更に熱を増し、
 その目は狂気で煮えくり返っていた。

「そうだ、ブラーヴォ!!
 みんな死ね!!そして復讐に蘇れ!!」

「人類は不死鳥、私も不死鳥だ!!
 人類の恨みに選ばれた者だけが
 不死鳥になれるのだ!!!!!!」

 そして、思い出したかの様に
 匡一郎に話し掛ける。

「ああ、そうだ……。久我匡一郎。」

「何だ?」

 鋭い眼で、自分を名指しした理由を問い詰める。

「確か、お前にも因縁があったなぁ……。」

「因縁?祖父の事か……!!」

「そうだ……。」

「事の起こりは我が祖父・アドルフにまで遡る……。」

 事の回想の為、目を閉じながら話す。

「国の総統の命によって祖父が世界侵略の一翼を担う為の
 活動を始めたのが1938年……。」

「祖父は医学を通じて全世界の生命を掌握すべく
  研究する者の集団、ハイリゲン・フラーマを設立した。」

「ハイリゲン・フラーマ?」

 何じゃそりゃ、といった顔つきの狼牙。

「聖なる炎、という意味だ。即ちホーリーフレイム……
 ククク、皮肉だな。」

「「「くっ……!!」」」

 その皮肉がバイラル達に向けられていた事は
 明らかであった。

「そこに日本から『相互同盟に基づいて研究を手伝う様にと
 命を受け、参上した』と称し、お前の祖父、
 Dr久我重明{しげあき}が来た。」

「だが……奴は……!!」



<−ハイリゲン・フラーマ・アドルフの研究所−焼け跡>
 そこには膨大な火事の焼け跡が有った。
 大小の残り火が燻っているところから、
 火災に遭ったのが昨日今日である事を物語っている。

 そこはアドルフの研究所であり、数々の非人道な
 研究が行われていた場所でもあった。

「こ、これは……ワシの研究成果が全て燃やされている!!」

 自分の研究成果が灰塵と化した事を知り、
 頭を抱えるアドルフ。

 その焼け跡の中から現れた重明{しげあき}。

「シ、シゲアキ……!?何故ここに?」

「すまんな……私は貴国との同盟に基づいて派遣されてきた
 訳では無いのだ。」

「じ…じゃあ、何の為に……!?」

 アドルフは訳も理解らず、呆けた様に問う。

「あんた達の噂は聞いていた。医道に反し……
 人心を惑わし、命を弄ぶ研究に魂を売った輩がいる、とね。」

「私がここに来た真の目的は、
 貴様らを叩き潰す為だ!!!!」

 最後に怒気を含んだセリフで締めくくる。

「シ…シゲアキィ……!!」

「許るせぬ!!断じて許るせぬ、よくも裏切ったなァ〜〜!!!!」

 重明{しげあき}の真の目的を知り、
 重明{しげあき}に突っ掛かるアドルフ。

 だが、ひ弱な科学者の身で
 鍛え上げられた重明{しげあき}に叶う筈も無かった。

(SEガッ)

えひゃい!!

 重明{しげあき}の鉄拳制裁を受けてアドルフは壁に吹き飛ばされる。

「医学を裏切ったのは……貴様の方だ!!!!」

「頭を冷やしてよく考えろ。貴様も医学者なら、
 人の為になる研究をする事だな。」

 そう言い残し、悠然とその場を立ち去る重明{しげあき}。

「ふぁ……ふぁが……」

 薄れ逝く意識の中、
 立ち去る重明{しげあき}を見ながら復讐を決意するアドルフ。



<−暗黒鳳凰団本拠−Drラグナロクのラボ>
「そして、祖父の意志を継いで完成したのがこれだ。」

 そう言うと、おぞましい回虫が一杯詰まったビーカーを取り出す。

「そ、それは……!!」

 驚愕する久那岐とカミラ。

「知っていたか。そう……新種の蛭{ヒル}、ハニーだ。」

「卵のまま人体にジッと潜み、孵化した後は体の何処かにへばり付き、
 宿主から血を鱈腹吸い上げる……。」

「どうだね、このハニーは?最高に可愛い奴等だろぉ?」

 そう言うと、溺愛するが如くビーカーを眺める。
 その目は限りなき狂気を宿し、そして恍惚としていた。

「フン……反吐が出る……!!」

 当然だが、吐き捨てる様に久那岐が嫌悪感を露わにする。

「このハニーに寄生された者は、
 長い間陽光を浴びると砕け散ってしまう上に、
 養分は人間の血液しか摂取する事が出来なくなる。」

 ビーカーを弄びながら、更に続ける。

「だが、代償として、基本性能が眼界まで向上する上に
 異常な再生力をもつ半不死身の肉体となる。」

「それって……。」

 弓道の疑問に答えるかの如く、Drラグナロクが続ける。 

「その通り。察しの通り、吸血鬼だ。」

「確か……これをプラムとかいう凡人にくれてやった。
 無論、私の計画の事は話していないがね。」

「奴も、所詮は私の計画の為の捨て駒に過ぎんという事だ。」

「その為にミレルが……!!」

「「許せない……!!」」

 呆れた様に話すDrラグナロクに、
 匡一郎とカミラが怒りの言葉をぶつける。

「許せない?何が許せないだ!!?」

 その時、不当な非難をされたかの如く、
 Drラグナロクは二人を睨みつける。

「人類が進化して人間以外のロボット的生物に!!
 人間以上の神人{ゴットメンシュ}へと進化する事は!!」

「ヤゴが脱皮して蜻蛉になるのと同じ位当然の成り行き、
 極当たり前の進化の必然を受け容れた理論ではないか!!」

 狼牙達を糾弾するかの様に、Drラグナロクは
 火の速さでがなりたてる。
 だが、舌は噛まないらしい。

「何故そんな事を……!」

 おどおどしながら問い掛けるユキに、
 更にがなりたてる。

「何故だと…何故だとおおおおおおおおお!!!!?

「はあ、はあ、はあ……いいだろう。
 それ程知りたいのなら特別に教えてやる!!」

「私の本名は須田大介だ……。」

「かつて………私は、国立大学に在籍していた頃は……
 バイラル、貴様の妻・イザベルの同僚だった……。」

「だよな、バイラル?」

「ああ……。」

 バイラルとDrラグナロクは、
 どうやら知己の間らしい。

「私は、貴様に恋をしていた同僚の女医、
 カトリーヌが如何し様も無く好きだった!!」

 カトリーヌを語るDrラグナロク、
 さっきまでの狂気に満ちた眼差しは消え、
 優しい目をしている。

好きで好きで好きで好きで好きで好きで仕方が無かった!!!!」

「少しでもカトリーヌに近づきたいが一心で、
 カトリーヌが研究していた『ニュータイプ理論』への
 協力も惜しまなかった。」

だが!!!だがッッッッ!!!!あの愚劣なる愚女イザベルは!!!
 『ニュータイプ理論』を
 非現実的で非常識かつ非人道的だと侮辱し!!!!」

 だが、その下りに入ると、優しい目は消え、
 さっきまでの、いや、さっき以上の狂気に満ちた
 眼差しに変わる。

否定し!!!!

蔑視し!!!!

拒否し!!!!

嫌悪し!!!!

愚弄し!!!!

全く理解を示さなかった!!!!!!」

「カトリーヌの偉大な研究に理解を示さず、
 惨い仕打ちをしたんだ!!!!」

そしてカトリーヌは絶望し、自殺した!!!!!!

(SEドォォン)
 いつしか、狂気に満ちた目からは
 血涙が流れていた。

だが!!!!!!だが、私は貴様等とは違う!!」

カトリーヌの研究が、ニュータイプ理論が
 事実だと証明する為なら!!!!
 如何なる犠牲をも厭わない!!!!

そしてイザベルを!!!!

あのぉぉお憎っくき愚女イザベルを!!!!

この手でブッチッッ殺してやったんだぁぁぁぁぁ!!!!

 身を悶えるかの様に振り回しながら絶叫するDrラグナロク。
 その姿は、狂人そのものと言って何ら差し支えなかった。

「妻と……娘を殺したのは……」

「妻と娘を殺したのは
 貴様だったのかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!

 事実を知り、Drラグナロクにこれまでに無い
 憤りをぶつけるバイラル。

その通ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉり!!!!!!!!

見事正解!!!!

「私の方がカトリーヌの愛を得るに相応しいんだァァ!!!!」

「論を認めなかったアホ共をいずれ私の前で
 平伏させてやるわぁ!!!!」

「そしてアホ共が理論を認め、カトリーヌを……
 そしてニュータイプ理論を尊崇するんだ!!!!」

媚びろ〜!諂{へつら}え〜!!讃えろ〜!!!誉めろ〜!!!!

我々は天才だ!!ファハハハ!!!!!」

 目は血涙を流しながらも、両手を広げて
 哄笑するDrラグナロク。

「そんな事の為だけにそんな事を…!!」

その為だけに妻と娘を!!!!!!

その通りだ…その通りなんだよぉ!!!!!!!!

 天を衝く怒りに身を奮わせるバイラルを、
 Drラグナロクが哄笑する。

「フン……。」

 狼牙が呆れた様に鼻で笑う。
 そして、それをDrラグナロクは見逃さず、
 糾弾の言葉を浴びせる。

斬真狼牙ぁ!!貴様ぁ、鼻で笑ったな!!!!

(30 Big Bang Age)
「全く……下らねぇな。」

「何を偉そうにグダグダと御託並べてやがんだ。」

「要するに、テメェの愛する者を救えなかった、
 という事だろ?」

 簡潔だが、正鵠を得ている狼牙の一言。

「!!!!」

何だと!!!?

 怒りが頂点にあったバイラルは、
 狼牙のその一言に敏感に反応する。

 その眼差しと口調には、
 明らかに非難の意思が込められていた。

貴様ぁ!その発言を撤回しろ!撤回を要求するぅ!!

 そして、Drラグナロクもしかりで、
 狼牙に発言の撤回を要求する。

「まだ理解らねぇのかよ?」

「愛する者を守れなかった……
 その一点でテメェはしっかりと負けているんだよ!!」

「……………」

 だが、狼牙のその一言が
 激昂状態のバイラルを沈黙させる。

「そんなテメェが世界を変える……人類を導くだ?
 ちゃんちゃら可笑しくなってくるぜ!」

「フン、それこそ負け犬の遠吠えだな!」

「もし……。」

「もし俺がテメェだったら絶対に愛する者を死なせねぇ!!
 絶対に守ってみせる!!

「例え、どんな事があっても………だ!!!」

 そう言い放つ狼牙の目は、これまでの
 どの狼牙の目よりも光り輝いていた。

「狼牙……。」
「狼牙さん……。」
「狼牙……。」
「マスター……。」
「斬真君……。」
「狼牙さま……。」

 その熱い言葉を聞いて、六人の少女達は
 狼牙の熱い思いを改めて感じ取る。

ぇえぃ!!黙れ!黙れ!!黙れぇぇぇぇい!!!!!!

「五月蝿ぇよ。」

 逆上するDrラグナロクに、更に話し掛ける。

「テメェのやってる事は、世界中に第二第三の
 カトリーヌを作る事以外の何物でもねぇんだよ!」

「……!!」

 その言葉を聞き、何かを悟った様に
 目を瞑り苦笑するバイラル。

「……フ……そうか……。」

「そうだな……。お前の言う通りだ……。」

「知らずと、我々も奴と同じ過ちを繰り返していたのだな……。」

黙れゆぅたろぉぉぉぉ!!!!

 だが、Drラグナロクの逆上は収まらない。
 それどころか逆に火に油を注ぐ結果となる。

私は天才だ!!!!!!医学者とはな!!
 天才とはな!!

己が理論の為に全てを犠牲にする権利が有るんだよ!!

 余人には到底理解し難い、
 独善的な理論を展開するDrラグナロク。

て言うか、貴様らホーリーフレイムも
 同じ穴のムジナだろぉぉがぁぁぁぁっぁ!!!!!!!

 更に、ホーリーフレイムの面々を攻め立てる。

 だが、それに対してエクレールは毅然と言い放つ。

「そうですね……それを否定するつもりは有りませんし、
 責任を負わなければなりませんわ。」

「けれど…けれど……」

「悪事に対しては、責任を取らなければいけないんです!」

「私達は、確かに独善的でした……。」

「でも、貴方のした事も悪い事だというのも判ります!」

「法が定めているからとか、神が決めたとか、
 そういう事ではなく……」

あなたのした事で、泣いている人達がいるから!

「だから、私はそれが悪い事だと
 断言する事が出来ますわ!!」

「きぃ、貴様らがそんな事を言えた口かぁあぁっぁ!!!!」

 だが、逆切れ状態のDrラグナロクを尻目に、
 エクレールは更に続ける。

「確かに、私達が独善的だったけど……。」

「けど、今は違う!」

「少なくとも、私達は変わりたいと思っています!」

「Drラグナロク…いえ、須田大介!!」

私は、あなたを許しませんわ!!!

 言い終わると、Drラグナロクに向かい、
 凛とした瞳を向けるエクレール。

黙れ!黙れ!!小娘如きぃがっっぁ!!

 だが、Drラグナロクは
 エクレールの言葉に全く聞く耳を持たない。
 最早こうなっては馬耳東風状態である(?)。

 そして、ルシェルドの真核、
 即ち神化体が起動し始める。

(32 terrible beat W)
「フ…フハハ…ファハハハ……
 やはり、やはりカトリーヌが言っていた事は本当だった!!
 ニュータイプ理論は正しかったんだぁ!!」

 起動し始める神化体を見て、狂喜する。

アァ〜〜〜ッハッハッハッハッハッァ!!

「イザベルめ!!!!ざまぁ見ろ!!ざまを見よ!!!!!!!!」


見ろ、この神化体を!神々しく、それでいて力強い……
 これぞ人類を神人{ゴットメンシュ}に導く道標よ!!

「さあ、神化体よ!!人間を神人{ゴットメンシュ}に
 導けェェあああぁぁ〜ははははははははははぁ!!!!!!!!!!

 神化体のエネルギーを受け、つまるところ、
 一言で言えばパワーアップするDrラグナロク

「くっ……!!」

【デスマッチ vsアヌビスグライブ、Drラグナロク】

略{りゃ}ああっ!!

 八本のメスで襲い掛かってくるDrラグナロク。
 神人と化したDrラグナロクのその超神速の動きに
 狼牙達は全く攻撃を当てる事が出来ない。

「どうしたどうしたぁ!!」

「くっ!!」

 まだ1分足らずしか経っていないにも関らず、
 狼牙軍団はじりじりと手傷を負わされ、
 満足に立っている者さえいない状態となる。

解剖{バラ}してやるぜぁぁぁぁ!!!!

 『刻む!!』が発動する。刻む!!……
 音速で移動し、音速で斬り刻む技。

 その速さ故、本人ですら何を斬ったか
 認識出来ないという。 

 その術技を持って最後の仕上げに入り、
 そして、最初の標的を憎きバイラルに決定する。
 だが……

「!!?」

 突如、アヌビスグライブが後ろからの抱擁によって
 Drラグナロクを拘束する。

「アヌビスグライブ!!?私を裏切るのか!!?」

 その隙をバイラルは逃さなかった。

 かいしんの一撃!!
 Drラグナロクに痛撃が決まった。


(23 silence..)
「あ…アホな…!!何故だ!!何故神人{ゴットメンシュ}となった私が…
 貴様等凡人に……!!」

 自分の敗北を信じられないかの様な顔付きで
 絶叫するDrラグナロク。

 その口からは大量の吐血が認められる。

天才のこの私が何故ェェェェ!!!!

「いや……否…否否!!!!!!そんな事は問題では無い!!」

何故だ!!何故ニュータイプ理論を!!進化を拒む!!
 何故私達の理論を侮辱!!侮蔑!!拒否!!嫌悪!!否定する!!

 半狂乱……否、全狂乱で吼えるDrラグナロク。
 その姿には、科学者として、人間として、
 一片の知性の欠片も無かった。

「否定はしない…。だが、誤った理想の成就がもたらすのは、
 多くの犠牲を礎に作られる快感と優越感だけだ。」

 静かに諭す豪。だが……

黙れ黙れ黙れェ!!!

 全狂乱状態にあるDrラグナロクは全く聞く耳を持とうとしない。
 それどころか、更に狂乱状態に拍車をかける。

ニュータイプ理論を……カトリーヌの無念を……成就!!するまで!!
 須田大介は負ける訳にはいかんのだぁ!!!!

 そう言うと、尚戦闘を続けようとする。
 その姿には、悲哀すら感じる。

「違います……あなたは……」

「あなたは間違っています!!」

 マリーシアがDrラグナロクを説得しようと試みる。

「大切な……命よりも大切な人……
 それを失った悲しみ……だけど、だけど……」

「失った人の痛みは……大きいけど……
 私だって……よくわかるけど……。」

「歌に癒される人がたくさんいて……」

「そして集まった収益で怪我や病気で困っている
 何百、何千……もしかしたら何万人の人々が救われる……」

 祈る様な仕草で、尚説得続ける。

「それから、ずっと、ずっと一生懸命に生きてきた……
 優しい人達の、ちっぽけだけどささやかで大切な幸せ……。」

「どんなに悲哀しいからって、台無しにしていい権利なんて、
 どこの誰にだってありはしません!!」

 目尻に涙を浮かべ、必死に訴えるマリーシア。だが……

「小娘がァ!!知った様な口を聞くな!!」

 だが、Drラグナロクはこの一言で否定し、
 聞く耳を持とうとしない。

「誰かの夢や希望……そして暖かな暮らしを犠牲にしてまで
 なしとげる復讐なんて……」

 そして、エクレールも説得を続ける。

「どんなに想いがつよくたって……
 どんなに苦しくったって……
 どんなに悲哀しくったって……」

「他人を犠牲にしてまでかなえる願いなんて……
 かつての私達と何ら変わりませんわ!!」

「それがどうした……。」

 Drラグナロクの目から更に滝の如く血涙が流れる。

「大好きだった人{カトリーヌ}……自分の全てだった人{カトリーヌ}……」

 フラフラと歩きながら呟{つぶや}く。

「狂おしい程に愛して、大切な人を無くした……何もかも失った……」

「復讐が……目的が果たせるなら……命も愛も……何もいらないさ……!」

 狂気の振る舞いの最中、寂しげに呟{つぶや}く。

「だけどあなたは、目的の為に一生懸命に生きている人々を……
 踏み躙ろうとしていますわ!」

「ただ生きたくて……ただ大切な人を守りたくて……
 精一杯頑張っていこうとする人がいる……」

「今生きている……命よりも大切かもしれない愛した人がいる……
 カトリーヌさんはそんな事を希望むんですか?」

 目尻に涙を浮かべ、必死に訴えるエクレール。

 自嘲的な笑みを浮かべ、なおも血涙を流すDrラグナロク

「理解っている……理解っているさ……そんな事は……
 だが、もう止れない……止ってしまったら……。」

「私の十数年と、この手で殺めた者達と……
 カトリーヌは……どうすればいいというんだ!!」

 血に染まった手を見、絶叫する。

「悪と罵しっても構わない。鬼畜と蔑んでも構わない……
 カトリーヌが微笑んでくれるなら……」

 尚、戦闘態勢に入るDrラグナロク。
 だが、アヌビスグライブが諌めるかの様に
 その前に立ち塞がる。

「アヌビスグライブ……!!」

「そこをどけ!!」

 手を横に振り、どく様に命ずる。だが……

 アヌビスグライブは無言でDrラグナロクを抱きしめる。

「もしかして……カトリーヌ……君なのか……」

 アヌビスグライブをカトリーヌと呼ぶDrラグナロク。
 
「カトリーヌ……」

 その時、カトリーヌの意識とDrラグナロクの意識が交わりあう。

 ニュータイプ理論の為にDrラグナロクを苦しめる事に、
 大勢の人々を苦しめている事に、
 悲しみを抱いている事と……

 そして、今でもバイラルを愛しており、
 バイラルの幸せを願っている事を……
 
「フ……」

 アヌビスグライブ……カトリーヌの真意を知り、
 Drラグナロクは自嘲気味の笑みを漏らす。
 
「人は一人では生きていません……。」

「だからあなたはカトリーヌさんを好きになったんだと思います。」

「自分の汚い部分、嫌らしい部分、見たくない部分から
 逃げず、誤魔化さず、他者への攻撃にすり替える事無く、
 ネガティブな感情を骨の髄まで味わい尽くす……。」

「『ありのままでいい』『今の自分が好き』というのは、
 そうした痛みを乗り越えた時にだけ、
 初めて意味を持つ言葉だと思いますわ。」

「決して、自分と真正面から向き合わない為の
 『言い訳』の言葉じゃない……。」

「自分が自分を許せなければ、他人を許せる筈もない……。」

「私達は……。」

「自分の中の傲慢・嫉妬・苦痛・恐怖・偏見……
 目を背けたくなる様な自分に、
 真正面から向き合ってこなかった事に気がつきました。」

「時には、何かにすり替えて誤摩化し、
 時には、他人を責めるたりもし、
 今まで自分と向き合う事から逃げて来ましたわ。」

「『許す』という事は、自分と真正面から向き合い、
 そういう醜い自分も受け入れるという事。

「それが出来た人だけが、
 本当に、自分を許せる事の出来た人だけが……」

「本当の意味で、自分以外の誰かを、
 他人を許す事が出来る…。」

「どす黒い血に染まっってしまったこの剣でも……
 綺麗な歌を……次代を担っていく優しい人々を護る事が出来る!
 それを……大好きな人達が……教えてくれたから……!」

「私もマリーシアや剣道、他のみんながいたから頑張れた……。」

一人じゃないから……。

「もう二度と誰も犠牲にしたくない……
 大好きな人達と……『みんなと生きて幸せになりたい』……。」

「これが私達の答えですわ。」

「フン……。」

「だが憶えておくがいい……貴様等は何れ悟る……」

「人類は……人類はいずれは
 進化しなければならない事をな……。」

「でなければ……人類に待っているのは…
 進化無き滅び……ただそれだけだ……!」

 そして、最後にアヌビスグライブにもたれかかり、
 呟{つぶや}く。

「カトリーヌ……君の元へ……導いて……。」

 そう言うと同時に、眠るが如く息絶えるDrラグナロク。

 アヌビスグライブはDrラグナロクの遺体を抱き抱{かか]え、
 闇に消え去る。

 闇に消える際、アヌビスグライブは
 心なしかバイラルを見た様に感じられた。

「奴にとっては『人類の進化』も、『人類滅亡の危機』も、
 神威の目的も如何でも良かったんだろうな。」

「奴にとって重要なのは、愛した女の研究と理論が
 事実であると証明する事だったという事だ。」

「愛情に溺れるあまり人の道を見失ったか……
 奴も実に哀れな男だったという事だ……。」

 悲しそうな顔でそう結論付ける豪。


本陣へ撤退
本陣へ撤退
撤退
撤退